祭りの後③
※え、なんかコピペ間違えてて、急にロビンの家の階段からになってたんですけど?!
え、一回やり直した時に間違えて消してた??
すみません!!!貼り直しました!!!
朝、二人はテーブルに向かい合って座り、共に朝食をとっていた。
本日のメニューは目玉焼き、オニオンスープに店で余ったバゲットとシンプルだ。パンをちぎりながら、かずさは目の前にいるハンスの様子を伺う。
早朝の子供のような態度を取ったハンスは一体なんだったのだろうか。今、何もなかったかのように淡々と食事をしているハンスの様子を見ると、あれはかずさの夢だったのかとも思う。
かずさはあの後ハンスと一緒に寝落ちしてしまい、再び目を覚ますと自分が寝ていたベッドの上にいたのだ。
しかし、普段着にも着替えているし、荷造りの終わった荷物はベッドの横に置いてあったし、早朝に街を出ようとした一件は夢ではない。
「今日も一緒に行くだろう」
「ん?」
突然の質問にかずさはスープカップを傾けたままハンスを見る。どう言う事なのか、と視線で問うともう一度ハンスは口を開いた。
「今日も一緒に働くんだろ?」
その言葉でかずさはようやく話の意図を汲み取った。
正直なところ食堂へ行く事は考えていなかったが、少なくとも今日一日滞在するのなら手紙を渡せた報告もすべきだろうとかずさは頷く。
「うん、一緒に行くよ」
ハンスはその答えを聞いて頷くと何処となく安心した表情をした。
「あと、これ食べたらルナの…妹の持ち物がある場所に連れて行ってくれるか」
ハンスは真剣な眼差しでかずさにお願いする。その瞳からは初めて見る強い覚悟が伺えた。
ハンスの申し出にかずさは喜んで答える。
「もちろんだよ」
嬉しい気持ちのまま、かずさはパンにかぶりついたのだった。
朝食を終えると2人は普段より早い時間に家を出た。
連日、晴天が続いていたが本日は曇り。
今日は休日の店も多く、昨夜の祭りが嘘のような静かな朝。
2人はいつもの住宅街を抜け、橋を渡り、門をくぐって街へと入っていく。
「なぁ、その場所は街の中にあるのか」
問われたかずさは少し後ろを振り返ってハンスを見たがすぐに前を向いて言う。
「秘密だよ」
かずさはあえて答えない。着いてからのお楽しみ、というやつだ。まさか幼馴染の部屋にあるとは思っていないだろう。
頭を掻きながらハンスはそれ以上何も聞かずにかずさの後ろをついていく。
いつもの広場を通り過ぎ、商店街の道へと進んでいくかずさを見て、ハンスは徐々に表情が険しくなっていく。嫌な予感がする。
しばらく歩を進めると、かずさはある場所で立ち止まった。
到着した場所はハンスが予想していた場所だった。 そこは五月蝿い幼馴染の勤め先兼下宿先である。
『木工工房 シュライナー』の看板が掲げられた建物の横路地へと躊躇なくかずさは入っていった。
路地を入ってすぐ左手に出てきた扉をかずさはコンコンッとノックし、奥の部屋にいるであろう人物に声をかける。
「朝早くにごめんなさいー。ロビンー!いるー?」
かずさが呼びかけてしばらくすると上の方からドタバタと音がしたかと思うと階段を駆け降りてくる足音の後すぐに扉が開かれた。
「はいはいはーい!おはようー!かずさちゃーん!訪ねてきてくれるやなんて、なんや嬉しいわぁ!」
勢いよく出てきたロビンの茶髪は寝癖でピンピンに跳ねており、いかにも寝起きといった感じだ。朝一から通常モードの騒がしい親友に本当に元気だなとハンスは感心した。
そんな幼馴染の存在に気づかず立て続けに話すロビン。
「かずさちゃん、もしかしてデートの誘い?!この街のことなら何でも紹介したるで!」
「デート…はまた今度行くとして、今回は別件だよ」
かずさの隣にいたハンスを強引に前に押し出す。
目の前に出てきた至近距離のハンスにロビンは一気にテンションが下がり半目になった。
「なんや、ハンスおったんかいな…」
「悪かったな、オレがいて…」
ハンスも顔を引き攣らせた。
はぁ、とため息を漏らし、明らかに気落ちした様子のロビンは扉を開け、2人を迎え入れる。
「入らんかい。オレの部屋に用があるんやろ」
ロビンは鋭い目を向けると自室へと続く階段を登る。
ロビンとかずさもその後に続いた。
先に階段を上り部屋に入ったロビンに続き二人も部屋に入る。
ロビンは早速部屋の隅へ行き、物にかけられた布に手をかけるとハンスを一度振り返った。
「お前、もうかずさちゃんからルナちゃんの手紙もろたんか」
強い視線を向けるロビンにハンスは頷く。
「ああ。読んだ...あいつは最後までオレの事を心配してくれてた...」
「...なら、もう大丈夫なんやな」
ハンスが再び力強く頷くとロビンは勢いよく布をはぎ取った。
浮いた布の下にはハンスの見覚えのある物が積み上げられていた。
木製のままごとセットや、ドレスを着た人形、妹のお気に入りだった小棚など本来であればそこに無いはずの妹の持ち物ーー。
妹がまだ小さい時に毎日のように家で遊んでいたままごとセット。クマのぬいぐるみと一緒に自分も巻き込んで動かしていたドレスを来た人形。
ハンスの足は自然とそこに引き寄せられる。次々に思い出される妹との日々にハンスは震える声で妹の名前を呼ぶ。
「ルナ...」
積み上げられた物の目の前まで来るとそれらに触れ、声を漏らす。
「ごめん...っ」
それは自身の弱さで妹のすべてを消し去ろうとした過去の行いへの後悔と謝罪の言葉。
その後ろでかずさは肩を震わせるハンスの姿を温かいまなざしで見守っていた。
しかし、ロビンは後ろからツカツカと近づきハンスの襟首を掴んで無理やり振り返らせると、いきなり右腕でハンスの顔を殴った。
殴られたハンスは勢いのまま後ろにあった妹の持ち物にぶつかって倒れこむ。
突然の出来事にかずさは驚き、二人の様子を注意深く伺う。極力手は出さない方が良いと思った。これは二人の問題だ。
殴られたハンスは腕で口元を拭っていて表情はよく見えない。
ロビンはいつものひょうきんな様子とはまったく違う、複雑な感情の入り混じった声で話す。
「これは勝手に物捨てられたルナちゃんの分や...この時をずっと待っとんたんや...!ホンマ馬鹿な事しよって...」
大きく息を吸い、吐き出すとロビンは続ける。
「やっと殴りがいのある面になったなぁ、ハンス」
かずさから表情は見えないがロビンの声は少し震えていた。
二人はしっかり視線を交わすとブハッと吹き出し笑い出す。
ハンスは今まで心配してくれていた、幼馴染であり一番の親友に言う。
「待たせたな...」
「...ホンマやで...」
ロビンはハンスに手を伸ばすとハンスもその手をしっかり握り、立ち上がる。
笑顔の二人はどちらも晴れやかな表情をしていた。
「で、オレへの感謝は?」
無事に和解した二人だったが、ロビンの言葉にハンスはすぐさま反応する。
「あ...ルナの物、拾って、取っといてくれて本当にありがとう」
確かに感謝の言葉を言ってなかったとハンスはロビンに礼を言う。
「確かに、それもやけどもっと何かないん...?」
親友の反応にハンスの頭に疑問符が浮かぶ。
ロビンはずっとかずさの方をチラチラと見ている。 ハンスはその様子が気に入らなかったが、ロビンの言わんとしていることをくみ取った。
「...お前が今度店に来たらおごってやるよ」
店で働いているかずさを見たい。
とはいえ見習いの収入で頻繁に外食するわけにもいかない。そこでおこぼれに預かろうという魂胆なのだろう。
ハンスとしても今回の事に関してはロビンに感謝しかない。
するとロビンはかずさに聞かれたくないのかハンスの耳元で小声で言う。
「これだけの量部屋に運び込んで二年も補完しとったんやで。三回、三回分頼むわ!」
能力持ちのかずさには聞こえているだろうが、本当に調子いいよなぁ...とハンスは思いながら答える。
「わかったわかった!」
返答を聞くとその場でガッツポーズをするロビン。
一連のやり取りを見守っていたかずさもとりあえずは一件落着した事に胸を撫で下ろした。
次回投稿は水曜日0時投稿予定です。よろしくお願いします。




