70.ワームとバカップル
***寛太***
何やら話し込むアクセルさんと柚子、興奮して叫びまくっている兄ちゃんズ。
そして、『ドーン!』の絶好の的をみて、何故これにドーンしてはいけないのかと、カケル様に直談判しているリオ。
なかなかに、カオスだ。
眼下には、超巨大なワームから繰り出されるねばねば攻撃を、必死でかわしながら反撃を仕掛ける人々がいる。
結界が無いから大変だ。僕は素直に柚子の結界に感謝した。
きっとあのねばねばからも守ってくれるだろう。
状況はあきらかに人がわの不利。
たった数分で、攻撃や、攻撃魔法より、撤退や治癒魔法の発動のほうが目についてきた。
「かんちゃーん!ちょっと行ってきて!」
柚子がそう言ったかと思うと、僕の体は宙に浮いて、自分の意志とは無関係に騒乱の中心地に運ばれていった。
「ワームを人のサイズくらいに変換して、『今です!倒して。3分しか小さく出来ないんです!』って叫ぶのよ!」
パニックになった僕は何も考えられず、とにかく言われるがまま、無我夢中で大混乱の中心を駆け回り、同じことを繰り返し言いながら、魔法をかけて回った。
*****
疲れた。とにかく終わった。ぐったりする僕の周りを大歓声が取り囲んだ。
「おぅ!ちびっこ。大活躍だな!」
「あんな魔法初めてみたよ!無敵の魔法だな!」
冒険者たちは寄ってたかって僕をもみくちゃにして、ガハハハと笑っている。遠くで柚子が満足そうに笑っていた。
馬鹿でも分かる。柚子は僕をこの世界で役に立つ人物として認知させたかったんだろうな。
別におまけ扱いに不満なんてないのに。
陣に戻ると、ドガルさんに熱い抱擁をされた。暑苦しすぎてすぐに脱出した。
「すげぇなんてもんじゃ、ねえな!サイズ変えられるってこたぁ、こういうことなんだな。いやはや恐れ入った!でも、なんで虫サイズに小さくして、自分で踏みつぶさなかったんだ?そこまで小さくは出来ねえのか?」
「………。」
できる。
できるけど、あの時は急に変異体ワームの前に飛ばされて、柚子に言われるがままにとにかく夢中でやっていて気づかなかった……。
「あら、嫌ねぇ。そんなに簡単にこっちでやっちゃったら、冒険者の論功行賞がどうのって言ってたじゃない。あれなら、最後に倒した人がご褒美をもらえて、私たちは恨まれないし」
「それに格好いい寛太さんを見られますし。人々に感謝される寛太さんをみると誇らしいですしね!」
そう言い終わるが早いか、アクセルさんが吹っ飛んだ。
人に擬態して力を絞っているとはいえ正真正銘のドラゴンを吹っ飛ばしたのは柚子だった。電光石火の早業だった。
強大な力を持ちながら、人の世で生きる処世術を説いていたアクセルさんだが、乙女心は学習してこなかったらしい。
僕は、かなり気恥ずかしい。でも、嫌じゃなかった。
「おいおい、バカップルってやつか?彼氏の素敵な姿が見たいわ!お願い!ってやつか?」
「なんとも規模のでっかいバカップルだね」
渉と光太は苦笑いしながらアクセルさんの埋まっている岩の様子を見に行った。
空気の読める大人のギルマス、ドガルさんは、
「あ~、俺は救護所の様子をみてくるわ。怪我人続出で生きた心地がしなかったからな。今日は本当に助かった。ありがとう」と、とっとと退散していった。
「ギルマス!報奨金の話をしましょう!」とわざとらしいセリフを吐きながらドガルさんを追いかけていったのはピート。
あれ?このままみんないなくなったら、柚子と二人きりで残されるのでは!?僕は、そんな空気をどんな会話で乗り切るか考えていた。
が、
「かんた!わっち、ドーンいく!すぐいく!ドーン、かんた、ちいさくする、ダメ!!」
リオに猛烈に抗議されて、抱き付かれ、揺すぶられた。
となりから子犬の同情するようなまなざしを感じたが、無視しておいた。




