祭りの前①
アインハイト連邦国の南西に位置する街、ゾンダーベルク。
空には初秋の見事な秋晴れが広がる。今日ここでは街の誕生を祝う、年に一度の祭りが催される。
それに伴い、朝早くから行商人や商売人たちが橋を渡り、街の玄関口である門をくぐる。比較的小規模なこの街はいつになく賑やかである。
広場など中心地にある屋台や出し物を見に街の住民たちも朝から祭りに繰り出している。
そんな中二人はいつも通り出勤した。
かずさは普段と違う街の雰囲気に好奇心を隠せず、ついつい辺りを見回してしまう。
普段来ない遠方からくる行商人も多く、かずさが纏う藍色の着物も今日ばかりは浮いていない。
橋を渡った二人は門の前にいるロレンスに挨拶をする。
「おはようございます」
「おはようございます、ロレンスさん」
門番のロレンスはいつものつば付き帽に紺色を基調とした軍服を着ている。黒いカイゼルひげを指でつまみながら返す。
「二人ともおはようさん。この間はどうもな。祭りだってのに今日も仕事かい」
うなずくハンスにかずさも続けて返す。
「そういうロレンスさんこそ」
「まあな、年に一度の大きな祭りだ。外から来る人の出入りが多いし、最近の情勢もあって警戒態勢だからなぁ。私も家族と祭りを楽しみたいがこればっかりはなぁ」
ロレンスは持っている槍を持ち直していつもの明るい口調で言う。
「とはいえ、夜には交代できるからな。最後のランタン流しは妻と娘と一緒に楽しむよ。二人も早めに切り上げて、祭りを見るんだろう」
「いや、オレはーー」
「はい!二人で回るつもりです!夜の屋台すっごく楽しみなんです」
ハンスは言いかけるも、かずさに遮られる。その半ば強引な行動にハンスは目を丸くした。
「それはいい!楽しんでくると良い!では、良い一日を」
「「良い一日を」」
二人は別れの挨拶をし、門をくぐっていく。
「おい、オレは祭りに行くなんて言ってないぞ」
隣を歩くかずさに先ほどの事を問いただす。そんな約束してないのになぜあんなことを言ったのかわからない。
ハンスを見返したかずさはばつの悪そうな顔をして、顔の前で手を合わせ頭を下げる。
「ごめん、ハンス。私もこの街にいるのも明日までだし、この祭りがどんなものか見てみたいんだ。店も早めに閉めるらしいし最後に思い出が作りたいんだよ。...勝手で申し訳ないんだけど、一緒に回ってくれないかな...?」
かずさは顔を上げてハンスの反応を確認する。 かずさはそれらしい理由を並べて祭りに誘い出す口実をつくりたかった。
嫌そうな顔をしたハンスだったが、
「少しだけだぞ...」
そう頼まれると断っても後味が悪いと感じ、しぶしぶ承諾する。
「ありがとう、ハンス」
笑顔で礼を言うかずさだったが、内心ではハンスは断らないだろうと思っていた。
なんだかんだ優しい事をここ数日一緒に過ごす内にわかってきた。そしてその思惑は見事的中したのだった。
かずさの計画はこうだ。妹との思い出のある祭りをどうにかして少しでも楽しんでもらい、祭りの後に手紙を渡すという流れである。
本人のトラウマを無理やりこじ開けるのも良くないと感じつつ、しかしかずさがいるうちにこの手紙を渡す絶好のタイミングもそう無いだろうとも思った。
結局自ら渡したいという利己的な理由でかずさは決断した。そんな自分に、やはりどこまでも自分勝手だなぁと内心、自身を非難する。
かずさが考えているうちに、いつの間にか店に着いた。
扉を開けて二人は挨拶する。
「「おはようございます」」
次回は明日、夜10時投稿予定です。一章完結までは更新頻度上げます。よろしくお願いします!!




