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不思議な少年

 店の昼休み、かずさは籠を持って店を出ると広場に足を向けた。

 客も少なかったため、早めに休憩を取れる事になったのだ。

 ハンスは昼休みの間レッカーからの指南を受けるために店に残っている。時折こうして時間ができると、レッカーはハンスに食材のさばき方や新しい調理法などを教えている。

 

 肉の買い出しを頼まれたかずさは、貰ったメモを持って肉屋へ向かうために広場を横切る。

 普段とは違う街の静けさを新鮮に感じながら、周りを見渡して歩いていると、広場中心にある噴水の前でベンチに座る一人の少年に目が留まった。

 

 人通りもほとんどない閑散とした広場に一人座る美しい少年は静かな独特の雰囲気を持っている。

 白いリボンで括られた艶やかな長い金髪は右肩に流され、長いまつげからは美しい空色の瞳がのぞく。

 少年はハンスやロビンと同じく白いシャツにウールの茶色いズボンを身に着けていて、まさに庶民といった恰好をしているものの、髪や肌などは汚れもがなく綺麗で何ともちぐはぐな印象だ。

 少年は特段何をするわけでもなくベンチに座り、ただ広場を見つめている。

 動かない少年の周りだけ時が止まったように見えて、かずさは少年の前を歩きながら無意識にずっと見ていた。

「僕に何か用かい」

 見ていた少年は柔らかい声音で声をかける。

 急に話しかけられたかずさは慌てて答える。

「ご、ごめんなさいっ。ずっと見てしまって...失礼なことしてしまいました...」

かずさの素直な謝罪に、少年は美しい笑みを浮かべる。

「別にかまわないよ」

 落ち着いた声で少年は続ける。

「ねぇ君、少しだけ話し相手をしてくれないかい」

 意外な申し出にかずさは少し考えたが、店から出る際にエレナから買い出しは急ぎじゃないと言われた事もあり、うなずいて承諾する。

「少しだけなら」

 その返答に、少年はまた穏やかな笑顔を浮かべる。

「ありがとう」

 

 少年はベンチの隣を促し、かずさは少年の隣に座る。

 隣に座ると香水をつけているのか、少年からかすかに花の香りがした。街で見かける同年代の少年たちからはしたことのない香りだ。

 かずさは隣の少年を見る。

「あの、お名前は何というのですか」

 少年は一瞬空を見上げ、考えるそぶりをしてから名乗る。

「フリッツ。君は?」

「かずさです」

 少年は頷いて話を続ける。

「かずさ君...。僕と君は歳も変わらなそうだし、敬語はいらないよ」

 そう言われたら断る理由もない。

「わかった、フリッツ君」

 フリッツと名乗った少年は再び満足気に頷いてから話を始める。

「君は他国から来た旅人かな」

「はい、東の…大陸の果てから来ま...来たんだ」

「へえ、大陸の果て、というと、相当遠いね。家族で移動してきたのかな」

「ううん、一人だよ」

 その回答にフリッツは目を丸くする。

「君みたいな、小さな女の子一人でこの広い大陸を横断してきたの?にわかには信じられないな...」

 かずさはやばい、ここまで言うべきではなかったと目が泳ぐ。

 しかし、彼は特に気に留める様子もなく話を続ける。

「いろいろ事情があるんだろうね...」

 フリッツは広場の中央にある噴水を見る。その瞳には少し同情の色が伺える。

「君はこの街に来てどのくらい?」

「まだ一週間も経ってないよ」

「そうか。君は外から来た者として、この街をどう思う?」

 意外な質問に、かずさは少し考える。

「う~ん、街はきれいだし、人は優しいし、食べ物もおいしいし、すごくいい街だと思う」

 それを聞いたフリッツはかずさに笑いかける。

「ありがとう、僕もそう思うよ」

 礼を言ったのは少年が街への愛着を持っているからか。

 フリッツはまた顔を前に向けて、遠くを見て話す。

「昨日の祭りも美しかったな...」

 穏やかな表情を浮かべる少年はまるで絵画に移る女神の様に美しい。

 

 しばらくして少年は一人頷くとベンチから立ち上がり、かずさを振り返る。

「かずさ君、貴重な時間をありがとう。僕はもう行くよ。またどこかで会おう」

「うん、フリッツ君。まだどこかで」

 美しい笑みを残し、フリッツは手を振って広場から立ち去って行った。美しい金髪を揺らす姿はそれだけで絵になる。

 不思議な人だと思いながら見送ったかずさも立ち上がり、行きつけのフライシュが営む肉屋に足を向けた。


二章を書くにあたって少し構成を考える必要がありそうで次話は少し時間を空かせてください!(遅くても来週末です) そして今週末に二、三話とか言ったのに一話だけの投稿になってすみませんっ。

よろしくお願いします。

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