閑話 デート
閑話と言いつつなかなか大事なシーンがある、、気がします!ハンス、かずさ、ロビン推しは読んだ方が良いです!よろしくお願いします!
ーーこのお話はep 57怒りの午前中のお話ですーー
空が白み始めた朝、ハンスはいつもより遅い時間に目覚めた。
最近は急に寒くなってきたため、布団から出にくい季節になった。
このまま布団の中に籠っていたい衝動を振り払い、何とか布団を剥ぎ取り身体を起こす。 顔を洗うため外にある共同井戸へと出て水汲みがてら顔を洗いに行く。
桶に入れた手が井戸の冷たい水でしみる。
ハンスは家から持ってきた水桶に水を入れて足早に家に戻った。
さて、次は朝食の準備だ。毎日パンにチーズやハムを挟むだけの朝食だが、今日は仕事も無いため時間に余裕がある。普段作らないメニューにしようとハンスは考えた。
限られた食材の中で何にするか頭を回すハンスは、最近西の隣国ブロンツから伝わってきた”クロックムッシュ”を思いついた。パンと卵、牛乳を使う点ではフレンチトーストに近いが、その間にチーズとベーコンを挟んで焼いたもので、朝食には打ってつけだ。
いつもと食べる食材は変わらないのに、ひと手間加えるだけ大きく変わる。
それでも時間に余裕があるため、野菜スープでも作ろうと鍋をキッチン下から鍋を取り出した時、ちょうどかずさがショールを羽織って起きてきた。
「ハンス、おはよう......」
まだ眠そうなかずさにハンスは振り返る。
「おはよう。まだ寝てていいぞ、少し時間かかるし。それか茶でも飲むか?」
その問いかけにかずさは窓際に置いてあるテーブルの椅子に座ると答えた。
「うん、お願い......」
目を擦るかずさに苦笑しながら答える。
「はいはい。食事ももうすぐできるから少し待ってろ」
ハンスは紅茶の分も湯を沸かすことにした。
かずさは受け取った紅茶をちびちび飲んでぼーっと窓を眺めていると、ハンスが立つキッチンからジューという何か焼ける音と共に美味しそうな良い匂いがしてきた。
しばらくすると調理が終わったのか、ハンスはそのいい匂いがする黄金色に少し焦げ目の付いたパンにチーズとベーコンが挟まれたものと、カップに注がれた野菜スープをかずさの前に置いた。
目の前に置かれた初めて見る食べ物にかずさの目は一気に冴える。
「こ、これは......」
好奇心いっぱいの瞳で見上げてくるかずさにハンスはまた笑う。
「クロックムッシュっていうらしい。最近こっちに伝わってきたやつなんだけど、食材はいつもと変わんないのに、すごく旨そうだよな。ちょっと時間があったから作ってみた」
「く、くろっくむっしゅ......」
ハンスは自分の分を持ってかずさの前の席につくと、目の前に座る朝食に首ったけのかずさに言う。
「じゃあ、食べるか」
「うん!」
二人は手を合わせる。
「「いただきます」」
早速かずさはナイフとフォークでクロックムッシュを切り分ける。すると出来立てだからか、切った断面からチーズがこぼれ出てきた。
かずさはそのまま切ったひとかけらを口に入れた。
「お.......おいしい!!!」
相当気に入ったのか切っては食べて、感動してを繰り返すかずさにハンスは言う。
「アンタ本当に食べるの好きだよな」
それを聞いたかずさはハンスに目を向けてニコリと笑った。
「ハンスの料理を食べるのが好きなんだよ」
またすぐにクロックムッシュに集中するかずさだったが、そのかずさの何気ない言動はハンスの心臓を見事に打ち抜いた。
「クッ......」
ハンスはかずさの目の前で一人静かに悶える。
あっという間に全て完食したかずさは初めてハンスが何やら苦しんでいる様子に気づき小首を傾げた。
二人は朝食後、ティナとの午後の予定までどうするかを話し合う。
「この後どうしようか.......。約束まで時間はあるし、天気はいいし.......ティナが言ったみたいにデートしようか。どこか行きたいところある?」
かずさはデートの事をただ仲の良い男女が一緒に遊びに行くことだと思っている。
しかし、今の状況だと少なくともハンスには好意があるわけでーー、デートと言えなくもない。
「デ、デデデデート、行くかっ」
言いなれない言葉と緊張のために稀に見る噛み方をしたハンス。
あえて、デートと口にしたのは、今のうちに『デートをした』という事実だけでも積み上げておこうという思惑からだ。
「うん。どこ行く?」
そんな思惑など露知らず、真のデートの意味も知らずに純粋な目を向けてくるかずさに若干後ろめたさを感じつつ、ハンスは答える。
「ええっと、広場に前から気になってたカフェがあるんだ......。そこに行かないか?」
「いいねっ!かふぇ!じゃあ、私準備してくる」
かずさは立ち上がると出かける支度をしに部屋へと戻って行った。
ハンスはあらかじめ着替えていたので、待っている間に片づけでもしようとキッチンに向かった。
「こちらにおかけください」
綺麗に広場全体が見える窓際に向かい合って座らされたハンスとかずさは目的地のカフェに来ていた。
広場の一角にあるこじんまりとしたカフェで伝統的な木組みづくりの建物は100年以上続いている店の歴史を感じさせる。
かずさと同じく、この地方の伝統衣装を身にまとった女性の店員が愛想よく接客する。
「ご注文は既にお決まりですか」
二人は席に通される前に入り口近くに置いてあったショーケースを眺めて注文するケーキを決めていた。
「私は、”蜂の一刺し”っていうのを一つ」
「オレは”黒い森のサクランボケーキ”で」
店員は伝票にすらすらメモしていく。
「お飲み物は何になさいますか」
「オレはカフェラテで」
「じゃあ、私も同じもので」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員は笑顔で応対すると店奥へと消えて行った。
ハンスは中高年を中心に賑わっている店内をじっくり見渡す。店が古い建物なのは外からも分かったが、店内は古めかしさがありながらもちゃんと手入れが行き届いていて、居心地の良い、温かな雰囲気がある。
設置してあるテーブルや椅子などの家具はどれも使い古されているが、大事にされているのがわかる。
「いい店だな」
「うん、そうだね。あ、そういえばかふぇらてって初めて飲むんだけど、どんな味がするか楽しみだなぁ」
「コーヒー飲んだことないのか」
話しているうちに、先ほどの女性店員がカップに入れたカフェラテとケーキを持ってきた。
「お待たせいたしました、ご注文のケーキとカフェラテです。ごゆっくりおくつろぎください」
店員は静かに品とカフェラテ用の砂糖とミルクもテーブルに置いて去っていった。
「じゃあ食べるか」
「うん」
二人は甘いケーキに舌鼓を打ちつつ、ゆったりとした時間を楽しんだ。
「あ~ケーキ甘くて美味しかった~」
「だな。一人だとなかなか来れなかったからアンタがいてよかった」
かずさは目の前でカフェラテを飲むハンスの顔を頬杖をついて見つめると笑って言った。
「どういたしまして」
その表情がまた眩しくて、ハンスは思わず窓の外へと視線を逸らしてしまった。
「ああ......う、うん」
返事もどもってしまう。
広場をそのまま見るハンスだったが、外にいた一人と目が合ったきがした。
遠すぎて誰かはわからないが、目が合ったとたんその人物は一直線にこちらへと歩いてくる。
ズンズン近づいてくるその人物がやがて自分が見知った人間だということに気づくとハンスは顔を引きつらせた。
。
小柄な体躯に、茶髪の髪、ハンスと同じ白いシャツにウールの焦茶のズボンと茶色のベストを羽織っているその少年はハンスがよく知る幼馴染、ロビンだった。
ロビンはハンス達のいるカフェの窓へと近づくとそのまま外から窓に張り付いてきた。
ドンっという音がして店中の注目がハンス達へと集まる。
かずさは音がして初めてロビンの存在に気づいたようで、手を振って愛想よく挨拶する。
「あ、ロビンだ」
ハンスはその状況を見て一瞬頭を抱えるも立ち上がってかずさに言う。
「アンタはちょっとそこで待ってて!すぐ戻るから!」
このままだと店に迷惑がかかるかと思い、かずさに一言残し慌てて外に出た。
外に出ると、窓からはがれたロビンがハンスを見る。
「おい、お前......呑気に平日の昼間からデートとは見せつけてくれるやないか」
ロビンは怒りを隠すことなく、指の関節を鳴らしながらハンスに近づく。
ハンスもハンスでロビンの気持ちを知りながらデートをした罪悪感が少なからずあるので、多少は申し訳なく思っている。
「いや、あのこれは......」
動揺するハンスに、下から顔を近づけてくるロビンはハンスの目の前で茶色い瞳をギラつかせて問う。
「ハンス......お前にとってなんなんや、かずさちゃんは」
ハンスも向けられた視線を受けとめ、はぐらかせない真剣な質問だと理解し、正直に答える。
「た、大切な人だ......大切で、オレの好きな人だ......」
自分が今持っている、かずさへの心からの想いを幼馴染である親友に初めて打ち明けた。
言葉にしたと同時に、この言葉が自分のまぎれもない本当の気持ちだと改めて自覚した。
ハンスが言い終えた後ロビンが何か言おうとした時、教会の鐘が鳴った。ちょうど一時を知らせる鐘だ。
ハンスのエメラルドの瞳から真剣さが伝わったのか、ロビンは舌打ちするとハンスから少し離れた。
そしてハンスの顔に向けて指さすと言った。
「今日は親方から頼まれたお使いがあるからこのまま引くが、後日必ず話をつけに行く。言いたいことは山ほどあるが、それはそん時に言わせてもらう!じゃ」
そういうとロビンは窓際でハンス達の様子を見ていたかずさに笑顔で手を振ってから城の方向へと走って行った。
ハンスは店で待っているかずさの元へと戻り、ため息を吐きながら座った。
なんだか疲れた様子のハンスにかずさは心配になって尋ねる。
「大丈夫、ハンス。何かあった?」
心配そうなかずさにハンスは首を振る。
「いや、何でもない。こっちの問題だ。アンタは気にしなくていい」
そう、これは自分とロビンの問題だ。ロビンがかずさに好意を持っているのは最初から分かっていた。ロビンは確かに自分の幼馴染で大切な親友だ。だが、だからと言って自分がかずさに向ける気持ちを撤回したりはしない。
これはお互いしっかりけじめをつけなければならない。
ハンスの返事を聞いたかずさはそう、とつぶやくとまたカップに口を付けた。
今は成り行きでかずさの隣にいるが、自分はこの隣を誰にも譲る気はない。
だからーー。
ハンスは少し勇気を出してかずさに言う。
「なあ。またこのカフェに来ような」
ハンスはちゃっかり、次のデートの約束を取り付ける。
かずさは一瞬少し目を丸くすると優しく笑った。
「うん」
二人は約束の時間までカフェでのんびりと過ごした。
思ったよりボリューミーになった......さて次回から三章ですね!おそらく明後日の投稿になります。
よろしくお願いします!




