221 本戦終了。打ち上げは盛大に……!?
ご両親が帰った後、ヴィヴィアンさんがため息交じりにジョゼさんに近づいてきた。
「何やってるのよ、まったく」
「浮かれていた。面目ない」
「私はそんなミスはしない。私があんたの分まで優勝する」
ヴィヴィアンさんがジョゼさんの目を見つめ、静かに言う。
「お前は私なんかよりずっと凄い。間違いなく優勝する。それは私が保証しよう」
ジョゼさんがそれに応え、深く頷く。
するとヴィヴィアンさんは、やれやれといった風に首を振った。
「何言ってるのよ。あんたの方が私なんかよりずっと凄い。それは私が痛いほどよく分かっている。でも、負けない! いつかあんたを越えるような物を作り出してやるんだから」
ヴィヴィアンさんはそう強く宣言すると、ジョゼさんの返事を待たずに帰ってしまった。
ジョゼさんはそんなヴィヴィアンさんの背をずっと見ていた。
「ジョゼさん、俺たちも帰りましょう」
ぼうっと立つジョゼさんの側に寄り、声をかける。
『帰ろう?』
ミミがジョゼさんの手を取り、首を傾ける。
「ああ、そうだな」
ジョゼさんが穏やかに頷き、ミミの手を握り返す。
『マスターはそっちね』
「うん。ジョゼさん手を出して」
ミミに言われ、ジョゼさんと手を繋ぐ。
三人で手をつなぎ、横一列となって工房へ向かって歩く。
「ふふ、私は真ん中か」
俺たちと手を繋いだジョゼさんが微笑する。
「ミミ君の手は小さくてかわいいし、まるもっちー君の手は相変わらず柔らかくて温かいな」
俺たちの手を交互に強く握り、ジョゼさんが笑う。
「魔力の調整を行えば、次回は優勝間違いなしですね」
今回の失敗を活かせば、次のレースで優勝できる。
出場した魔走車を全て周回遅れにしていたし、楽勝だろう。
「それは無理だな」
ジョゼさんが静かに首を振った。
「え、どうして」
「あれだけの大差がついたんだ。次回のレースは皆、同じコンセプトの魔走車で出場してくるだろう。大手の工房なら、大量の試作を行い、より洗練されたものに仕上げてくるに違いない」
「そうか……。次回までの期間があれば……」
実際に走っている見本を見たわけだから、無から作り出すよりは難易度は低い。
大手の工房ともなれば、そのくらいはできて当然なのだろう。
次のレースまでの時間があれば、技術も追いつかれてしまうということか。
「私も先駆者としてもう一段先の調整が可能だろうが、それでも接戦は免れない。これだけ大きなチャンスは今回限りだったんだ」
ジョゼさんが前を向いたまま呟く。
「それがよく分かっていたから限界まで調整したし、魔力も限界ギリギリまで使いきる計算で勝負に出たんだ。本来なら周回遅れにした時点で速度を落とせばよかったんだが、記録更新に目が眩んでしまった。今ならそう冷静に言えるが、試合中はそんな精神状態じゃなかった」
本選に初出場で、あの結果だ。冷静でいられるわけがない。
「凄く興奮していた。自分の魔走車が独走状態にあり、優勝は確実。いろんなことが頭をよぎった。ほんとうにいろんなことが……」
ジョゼさんの声は次第にしぼんでいく。
「後少しだったんだ……」
ぽつりと呟き、何かを堪えるように上を見る。
「勝ちたかったな……」
そう言ったジョゼさんの目からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。
「ジョゼさん……」
『飴食べる? 美味しいよ』
ジョゼさんの涙を見たミミが慌てるように紙袋を漁り、飴を差し出す。
「いただこう。うん、甘くて美味しいな」
飴を口に含んだジョゼさんは嬉しそうに笑った。
それを見たミミがにっこり笑い返す。
「ジョゼさんは今日のレースで一番かっこよかったです。俺は夢中になって見ていましたよ。あの走りを見て、俺と同じ気持ちになった人がきっと沢山いるはずです」
『ミミもだよ!』
「ありがとう」
そう言ったジョゼさんの顔にもう涙はなく、穏やかな表情に戻っていた。
日が傾き、空がオレンジ一色に染まる中、夕陽に向かって三人で歩く。
沈み行く夕陽が視界の高さへ迫り、目も眩む眩さを放つ。
日の光はほのかに暖かく、自然と体の強張りが解けていく。
そんな体とは対照的に、手を握る力が少しだけ強くなる。
そして誰からともなく、繋いだ手を大きく振りはじめた。
それがおかしくて、顔を見合わせて笑ってしまう。
確かに、レースの結果は残念なものだったかもしれない。
だけど、今日はそれだけじゃなかった。違う視点から見ればいいことも沢山あったのだ。
さあ、帰って盛大に打ち上げた。
沢山のいい思い出が出来れば、思い返したときもきっと楽しい気持ちになれるから。




