パン屋のポーラと画家のリュシアン①
毎度すみません、遅れております、、、!
ハンスはヘルケから頼まれたパンを買うために商店街を歩いていた。
パン屋はヘルケ商店から3店舗先にある。
商店を通り過ぎたハンスはバゲットを模した鉄看板が掲げてある木組み造りの2階建ての建物の前で止まった。
『パン屋 ミュラー』
ハンスは早速木製の扉を開けて店内に入る。
木壁に囲まれた店内は温かい雰囲気に包まれてている。
入って右側にガラスのショーケースがあり、中に焼きたてのパンが陳列してある。
注文を受けた店員がショーケースからパンを取っていくスタイルだ。
店員の後ろの壁にも壁棚にバゲットなどの大きめのパンが並び、豊富な種類があるのがわかる。
店内では主婦や昼食を買いに来た若者たちが列をなしている。
店に入ったハンスは早速その列に並ぶ。
「ありがとうございましたぁ」
柔らかな口調で主婦を送り出した茶色スカートの伝統衣装に身を包み、頭に白い三角巾を付けた売り子の女性はハンスも昔から知っているポーラという女性だ。
金髪の長い巻き髪に青い瞳を持った美しい顔立ちをした若い女性だ。
確か22歳くらいだった気がする。年齢にしてはかなり落ち着いており、豊満な胸もあってから滲み出た母性と包容力がある。
ハンスも小さい頃に妹と一緒に遊んでもらったことがある。
既に70を過ぎた店主のミュラー夫婦を手伝って、パン屋で売り子をしている彼女は、その見た目と雰囲気から若い男性に人気だ。
男はパンを包むための布をポーラの前にあるショーケースに上に置いた。
「ライ麦パンとプレッツェルを一つ。それと、今度の週末お茶でも行きませんか」
若い男性は注文と共にデートの誘いをする。
常連客であるハンスや男の後ろに並んだ女性たちは、いつものか、と心の中で思った。
ポーラは男性客に人気なことから頻繁にこうして客からデートに誘われる。
ポーラは「ライ麦パンとプレッツェルですね~」と言いながら、ガラスのショーケースからパンをトングで取り、布の上に置いていく。
しかしまだ、その男性客の誘いには答えない。
ポーラはパン用の布にパンをくるむと男に笑顔で手渡しながら一言。
「ごめんなさい、そんな時間は無いの。ご来店ありがとうございましたぁ」
ポーラの笑顔に一瞬期待した表情を浮かべた男だったが、予想外の返答に意気消沈する。
男はそのまま肩を落として店を出て行った。
男の後ろに並んでいた主婦がポーラの前に立つと呆れた表情で言った。
「毎日毎日、ポーラちゃんも大変ねぇ」
その言葉にポーラは顔に手を当てため息を着く。
「そうなのよぉ。いろんな人にずーっと断りを入れてるのに、新たな男が次から次に......どうにかならないかしら」
「アンタ、それだけモテて羨ましいわ~アタシなんてからっきしだったものぉ」
「あら、ハンナさん今もとっても綺麗だし、若いころも気づいてないだけでたくさんの人がきっと想いを寄せてたと思うわぁ」
「あらまあ、やだよ~お世辞なんて言ってくれちゃってえ。おっと、バゲットを三本くれるかい」
「お世辞なんかじゃないわよぉ。バゲットね、ちょっと待っててぇ」
ポーラは談笑しながらその後の主婦や常連客たちをさばいていく。
そしてハンスの番になった。
「こんにちは、ポーラさん」
ハンスが挨拶すると、少し驚いた表情をしたポーラが優しい口調で返す。
「あらあら、ハンスちゃん。少し久しぶりねぇ。元気してたぁ?」
ポーラの言葉に、ハンスも返す。
「はい、変わりなく」
そう答えたハンスの顔をポーラは青い瞳でまじまじと見つめる。
「なんだか、表情が明るくなったんじゃない?噂の女の子のおかげかしら」
「噂って何ですか?!」
自分が知らない所で何か噂になっているのかと、思わず反射で尋ねるハンスだったが、ポーラは笑顔だけ返す。
「ふふ。何でも無いわよぉ。で、ご注文はなにかしら~」
穏やかに話を逸らされたハンスはこれ以上食い下がれずに、仕方なく当初の目的であるバゲットを注文する。
「......バゲット五本下さい」
「はぁい」
ポーラは笑顔で注文を受け、後ろにある壁棚からバゲットを取る為振り返った。
その時、新たな客が一人店に入ってきた。
ポーラがバゲットを取って振り返ると、その青い瞳が見開かれる。
「トロックナーさん......」
知人の名前にハンスも振り返る。
入り口に立つトロックナーは紳士的な笑顔で微笑む。
「やあ、ポーラ。明日の朝食の分のパンを買いに来たよ」
さて次話は明日投稿です!よろしくお願いします!




