間話 新しい朝
出ていくかずさを引き止めた後のハンスのお話です。
ハンスが目覚めると、かずさは横で床に座り自分の手を握ったまま静かに眠っていた。
寝起きでぼーっとかずさの顔を見ていたが、頭が冴え状況を認識した途端、一気に身体中が熱くなる。
すぐさま手を離して離れたい衝動とこのままでいたいという謎の気持ちでしばらく葛藤する。
そうこう考えているとかずさが大きな背嚢を背負っている事に気づいた。
そうすると今の状況は出て行こうとしたかずさを自分が引き留めたようにも考えられる。
正直自分はなぜ手を握っているのか全く覚えていない。が、内心自分自身の行動を褒める。
かずさには申し訳ないが、事情があるにしろハンスはこの少女を手放す気にはなれない。自分の初めて口にした心の悲しみと苦しみを受け止め、救ってくれた少女。
普段は誰にでも明るく振る舞い、悩みなんて無さそうなのに、時折寂し気な表情を見せる少女。
類稀な戦闘能力を持ち無敵にも思えるこの少女だが、彼女は彼女なりの苦しみを抱えているのかもしれない。
ならば、次は自分が彼女を救いたいーー。
そう思うのは自分が救われたからなのか、それともーー。
このまま手を握っているわけにもいかないので、ハンスは起こさない様にゆっくり指を外していく。
かずさの背負っている荷物を床に下ろしてから、両腕で抱き上げて妹の部屋に移動させる。
横抱きしている間、目の前のかずさの姿に思わず赤くなる。
伏せられた長いまつ毛、血行の良い白い肌、呼吸をするたびにわずかに動く桜色の唇。何故だか見てはいけないものを見ているようで心臓が速くなるも目が離せない。
一人ドギマギしながら部屋を移動し、かずさをゆっくりとベッドの上に寝かせたハンスは一息つく。
この異国から来た少女に自分は救われた。
彼女がいなければ自分は妹のことなど一生思い出せず、忘れ去っていただろう。感謝しても仕切れない。恩返しをするのは自分のほうだ、だから今すぐ出ていかれるのは困る。
ハンスは自分のかずさに対する気持ちをそう結論づけた。
ハンスは窓際のクマのぬいぐるみに目を向けた。朝日を背にクマは何処か一点を見つめている。
かずさは祭りの帰りに、手紙が入っていた小箱の鍵はぬいぐるみのリボンから出てきたと言っていた。
見つけて欲しいけど見つからなくてもいい、そんな妹の意図が伺える。妹らしい心遣いが懐かしくて、苦笑しながらハンスは近づくとクマを優しく撫でた。
2、3話書くと言いながらゆっくり進行中ですみません。続きのお話は0時頃投稿予定です。よろしくお願いします。




