温かい居場所
本日も午前11時、時間通りに開店した大衆食堂『レッカーハウス』。
かずさが手伝いだしてから初めての満席ではない、ぼちぼちの客入りだった。
そもそも祭りの次の日という事もあり、街全体に人気もない。
それでも仕事に向かう途中に寄る者や街外から訪れた商人風の者などが入店し、学生客が多いこの食堂では珍しい客層となった。
かずさは出勤初日と同じ、赤いチェック柄のスカートのこの地方特有の伝統服に白いエプロンを巻いた派手目の衣装を着ている。
忙しくない為、客に呼ばれるまでは店の隅に立って待機してる事が多い。
隅に立っているかずさは先ほど着替える際にした、エレナとの会話について思い出していた。
奥の部屋でかずさはエレナに手紙を無事渡せた事を報告した。それを聞いたエレナは目に涙を浮かべてかずさの頭をそっと撫でた。
「ありがとう、かずさちゃん。それを聞いて安心したわ。きっとルナちゃんはハンスに必要だった言葉を残してくれたんだと思う。その言葉を、思いを……届けてくれてありがとう」
撫でられながらかずさは恥ずかしそうにエレナを見上げる。エレナは心底安心したような表情をしていた。
「私は何もしてませんよ」
その言葉にエレナは静かに首を振る。
「いいや、アンタがいなきゃハンスはずっとあのままだったと思うわ。今日ハンスを見て本当に驚いたの。ルナちゃんが居た時みたいに、ハンスの瞳に光が戻ったように見えたのよ」
エレナは優しい笑顔をかずさに向けた。
「旦那と二人でずっと心配してたけど、今日でその必要も無くなったかね」
ルナがいなくなってからずっとハンスを気にかけ、支えてきたレッカーとエレナ。
かずさはエレナのその言葉に少なからず二人の役に立てた事を嬉しく思い、喜びを心の中で噛み締める。
ハンスに妹の思い出を失くして欲しくないという利己的な理由で行動していたが、こんな風に感謝されるとは思わなかった。
エレナは衣装棚から1つの服を取り出して、かずさの目の前に突き出す。
「今日から心機一転、また頑張ってもらおうかしら」
エレナが引っ張ってきたのは初日と同じ、白地のブラウスに茶色の胴衣、赤のチェック柄スカートの衣装だ。
かずさが個人的に一番派手で目立つと感じている一着。
かずさの顔が引き攣った。
「心機一転でしたら、別のものが良いのでは……?」
突き出された衣装の横から顔を覗かせてエレナに提案してみる。何度着ようと恥ずかしいものは恥ずかしい。できれば着用したくない。
エレナはニッコリして答えた。
「初心に帰るって意味も込めてるのよ」
「……そうですか……」
譲る気はないというエレナの圧にかずさは諦めて衣装を受け取った。
かずさは待機しながら料理を作るハンスやレッカー、客と楽しげに雑談するエレナと店全体に目を向ける。
――あぁ、この場所好きだな。
自然と出てきた気持ち。
出会って経った5日しか経っていないのに、自分を受け入れてくれたこの場所は店も人も温かくて。ここで働くことがとても楽しくて。そう思える場所がある事が嬉しくもあり、寂しくもある。
――早めに、この街を出ないといけない。
これ以上愛着が出る前に、これ以上離れ難くなる前に。自分は今までそうしてきたのだから。
「かずさちゃん、お客さんの注文取ってくれない?」
不意にエレナから呼びかけられ、かずさは思考を現実に引き戻す。
「はい。今行きます」
かずさは客のいるテーブルへ向かいながら少しだけ思う。
――でも、あと少しだけなら良いよね――。
かずさは持ち前の愛嬌たっぷりの笑顔で客に声をかける。
「お待たせいたしました。ご注文は何になさいますか?」
いつも読んでくださりありがとうございます!
今日は予告通り投稿できました!(←いつもやれ)
第二章、新キャラも少し増えるし、さて、どうしていくか、、展開は決まってますがまだ試行錯誤状態。ここまで読んでくださりありがとうございます!リアクションやコメントもモチベになります、すごく嬉しいです(^ ^)
次回は土日月中に最低2話投稿予定です。よろしくお願いします!




