表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/90

五日後の約束

投稿めっちゃ遅れましたすみません!


 ヘルケの店に入ったかずさはカウンターに近づくと椅子に座っていたヘルケに尋ねる。

「こんにちは、ヘルケさん。さっき綺麗な男の子と強そうな男の人がいましたけど、この街の人なんですか」

 ヘルケはグラスコードが着いた色付き眼鏡を動かし、かずさを見返すと笑う。

「ああ。この街の(もん)さ。うちの常連さん。で、今日は何の用だい」

 ヘルケの質問にかずさは当初の目的を思い出し、籠から出した小麦粉用の袋を取り出す。

「小麦粉とミルクをお願いします」

「はいよ。小麦粉はいつもの量でいいね?」

「はい」

 かずさが答えるとヘルケは袋を受け取って店の奥へと消えて行った。





 時刻は少し巻き戻り、かずさが丁度フリッツを見つけた頃ーー。

 食堂で賄い用のシチューを作るハンスは材料を鍋の中に入れて煮込み始めていた。

 後は待つだけ、とハンスはキッチンの上を軽く片付ける。



「おう!~~.......」

 ハンスが食器を洗っていると、外でレッカーが誰かと親し気に話す声が聞こえ、程なくして店の扉が開いた。

「おーいハンス。客だぞ~」

 扉を開けたレッカーの後ろから見覚えのある茶髪の少年が顔を出す。ハンスと一緒に入り口を見ていたエレナも驚いたように言う。

「あら、ロビンじゃないか。営業中でもないのにどうしたんだい」

 エレナの問いに、ロビンはレッカーの前に出るとハンスをちらりと見てから言う。

「ちょっとハンス借りていってええですか」

 意外な申し出にエレナはきょとんとした顔をして答える。

「構わないけど......」

 承諾を得たロビンはハンスに視線を向け顎で合図する。

「ちょっと面かしてや」

 そう言うとロビンは先に外へ出て行ってしまった。

 

 ハンスは何事かと手早く手を洗い、キッチンから出るとエレナに一言言う。

「すみません、ちょっと行ってきます。鍋見といてくれますか」

「いいわよ~。行ってらっしゃい」

 エレナはハンスを見送ると一人ニヤついて呟く。

「なんだか嵐の予感ね」





 ロビンは外へ出ると店の目の前にある教会の裏手に回ると、少し歩いたところで立ち止まった。店の死角になっているこの場所は今は日陰になっていて薄暗い。

 慌てて追いかけたハンスもロビンの後ろで立ち止まる。

「おい、なんなんだ急に」

 話しかけるとロビンは振り返ってそのブラウンの瞳をまっすぐにハンスに向ける。

「お前、かずさちゃんの事、本気なんやな」

 急に何の話だ、と一瞬反発心を持ったハンスだったがロビンの真剣な眼差しに、真面目な話なのだと誠意を持って答える。

「ああ。オレもアイツの事が......好きだ」

 ハンス自ら直接的な言葉を言うとは思わなかったのか、少し目を見開いたロビンも言葉を返す。

「オレもかずさちゃんの事がホンマに好きや。......だから、オレは今度告白しよう思てる」

「は?!」

 突然の告白宣言に思わず声を上げてしまうハンスだったが、動揺を隠しつつとりあえず思った事を言う。

「初めて会ったその時にプロポーズしてたけどな」

「あん時は思わず言うてしもうたんや!今はあん時よりももっと本気や!」

 尚もしっかりとハンスの目を見つめるロビンは話を続ける。

「五日後、コルツの街で若手の木工職人見習いを対象にしたコンテストが開かれるんや。そこで一番になると、デザインや技術を評価されていろんな街の有名な工房から声がかかるんや。そこで、一番になったら自信を持って告白できる......せやからそのコンテストで一番になったら告白する!!」

 ロビンは話している間、一度も目を逸らさない。それだけ本気だということがハンスにも伝わった。ロビンが告白するがしまいがロビンの自由だ。だが何故それを自分に言うのかがハンスにはわからない。

「で、オレにどうしろと。応援なんてしないぞ」

 その発言に一気に眉間に皺を寄せるロビン。

「アホか、誰が言うかそんな事。お前には当日かずさちゃんをコンテストにつれてきてほしいんや。オレの覚悟を見てもらうために」

 その要望にハンスも反発する。

「なんでオレがそんな事ーー」

「ああ~ハンスはええなぁ~四六時中かずさちゃんと一緒に居れるもんなぁ~。別の男のカッコいい所とか見せたらそりゃ心配になるか~。何せ自分は気持ちも伝えられへんもんなぁ~」

 明らかに挑発してくる幼馴染に頭ではわざとだとわかっていても、ハンスは苛立ちが抑えられなくなる。

「そんなに言うならわかった......だが、一位になれなければあきらめるんだな?」

 ハンスの言葉にロビンもそれは違うと突っかかる。

「あきらめるとは言うてへんやろが!その時に告白せんだけや」

「じゃあ、オレに連れて行くメリットないじゃないか!」

「あるわ!幼馴染の親友の応援や!あと大恩人への恩返しや!!」

 く、自分で大恩人とかぬかしやがる、とハンスは内心思ったが、妹の事もある。食堂の食事を三回分おごるだけではつり合いは取れない、とは自分でも思っていた。そこを突かれると痛い。

 ハンスは嫌々ながらもロビンの願いを聞き入れる。

「話はわかった.....が、休みが取れるかはわからないからな。取れなかったら断念するんだな」

 ロビンは潔く頷く。

「ああ、それでええ。お前も無理やりかずさちゃん襲うような事するなよ。まあ、そんな度胸も無いやろうけど」

 「するわけ無いだろバカ」

 と言い返しつつ、物理的にも無理だしな、とハンスは思う。



 話を終えた二人は食堂の前へと戻った。。

「じゃあな」

 ハンスが扉を開けて店に入ろうとすると、ロビンも何故か店の中へと入って来た。

 店内には煙草を吸い終えたレッカーがキッチンのシチューを混ぜ、エレナもまだ客席のソファーで帳簿とにらみ合っていた。

 ロビンはそんな二人に向けて言う。

「五日後ハンスとかずさちゃん休みもろてもええですか~?三人で遊びに行くので」

「おい、ちょ、何言ってんだ」

 ロビンの言葉に二人は顔を見合わせるとお互い頷き合った。そしてエレナが答える。

「いいわよ~。楽しんできな」

 笑顔で返すエレナにロビンはガッツポーズして喜ぶ。

 ロビンの軽いお願いがこんなにすぐに通るとは予想だにしなかったハンスは扉に寄りかかりながら項垂れた。




さて、ここまで読んだ方にはもう言っていいかなと思います。ハンス達がいるゾンダーベルクはドイツに実在する街「ハイデルベルク」をモデルにしています。グーグル散歩してみると面白いかもしれません。

次話は日曜日投稿予定です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ