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祭りの前③

祭り前、最後の話です。

※かずさの祭り時の髪形、変更しました!さすがに三つ編みには短すぎると思い(-_-;)

ハーフアップの髪に三つ編みとリボンが編みこまれ、中央でその桃色のリボンが蝶々結びで結われている。

にしました。


すみません、よろしくお願いします。

 店は祭りの集客を見込んでいつもより早い時間に開店したが、1時間もせずほぼ満席になった。

 テラス席は祭りの出店場所を空けるために今日は無い。

 

 屋台も多いからか、定食メニューを注文する客は普段より少なく、酒と軽食のオーダーが多い。客の回転も早く、かずさ達接客組は空いた席を次々に片付け、新たな客を迎え入れている。

 

 今日のかずさの格好もやはり注目された。薄い桃色のスカートは白いブラウスと焦茶色の胴衣に相性ピッタリで、控えめな配色ながら多くの客の目を引く。

 桃色のリボンが編み込まれたこの髪型も清純な雰囲気を醸し出し、かずさ目当てに来た馴染みの学生客達は横を通るたびに目で追っている。もちろん、かずさは接客の対応で自分が注目されていることなど気に留める余裕もない。

 

 料理を席に届けたかずさは、別席の注文を取るために3人の学生客の元へと近づく。

 近づいたかずさに気づくと先ほどまで話し込んでいた学生達は急に姿勢を正す。

「お待たせいたしました。ご注文はお決まりですか?」

 問われ彼らは各々注文する。

「ビールとチーズの盛り合わせをお願いします」

「私はワインとオニオンスープを」

「僕はビールとバゲッドを…あの!!」

 二十歳くらいだろうか、茶髪の青年が声を上擦らせ、かずさに声をかける。

 その声にかずさはメモしつついつもの愛嬌満点の笑顔で男に顔を向ける。

「はい、なんでしょう」

「ハゥッ…」

 いきなり腹を殴られた様な声を出す青年に不思議そうに小首を傾げるかずさは彼の次の言葉を待つ。

「……..」

 なかなか口を開かない青年に、友人であろう他二人が両端から小突く。

 耳まで真っ赤にした青年は意を決した様に口を開く。

「あ…の…っ…お名前は、なんというのですか…」

 名前一つになんだかすごい意気込んでいるな、と思いつつ答える。

「かずさです」

「かずさ…さん…かずささん……」

 青年は口の中で反復する。続けて青年は話す。

「か、かずささんは今日仕事の後予定はありますか?!よろしければ、い、い、一緒に祭りに行きませんか」

 話し出したかと思うと、大きな声で勢いよく話し終えた青年に、他の友人たちは良くやったと拍手代わりにテーブルを拳でコツコツ叩く。

 その行動に何事かと驚くかずさだったが、申し訳なさそうに眉を下げで断りを入れる。

「申し訳ありません。今日は仕事の後同僚と回る予定なんです。ごめんなさい」

「そ…う、ですか…」

 返答を聞くと男は放心状態になり、そのまま動かなくなってしまった。友人二人はそんな青年の肩や背中に手をやり、慰める。

「では、また何かあればお呼びください」

 笑顔を残し、かずさは呼ばれた別の席へと行ってしまった。

 慰められた青年は一人嘆く。

「そりゃあんなに可愛いいんだ…デートだってするよね…でも同僚って…」

 青年は半泣きの顔を上げ店を見渡し同僚らしき調理場の少年を見つける。くすんだ金髪の純朴そうな少年である。

 青年から見て特にカッコ良くもなければ、特別賢そうでも無い。

 なんであいつが、と青年は嫉妬のこもった目でその少年、ハンスを睨む。

 溜まった注文を捌くため、必死でフライパンを振るハンスだったが、何処からか向けられた鋭い視線に背筋が寒くなるのを感じた。


 今日は昼休憩は取らず、午後5時までぶっ通しで営業だ。レッカー、エレナ、ハンスはそれぞれ交代でわずかながら休憩していたが、かずさは持ち前のスタミナで働き続けた。

 

 

 忙しい時間は瞬く間に過ぎ、いつの間にか日は暮れ始めていた。教会の5時を知らせる鐘が鳴る。

 営業を終えた食堂内は、初日出勤時の様にかずさ以外のメンバーは疲れ果てていた。

 各々、椅子やソファーに座りぐったりしているが、表情は明るい。

「よく働いたなぁ〜」

「これまでで1番の客入りだったわ…皆お疲れ様」

 レッカーとエレナは弱々しくも満足そうである。

 ハンスはカウンター席で一人ごちる。

「もう動けない…祭りは行かない…」

 そんな同僚にかずさは井戸から組んだ冷たい水の入ったグラスをハンスの頬に当てる。

「少し休んだら、行くからね」

 笑顔で念押しするかずさに、視線を向けてハンスは一つため息を吐いた。

「…わかったよ…」

 不満そうなハンスをよそにかずさは嬉しそうだ。

「そうだ、かずさちゃん。今のうちに渡しとくわね」

 ふらふらと立ち上がったエレナは店の奥の部屋に行くと、封筒を一つと皮製のショルダーバッグを持って出てきた。

「はい、お給料とこのバッグもあげるわ。巾着だけじゃ祭りで買った物は入らないだろうし、せっかくおしゃれなんだからバッチリ決めないと」

「そんな、私貰ってばかり…悪いです」

 眉を寄せて申し訳なさそうなかずさに、笑ってエレナは言う。

「アタシがあげたいの。祭り、楽しんでおいで」

 かずさの肩を持つエレナに、後ろでソファーに寝そべっていたレッカーも起き上がって言う。

「短期間だけど働いてくれてありがとうな。明日からも来てくれていいぞ」

 エレナと同じことを言いながらガハハと笑うレッカー。

 たった数日だけなのに、まだこの場所に居ても良いと言ってくれた懐の深い、心優しい夫婦。そんなお世話になった2人に、かずさは込み上げてくる気持ちを抑えて、礼をする。

「ありがとうございました」

 ハンスはそんなかずさの様子を水が注がれたグラス越しに見つめていた。


 街は夕焼けに染まり、辺りはオレンジ色に染まる。人々は飾り付けられたランタンに灯りを灯し、夜の街を彩る。

 祭りはこれからメインのランタン流しに向けてさらなる盛り上がりを見せる。

 2人の祭りが始まる。

さて、ようやく祭りに入ります。次話は明日の午後8時ごろに投稿予定です。

 おそらく週末に書き終えられるかなとは思ってますので、一章完結までもう少しです。

 まずはここまで駄文を読んでくださりありがとうございます。引き続きお付き合い頂けると大変、大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

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