吉田荘会議
「そうですね。私はそんなモノかなと思います」
「俺もそう思います。なにかあっても、緊急対応案件に回せば良さそうですしね」
「なるほど、それは名案です」
「じゃあ、一つ一つタスク分解していきます」
つれさんは、
パソコンに何か入力していく。
送迎⇒保育園送迎、学校送迎、習い事送迎、買い物同行
食事⇒献立作成、買い出し、調理、配膳、片付け、食材管理
洗濯⇒洗濯、乾燥、たたむ、収納、衣類購入
掃除⇒部屋、風呂、トイレ、キッチン、ごみ出し
入浴⇒お風呂準備、着替え、歯磨き、寝る準備
病院⇒通院、予防接種、薬管理、保険証管理
保育園・学校⇒登園・登校、持ち物確認、行事参加、面談、提出物
役所⇒児童手当、健康保険、住民票、福祉手続き
緊急対応⇒発熱、ケガ、事故、災害、呼び出し
金銭管理⇒家計、食費、生活費、教育費、貯金
成長管理⇒身長体重、服の買い替え、発達確認
メンタルケア⇒話を聞く、遊ぶ、叱る、褒める、不安のケア
「ざっとこんな感じですね」
つれさんは画面を見せる。
「うわ。なかなかの重労働ですね」
なるさんは苦笑いをした。
「あの、違ってたらごめんなさい。SEさんって、自動化が好きなんじゃなかったですか?」
私は尋ねた。
「おっしゃる通り、ただ自動化の前に、本当に必要なもの、必要でないものを分け、必要でないものを削るのが、真のSEだと僕は思ってます」
「それ面白いですね。俺の仕事でも使えそう。この画面の中なら、何を削りますか?」
「献立作成は、毎週同じメニューにすれば、なくなります。すると連鎖的に買い出し、調理、食材管理も少なくなります」
「極端に言えば、毎週金曜日はカレーみたいな感じですか?」
なるさんは尋ねる。
「そうです。メニューを決める時間がゼロになります。」
つねさんは笑った。
「しかも大量購入できますね。
食事メニューをシンプルにすれば、ディスカウントも可能なのでは?」
私は言った。
「それはあります。業者価格は大概一般価格より安いですから。俺は購入系は得意です」
なるさんは言った。
「見てる感じだと、一番大変そうなのは、食事の準備っぽいですね」
つれさんは言った。
「そうですね。
食事の準備は全員分。
他はあゆむの分だけですからね。
しかし全員が時間が読めないなら、どうするかは揉めそうですね。
不公平感もあるし」
私は尋ねた。
「だから担当制にはしません。
タスク制です。
一人に『食事担当』を任せると、その人が疲弊します。
だから『今日は夕食だけ』『今日は送迎だけ』というように、小さなタスク単位で分担します」
「タスク制ということは、一つ一つの仕事をブラックボックスにしないで、マニュアル化して、誰でもできるようにして、空いてる人がする。
それで一日分のタスクをいくつ解消するか、みたいなのを決めるということですか?」
私は尋ねた。
「なるほど。その発想はありませんでした。マニュアル化までできれば、かなり事故は減りそうです」
つれさんは言った。
「俺もそれは良いと思います。それだと誰かが潰れた時、担当が不在で動かないってのを解消できますからね。
ただ問題が一つ、手続き関係とか、病院関係だと、連絡ミスがあるから、ちょい危険だと思います」
「それなら連絡窓口は一人に絞るといいでしょう」
「つまり?」
俺は尋ねる。
「実作業は誰でもできます。でも責任者は一人だけです」
「なるほど。病院の予約を取る人は一人。でも病院へ連れていくのは誰でもいいと」
なるさんは確認をした。
「そういうことです」
つれさんは言った。
私たちは、
それからさらに業務内容を詰めていくことにした。
そして数時間した頃には、
大枠が決まっていた。
……
続いて。
すずりさん、向さん、心さんを交えての打ち合わせだ。
私はこう切り出した。
「あの。まずハッキリさせたいので、
吉田荘を出ようかなって思っている人いますか?」
私は尋ねた。
三人とも首を振る。
「私は親もいないし、ここ出たら行くところがないです」
すずりさんは俯いた。
「俺もだ。ここ出たら行くところがない」
向さんは言った。
「私もです」
心さんも手をあげた。
そうか。ここにいるのは、皆同じような状況なのか。
「大家と言えば親も同然
店子と言えば子も同然」
私はふとそう呟いた。
「懐かしいね。吉田の婆ちゃんがよく言ってた」
すずりさんは目を潤ませた。
「ここにいる連中は、少なからず、吉田の婆ちゃんに世話になったんだろうな」
向さんは大きくため息を吐いた。
「お節介というか、世話好きというか……」
つれさんの目は赤くなっていた。
「それで私たち三人が、あゆむ君の生活支援人になることになりました」
私たちは頭を下げる。
「ただ、私たちが依頼されたのは、あゆむ君の生活支援人であって、ここの管理人ではないということなのです」
そう言った。
「えっ。じゃあご飯は誰が作るの?」
すずりさんは泣きそうな顔をした。
「例えば、家賃を高くして、管理人を雇うという方法もあります」
「それは困るな。酒代が減る」
向さんは言った。
「私もバイトできないしムリ」
すずりさんは言った。
「私たちが、食事を作るというのは、ありかなとは思っています。でも、基本的にはあゆむ君の生活支援人であって、ここの管理人ではないということなので、他の作業に関しては、皆さんに手伝って欲しいのです」
私は言った。
「お手伝いくらいだったらいいよ。私空手家だし、力仕事は得意だし」
すずりさんは言った。
「俺も手伝いはするよ。建築作業員だから、穴も掘れるし、いろんな雑用はなんでもできる。大工仕事も多少ならできるぞ」
向さんは言った。
「私はルート営業だし、接客とか、お菓子作りとか、そういうのは得意かな」
心さんは言った。
「つれさん、なるさん、こんな感じでどうでしょうか?」
私が尋ねると、
二人は頷いた。
これで、あゆむを迎える準備は整ったとまでは言えない。
ただ心の準備は、
心の覚悟は、
一歩前に進めたそう思えた。




