赤髪の女子学生④
土曜日も終盤ですみません!よろしくお願いします!
夜の営業を終えた二人は広場を通って帰路についていた。
時刻は十時をまわり、街に人影はない。
街中をランプ灯の淡い光が照らしている。
「昼の件は衝撃的だったな...」
店を出てまもなく、話しかけるハンスにかずさも答える。
「うん、まさか買い出しであんな場面に出くわすとは思わなかったよ」
「だな。学生にもいろいろ事情があるんだろうが...それにしてもあの男子学生は色々問題がありそうだったな。うちの客にはいないタイプだ」
かずさはクリスティーナの胸倉を掴んだ青年の顔を思い出し、不意に立ち止まる。
立ち止まったかずさに気づいたハンスは振り返る。
「どうしたんだ?」
かずさは少し俯いて答える。
「あまり目立つ行動するなって言われたのに、またやっちゃってごめんなさい…」
その発言に、ハンスは困った笑顔を作るとシュンとするかずさの頭に手を乗せる。
「謝んなくていい。あれは誰か止めに入るべきだったし、たぶんアンタ以外止めに入れる人はいなかった。でも次からは本当に気を付けろよ」
自分の行動を怒らずに理解してくれたハンスの優しい声音に少し涙腺が緩んだかずさは顔を上げて見上げる。
「ハンス...」
ハンスは一瞬固まると、かずさと目が合って一秒も立たずに手を離しすぐさま目を逸らした。
また目を逸らされた、とかずさは再びショックを受ける。
耳を赤くしたハンスはそんなかずさの様子に気づかず話を続ける。
「それに、クリスティーナ様...だっけか。あの人はゲヴァルト家のお姫様なんだ。くれぐれも気を付けるんだぞ。もしその兄である当主にお前の事がバレたら、もう普通に過ごせないかもしれないからな」
ハンスの説教もショックを受けた今のかずさには聞こえていない。
ハンスに嫌われているのではないか、いつものハンスの優しさは同情心で、本当は自分のことなど全く好きではないのだろうかーーなど頭の中でもんもんと考えていた。
「行くぞ」
「うん...」
二人は話し終えると再び帰路に着く。
ハンスがなぜ自分とまともに顔を合わせてくれないのか、結局結論は出ず、不安なままかずさは一人落ち込む。
ーーこのまま、最後までまともに話せないのかな。それは…嫌だな。
かずさに普段は閉じ込めている暗い気持ちが差し込む。
翌日の昼営業。昨日とは全く違う晴れやかな空の下、本日もレッカーハウスはいつもの常連客を中心に賑わっている。
レッカーとハンスは忙しそうにフライパンをひたすら振り、エレナとかずさも店内を駆けまわっていた。
本日のかずさの衣装は強引なエレナ指導の下、上は白いブラウス、下はレモン色の長めのスカート。腰には薄い茶色のコルセット風胴衣を着け、その上から白いエプロンを巻いている。
しかし明るい配色の衣装にもかかわらず、ハンスの態度の事でかずさの心の中は重い。
そこへ扉を開けて新たな客が入ってきた。
コツコツと軽快なヒールの音が響かせ店内に入ってきたのは長く艶やかな赤髪ツインテールが特徴的なクリスティーナと、侍女のマチルダだった。
「二人、いいかしら」
クリスティーナはかずさと目を合わせると笑顔で言った。
突然のクリスティーナの来訪にかずさは驚いたが、すぐに応対する。
「はい、今、席ご用意しますね」
「ありがとう」
客席から「女帝だ...」と男子学生たちがざわめき出す。どうやら彼女は学生たちから有名なようだ。
かずさの案内を待つクリスティーナはその声が聞こえた方向に顔を向けると一言。
「誰が女帝かしら」
言われた学生たちはびくっとして静まり返る。
「すみません、カウンター席になりますがよろしいでしょうか」
戻ってきたかずさが尋ねると笑顔を向けて返答する。
「構わないわ」
「ありがとうございます。ではこちらにどうぞ」
案内されたクリスティーナ達は調理場に立つハンスの目の前のカウンター席に座る。
席に着く際にハンスに気づいたクリスティーナは声をかける。
「昨日はどうもありがとう」
「あ...はい]
急に話しかけられたハンスは驚き、当たり障りのない返答しかできなかった。その会話を聞いたレッカーはクリスティーナに話しかける。
「お嬢さんはハンスと知り合いだったのか。見たところ、珍しい女子学生かい」
本来ならこんな軽い口調で話しかけられる相手ではないのだが、クリスティーナは全く気にせずに話を続ける。
「そうなんです。昨日偶々お二人に助けられまして。それで恩返しもかねて今日は来たんです」
「そういう事か。義理堅いお嬢さんだな。好きなもの注文してくれ。うちの飯はなんでもうまいぞ」
「はい、そうさせていただきますわ」
クリスティーナは上品な笑顔をレッカーに返した。
ここでのかずさはハンスが自分を好きではないのかと、不安になっていますがここで意味する好き、は『仲間意識の好き』です。




