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ロビンの仕事

遅くなり申し訳ない!表現、わかりにくいとこ、あるかもです!すみませんっ!

 夜営業が終わり、帰路につくハンスとかずさは静かな夜の街を歩いている。

 

 ハンスは激務に加え、ロビンとヘンリーのやり取りを目の前で見せられ、普段より倍の疲れを感じている。

 そんな疲れた様子のハンスにかずさが横から声をかける。

「いつもより疲れてるね、ハンス。大丈夫?」

 心配している当の本人はまさか自分が原因だという事に露ほども気づいていない。

「いや、大丈夫.....ありがとう」

 そういいつつため息を吐くハンスはあの後の事を思い出す。


 結局、『対ハンス戦線協定』は白紙撤回という結果に終わったものの、恋敵二人はなんだかんだは意気投合して、帰る頃には一番の敵はハンス、という認識で結束を深めていた。

 復活したヘンリーは帰り際にかずさの手を両手で握り、「その衣装すごく似合っています、また来ます!」と言って、来店時よりも明らかに元気になって帰って行った。


 ロビンもしっかり飲み食いしていった後に「レッカーのおっちゃん、今回もちゃんとハンスの給料から差し引いといてや」と念押ししてから去って行った。

 

 悩みの種がまた増えた、と再びため息を吐くハンスをかずさは体調でも悪いのだろうか、と心配そうに隣で見つめる。

 





 翌日、午後の営業を終え、昼休憩を迎えた『レッカーハウス』。

 かずさは昨日、”ミコ”衣装を着たおかげか、今日は普段着の薄い桃色の伝統衣装で働くことを許され、いつも以上に上機嫌だった。


 かずさは片づけをしているところ、エレナが声をかける。

「かずさちゃん、今日まかない食べた後でいいから、ちょっとロビンの所にこれ持っていってあげてくれない?」

 エレナはサンドイッチが入った籠に上から布をかぶせながら言う。

「あ、はい、わかりました」

 かずさが顔を上げて返事をするとエレナは続けて言う。

「ありがとう。昨日聞いたけど、ほらすぐそこの教会で今仕事してるって言ってたからさ。シュライナ―の分まで言ってるから、二人で食べなって言っといて」

 シュライナ―という初めて聞く名前に疑問を持ちながらかずさは、わかりました、と返事をするとその籠を受け取った。


 キッチンで片づけをしつつ、この後レッカーとの練習があるハンスは、

ーーエレナさん、余計なことを。

 などと内心愚痴りつつそのやり取りを見ていた。



 「では、ロビンにお昼渡してきます」

 片づけを終え、賄いをすぐに食べ終えたかずさは籠を持って外へ出た。


 今日はきれいな快晴で、気持ちの良い天気だ。

 

 かずさは目の前にある教会の入り口前に立つ。

 目の前の木製の分厚い扉はかずさの三倍はあろうかという大きさで、荘厳な作りをしている。

 ノックをしようかと一瞬拳を握ったが、ここは家ではなし、これまで教会をノックしている人など見たことがないと、恐る恐る開けた。

 静かに中に入ったかずさは初めて見る教会内部に感動する。


 故郷の社とは全く違う、全て石造りの教会は外からの音などほとんどせず、ただ静かな静寂で満たされている。

 石造りの構造上そうなるのか、内部の気温は外よりも少し肌寒く、少しだけ薄暗い。

 

 しかし、色鮮やかなステンドグラスから差し込む光の美しさもまた引き立ち、神聖な場所であることを全身で感じさせられる。かずさが教会を見回しながら一歩一歩踏み出すと、コツコツ、とブーツの音が静かに響く。

 教会の一番前の祭壇には大きな十字架があり、そこに向けて光が差し込んでいて何とも神々しい。

 

 かずさは壁沿いに宗教画を興味深く見ながら歩いていると、カーンと教会中に響き渡る金づち音が聞こえた。

 かずさが音をした方向を見ると、何十列にも整然と並ぶ教会のベンチの一つが倒されており、そこでロビンがノミを金づちで打ち、何やら木製部分の床を削っている姿が見えた。

 いつもは陽気でひょうきんな印象のロビンだが、今見せる表情は真剣そのもの。いつもの騒がしさなど全く無く、ただ静寂の中金づちを打ち込んでいる。


 かずさは邪魔しないようにゆっくりと近づき、ロビンの後ろで膝を曲げて座るとその初めて見るロビンの仕事姿をまじまじと見る。

 

 よく見ると、ロビンはどうやらベンチの脚部分を差し込む土台部分の穴を慎重に掘っているようだ。

 その様子を見てかずさは感心する。

「ロビンってこういう仕事してるんだね......」

「へ?」

 かずさが無意識に出した声にロビンが反応して振り返った。

 声に出てしまっていたかと、かずさは申し訳ない表情で謝る。

「ごめんロビン、邪魔するつもりはなかったんだけど、ついつい見入ってしまって......」

 ロビンは身体を起こすと息を吐く。

「はぁ~驚いた~。すぐ後ろに誰か居るとは思わんかったで~。さすがに集中しているとはいえ、後ろにいたら気づきそうなもんやのになぁ。で、何か用なん、かずさちゃん。あ、用なくてもいつでもしゃべりに来てええんやけどな。かずさちゃんならいつでもウェルカムや」

 話し出したら急にいつものロビンに戻った、とかずさは内心驚きつつ、エレナから受け取った籠を掲げて言う。

「あ、シュライナ―さん?とロビンに、エレナさんからお昼の差し入れだよ」

「え、ほんま?!ありがたいなぁ~。親方は今ちょっと出てるから、戻ってきたら渡しとくわ。昼休憩もまだやし、早速食ってええ?」

 ロビンの言葉にかずさは頷く。

「もちろん」



 ロビンとかずさは聖書などが置かれている礼拝用の他のベンチに座って食べるのもどうかと考えた末、後ろの方へ行き壁にもたれて床に座ることにした。

 この位置からは教会全体を見渡せる。

 ロビンはさっそくサンドイッチを手に取ると、口に頬張った。

「んー、うまい。さすがエレナさんや」

 かずさも店から他の用事は頼まれていないため、ロビンが食べ終わるまではしばらく居ることにした。


「ロビンはこういう仕事してるの?椅子作ったり、補修したり......」

 ゴクンと飲み込んだロビンは口に着いたソースを拭いながら答える。

「せやで。おれは今、補修したベンチをまた床にはめ込むために床部分の穴をすこーし掘ってたんよ。あのベンチも座る部分が壊れてもうて工房で直したものを今設置し直してる。明日からはまた工房での仕事に戻るやろな」

 バクッとサンドイッチを再び頬張るロビン。

 かずさは興味深げにロビンに尋ねる。

「すごいね......新しい物も古いものも両方扱うんだ......ロビンはこの仕事好き?」

 その質問にロビンはニカっと笑う。

「当り前や。この仕事、初めてからずっとおもろいわ。いやしんどいこともあるんやけど、それ差し引いてでも面白さの方が勝ってるわ。見てみぃ、かずさちゃん」

 そう言ってロビンは目の前に並ぶ、古い木製の礼拝用のベンチを見る。

「このベンチ、作られて200年は経つで。それでも今も現役バリバリや。これってすごいことやない?」

 かずさは隣でロビンが目を輝かして楽しそうに語る横顔を見て、初めて話した時のティナに似ているなと思った。

「200年前の仕事がまだ生きてる。俺らの仕事はこうやってずっと未来まで続いてくんや。完全にダメになって使われなくなるその日までは、オレらが補修して重ねて、重ねてそれでもっと長く使われていく。数百年前の仕事に息を吹き込みながら、数百年後まで俺らの仕事が生きていくねんで。めっちゃロマンあると思わん?」

 屈託なく笑うロビンのブラウンの瞳がこの仕事がどれほど好きかを物語っていた。

「新しく作るときもそうや。ずっと長く使われるために作ってる。まあ、オレの技術はまだまだやけど、それを完璧に実現できるようになるのが第一の目標や。その一歩のためにコンテストで絶対に一番になりたいねん。そんでもって、いずれは世界一の木工職人になったる!」

 ロビンは傷だらけの手で拳を握る。

「ロビンは仕事が好きで、目標があるからあんなに集中して出来るんだね。ロビンが仕事してる所、かっこいいよ」

 ロビンはその言葉に目を見開いて驚くと、期待のこもった眼差しで言う。

「そこに、グッときたり......?」

 グッの意味がいまいちわからなかったかずさは小首を傾げつつ、サムズアップした。

「グ......?」

 その反応にロビンは天を仰ぐ。

「ちゃうねんな~。神様、オレの気持ちがかずさちゃんに伝わりますよーに」

 急に胸の前で手を組んで祈りだしたロビンに、かずさは意図が分からず、怪訝な顔をする。


 ちょうどその時、教会の扉が開かれ、ガタイのいい男が入ってきた。

 歳はレッカー達と変わらないか、少し年上の様だ。

 白髪交じりの短髪栗毛の男は、その不愛想な顔をロビンたちに向ける。


「ロビン」

 低い声で発されたその一言でロビンがぴしっと姿勢を正し、立ち上がる。

 かずさも座ったままでは失礼かも、と遅れて立ち上がる。

「サボっていたわけではありませんっ。エレナさんが俺と親方に差し入れを持たせてくれたんで、休憩がてらいただいていました!」

 はぁ、とため息を付くと親方と言われた栗毛の男はツカツカとかずさに近づいて、籠の中のサンドイッチをとる。

「わざわざありがとな。エレナにも伝えてくれ。籠はもう持って帰っていいぞ」

 端的にそう言うと、男はサンドイッチを口に含み、ロビンが作業していた場所へと向かう。

 ロビンはかずさに慌てて言う。

「すまん、かずさちゃん。親方あんな風にいつも不愛想やけど悪気が合ってあんな態度じゃないんねん。堪忍な」

「全然、気にしてないから大丈夫だよ。じゃあ、私はもう戻るね」

 それを聞いたロビンは、ほなまた、と手を振って男の元へと駆け寄って行った。


 かずさは扉に手を掛けてもう一度二人を振り返る。

ーーあの親方さん、ちょっと親父様に似てるなあ。


 懐かしい故郷の父を思い出して少し笑みがこぼれるかずさだった。


ロビン仕事の流儀、でした。好きなことを真剣にしている人ってなんだかかっこいい、そう思う今日この頃です。この後どこかでロビンとハンスの出会いとかも書きたいなと思います。


次回は水曜→木曜0時頃 投稿予定でしたが、実生活が急に立て込みまして、、一日遅らせて、木曜→金曜0事頃に変更させていただきます。申し訳ないです、よろしくお願いします。

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