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ティナの決着

 この決闘にかずさを代役に立てる提案をしてからずっと私はかずさに対して後めたさがあった。


 大学でできた数少ない友人であるファンを助けたい気持ちは本当だし、今でもこれ以上の妙案は思いつかない。でも、能力者であるかずさをわざわざ表舞台に出して危険に晒す必要はなかったのでは無いか。

 かずさも、ハンスも自分を信じて提案に乗ってくれた。その信頼には当然報いたいし、報いるつもりだ。

 

 でも自分自身が、かずさ達を信じさせたそんな自分を完全には信じられなかった。

 もしかして心のどこかではレオポルトに一泡吹かせたい、なんていう卑しい気持ちが無いとはいいきれないから。

 無意識にかずさをそんな私情に利用しようとする気持ちが働いていたらーー。


 

 カーンッ!

 金属同士がぶつかる音が会場内に響く。

 思考を現実に引き戻し上の決闘場を再び見ると、かずさがレオポルト相手に反撃の突きを繰り出していた。

 ハッとして思わず口に手を当てる。

ーーなんで、反撃なんて……かずさっ……。


「おい......調子にのるなよ......」

 レオポルトは苛立った声で言うと再びかずさに次々と切り掛かっていく。

 連続して鳴る金属音。


 私は心の中で祈る。

ーーどうか、あの子が無事でありますように。これ以上、何も起こりませんようにーー。


「なんだよお前、なんで当たらねぇんだよ!当たれよぉッ!!」

 数々の剣撃を冷静に、しかし的確に対処していくかずさの剣捌きはこれまで見たことがないほど美しく洗礼されている。

 これはかずさの生まれ持っての才能もあるだろうが、丁寧で美しいこの剣の型は良い指導者から教えを受け、絶えず修練してきた事がわかる。


 かずさの剣からはかずさが積み重ねてきた経験の重みが感じられた。


ーーあの子の強さは、あの子がこれまで積み上げてきたものがあってこそなのだわ……。


「なんでなんだよ、なんで当たんねえんだよっ!」

 叫ぶレオポルトにかずさは今度は鍔つば迫り合いに持ち込み、そのまま押し出す。

 そしてかずさは剣を後ろに引くと、押し出して後ろによろけたレオポルトの首元目掛けて思いきり突いた。

 カーンッと金属音が再び会場に響き渡る。


 かずさは倒れたレオポルトを前に圧倒的な強さを持って凛と佇む。

 鋭い剣先をレオポルトに向けたかずさのその姿はこれまで見たどの剣士よりも力強く美しかった。


 ああ、こういうことなのね、と私は悟った。

 かずさの圧倒的な強さと自信の裏付けとなっているものはこれまでの鍛錬であり、積み上げてきた経験と努力だ。

 それは決して自分を裏切らない。確固たる自信として自分の中に根付くのだ。


 その事に気づいて、ふと私自身を振り返ってみる。私にはこんなにも頼もしい仲間がいる、多くはないが認めてくれる人達がいる。

 それで充分だった。私は確信する。私の積み上げてきたものは何も間違っていない。

 だからただ前を見て、これまで通り積み上げていけばいい。それで良いんだ、それが自分にとっての最良なんだ。


ーーやっと見つけた、私自身の答え。

 

 

 怪我の処置を受けたかずさが決闘場から降りてすぐに私の元に来て謝る。

「ご、ごめんなさいっ、頭に血が昇っちゃって、結局怪我までしちゃって......」

 そんな決闘中は誰よりも格好良かった友人を私は何も言わず抱きしめる。


ーー謝ることなんて何もないじゃない。寧ろーー

「ティ、ティナ......?」

 動揺する友人に私は不思議と笑みが溢れる。抱きしめる腕にも自然と力が入ってしまう。

「ふふ......もういいわよ......終わった事なのだし。それよりもかずさ......とってもかっこよかったわ......なんだか気持ちがすっきりした......ありがとう」

 私は間違っていないって証明してくれてありがとう。

 かずさが嬉しそうに抱きしめ返してくれたのが心地よくて、私は顔を彼女の肩に少しだけ埋めた。


 

 

かずさはティナのヒーローみたいですね。

次話は月曜中までに投稿予定です。よろしくお願いします!

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