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221/415

221 本戦終了。打ち上げは盛大に……!?

 

 ご両親が帰った後、ヴィヴィアンさんがため息交じりにジョゼさんに近づいてきた。


「何やってるのよ、まったく」


「浮かれていた。面目ない」


「私はそんなミスはしない。私があんたの分まで優勝する」


 ヴィヴィアンさんがジョゼさんの目を見つめ、静かに言う。


「お前は私なんかよりずっと凄い。間違いなく優勝する。それは私が保証しよう」


 ジョゼさんがそれに応え、深く頷く。


 するとヴィヴィアンさんは、やれやれといった風に首を振った。


「何言ってるのよ。あんたの方が私なんかよりずっと凄い。それは私が痛いほどよく分かっている。でも、負けない! いつかあんたを越えるような物を作り出してやるんだから」


 ヴィヴィアンさんはそう強く宣言すると、ジョゼさんの返事を待たずに帰ってしまった。


 ジョゼさんはそんなヴィヴィアンさんの背をずっと見ていた。


「ジョゼさん、俺たちも帰りましょう」


 ぼうっと立つジョゼさんの側に寄り、声をかける。


『帰ろう?』


 ミミがジョゼさんの手を取り、首を傾ける。


「ああ、そうだな」


 ジョゼさんが穏やかに頷き、ミミの手を握り返す。


『マスターはそっちね』


「うん。ジョゼさん手を出して」


 ミミに言われ、ジョゼさんと手を繋ぐ。


 三人で手をつなぎ、横一列となって工房へ向かって歩く。


「ふふ、私は真ん中か」


 俺たちと手を繋いだジョゼさんが微笑する。


「ミミ君の手は小さくてかわいいし、まるもっちー君の手は相変わらず柔らかくて温かいな」


 俺たちの手を交互に強く握り、ジョゼさんが笑う。


「魔力の調整を行えば、次回は優勝間違いなしですね」


 今回の失敗を活かせば、次のレースで優勝できる。


 出場した魔走車を全て周回遅れにしていたし、楽勝だろう。


「それは無理だな」


 ジョゼさんが静かに首を振った。


「え、どうして」


「あれだけの大差がついたんだ。次回のレースは皆、同じコンセプトの魔走車で出場してくるだろう。大手の工房なら、大量の試作を行い、より洗練されたものに仕上げてくるに違いない」


「そうか……。次回までの期間があれば……」


 実際に走っている見本を見たわけだから、無から作り出すよりは難易度は低い。


 大手の工房ともなれば、そのくらいはできて当然なのだろう。


 次のレースまでの時間があれば、技術も追いつかれてしまうということか。


「私も先駆者としてもう一段先の調整が可能だろうが、それでも接戦は免れない。これだけ大きなチャンスは今回限りだったんだ」


 ジョゼさんが前を向いたまま呟く。


「それがよく分かっていたから限界まで調整したし、魔力も限界ギリギリまで使いきる計算で勝負に出たんだ。本来なら周回遅れにした時点で速度を落とせばよかったんだが、記録更新に目が眩んでしまった。今ならそう冷静に言えるが、試合中はそんな精神状態じゃなかった」


 本選に初出場で、あの結果だ。冷静でいられるわけがない。


「凄く興奮していた。自分の魔走車が独走状態にあり、優勝は確実。いろんなことが頭をよぎった。ほんとうにいろんなことが……」


 ジョゼさんの声は次第にしぼんでいく。


「後少しだったんだ……」


 ぽつりと呟き、何かを堪えるように上を見る。


「勝ちたかったな……」


 そう言ったジョゼさんの目からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。


「ジョゼさん……」


『飴食べる? 美味しいよ』


 ジョゼさんの涙を見たミミが慌てるように紙袋を漁り、飴を差し出す。


「いただこう。うん、甘くて美味しいな」


 飴を口に含んだジョゼさんは嬉しそうに笑った。


 それを見たミミがにっこり笑い返す。


「ジョゼさんは今日のレースで一番かっこよかったです。俺は夢中になって見ていましたよ。あの走りを見て、俺と同じ気持ちになった人がきっと沢山いるはずです」


『ミミもだよ!』


「ありがとう」


 そう言ったジョゼさんの顔にもう涙はなく、穏やかな表情に戻っていた。


 日が傾き、空がオレンジ一色に染まる中、夕陽に向かって三人で歩く。


 沈み行く夕陽が視界の高さへ迫り、目も眩む眩さを放つ。


 日の光はほのかに暖かく、自然と体の強張りが解けていく。


 そんな体とは対照的に、手を握る力が少しだけ強くなる。


 そして誰からともなく、繋いだ手を大きく振りはじめた。


 それがおかしくて、顔を見合わせて笑ってしまう。


 確かに、レースの結果は残念なものだったかもしれない。


 だけど、今日はそれだけじゃなかった。違う視点から見ればいいことも沢山あったのだ。


 さあ、帰って盛大に打ち上げた。


 沢山のいい思い出が出来れば、思い返したときもきっと楽しい気持ちになれるから。



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