街の誕生祭①
いつも遅れてすみません...。
※かずさの祭り時の髪形、変更しました!さすがにかずさ髪で三つ編みするには短すぎると思いまして。。
「ハーフアップの髪に三つ編みとリボンが編みこまれ、中央でその桃色のリボンが蝶々結びで結われている」
にしました。
時刻は午後五時半。陽はほとんど沈み、空の端にオレンジ色を残し隠れてしまった。
辺りには建物の間から吊るされた祭り用のランタンが灯され、淡い明かりが街中を満たし、いつもの景色を特別なものに変えている。
二人は今、営業を終えた店の前に立っている。名残惜しそうなレッカー夫妻に別れを告げ、先ほど出てきたところだ。
かずさはエレナにもらった伝統服に身を包み、靴は普段履きの皮製のブーツを履いている。
これまた貰い物のショルダーバックの中にはかずさの普段着と手紙の入った小箱がある。
そして胸元には仕事中は身に着けていない、養父から貰った黄金色した鉱石のネックレスが光る。
ハンスは普段着の白いよれたシャツに茶色いウールのズボンである。こちらは特に特別感は無い。
かずさの今夜の目的はハンスに祭りを楽しんでもらい、妹の手紙を渡すこと。その最重要目的を忘れてはいないが、普段とは違う街のそこかしこが明るく賑やかな景色にワクワクを隠せない。
かずさはハンスの手を取り、すぐ目の前の広場へと向かう。
「お、おい」
急に引っ張られたハンスは驚くも、引っ張られるままに続く。
「ハンス美味しいそうな匂いがいろんなところからするよ。あれ食べよ!」
興奮するかずさの姿に、呆れつつもその姿が新鮮でハンスにも笑みがこぼれる。しかしその一瞬、手を引くかずさに妹の影を見たハンスはすぐに首を振って振り払う。
ーーもうあいつのことは、思い出さない。
胸に鈍い痛みが広がる。
そんなハンスの心境など知る由もなく、少し離れた場所でかずさは屋台の店主に話しかけている。
「こんばんは!ここで一番人気なのは何ですか」
目の前で焼かれているソーセージの匂いにつられたかずさは目を輝かせて目の前の鉄板を見る。
「そりゃこの焼きたての自家製ソーセージをパンに挟んだやつだ。シンプルだがこれがうまい。ねえちゃん注文するかい?」
「はい、ぜひ!二つください」
「まいど!ふたつで8ゲルドな」
かずさはハンスに何一つ聞かぬまま、勝手に注文する。日中の仕事でかずさは心底お腹が減っていた。今は食べる以外の選択肢はない。
店主は焼きたてのソーセージを割れ目の入った、同じく鉄板で軽く焼いたパンに乗せ、ケチャップとマスタードをたっぷりかける。
かずさはお代の硬貨を出し、焼きたてのソーセージパンを受け取る。
受け取ったものを持って駆け寄ったかずさはハンスに差し出した。
「はい、ハンスの分」
「頼んでないけど...ありがとう。オレも腹減ってた」
受け取ったハンスはそのまま口にすると、目を見開いた。
「うまい...特にこのソーセージ、ジューシーだけどしつこくなくて、中に入った香辛料の風味が良い...」
料理人見習いをしているだけあって食べ物にもそれなりに関心があるハンスは中身の分析をしながら美味しそうに食べる。
「お、兄ちゃんわかってるね~ありがとよ」
「あ、いえ...」
店主の声にハンスは聞かれていたのかと頭を掻いて恥ずかしさを紛らわせる。
なんだかんだ楽しんでいるハンスの様子にかずさも嬉しくなる。
歩きながら二人は食べ進める。
かずさも一口食べた。
「ん!!少し辛い!けど美味しい。やっぱり私の鼻に間違いはなかった」
一人納得するかずさに、ハンスは笑って言う。
「アンタ鼻で見分けてたのか」
「そうだよ。私は嗅覚も優れてるからね!」
得意げに胸を張るかずさに、犬かよと笑うハンス。
楽しそうなその姿にかずさもまた、はにかむ。
「あ、あそこもすっごい美味しそうな匂い!行こ行こ」
手を引くかずさにハンスは静止をかける。振り返るかずさにハンスは繋いでない方の手で自分の口元を指さしながら指摘する。
「口の横、マスタードついてるぞ」
「え、どこ」
指先でかずさも支持された箇所をぬぐってみる。
「どう、取れた?」
「違う、反対側。…仕方ないなぁ」
ハンスは言いつつかずさの頬に手を伸ばすと親指で口元についていたマスタードを拭った。
かずさは一瞬驚いて固まり、ハンスの指に着いたマスタードを見つめる。
ハンスは拭ったマスタードは勿体ないので自分で食べようと親指を口元に持って行こうとしていた。
ハンスの口元に行く、その指先を見つめるかずさは何だかそれがひどく恥ずかしく感じて、このマスタードを食べられてはいけないと反射で思ってしまった。
ーー瞬間、かずさがハンスの腕を掴み、マスタードの付いたその親指を口に含んだ。
「っ?!」
驚愕するハンスに瞬時に口を離したかずさは少し顔を赤らめながら言う。
「私の、マスタードだから」
言うとすぐに振り返って次の出店に足を向けた。
残されたハンスは顔を真っ赤にして、そのまま惚ける。
指にはまだ生暖かい感触が残っている。
「.....................は?」
起きたことに頭の処理が追い付かず、次の食べ物を持ってかずさが戻ってくるまでハンスはしばらく放心していた。
次回は明日の朝までに投稿します。引き続き二人の物語をよろしくお願いします。




