220 母から語られる衝撃の事実……!
時間の経過を感じながらじっと待っていると、関係者入口から魔走車を押すジョゼさんが姿を現した。
その周囲には他の選手やスタッフが群がり、なにやら笑顔で話している。
ジョゼさんは俺たちに気がつくと、集団に会釈しこちらへと向かってきた。
「やあ、待たせたね。皆、私の魔走車に興味津々で放してくれなくてね。出てくるのに手こずったよ」
「お疲れ様です」
何か言葉をかけたいが、思い浮かばない。
後少しだったのに……。せめて三位までに入れば表彰されたのに……。
「君がそんな顔をするな。そもそも手で押してゴールしても優勝にはならない。四位でゴールしたが、無効だ。魔力切れを起こした時点でルール上は失格なんだよ。回りが周回遅れだったのと、ギャラリーが盛り上がっていたからスタッフの温情で押させてもらえたが、本来は危険行為で厳重注意の案件だ」
だからあの時ヴィヴィアンさんは黙っていたのか。
あの時点で結果が分かっていたんだ。
「それでも……」
なんともやるせない気分だ。
「そう悔やむ事はない。優勝は出来なかったが、それなりの依頼は取れた。私の魔走車をいたく気にいってくれた人からアプローチがあったんだ」
「そうだったんですか! 良かった……」
ひとまず、ジョゼさんが笑顔なことにほっとする。
成果も出たみたいだし、良かった。
俺が胸をなで下ろしていると、ジョゼさんのお母さんがジョゼさんを抱きしめた。
「ジョゼ! 凄い魔走車だね! あたしゃ驚いたよ!」
「母さん」
お母さんの言葉にジョゼさんが顔をほころばせる。
「こんな立派なものを作るなんて、あんたも一人前の錬金術師になったんだねえ! ほら、お父さんもなんか言ってあげて!」
「これで満足しただろ。家に戻って畑を手伝え」
視線を逸らしたお父さんがお祝いムードに水を差す。
「それはいくらなんでも……」
今言うことじゃないんじゃないのか。
そう言いかけて、途中で口をつぐむ。
ここで口論になる事をジョゼさんは望まないはず。
レース中はあんなに叫んでいたのにどうして……。
そういう気持ちがあったとしても、今は健闘を讃えてあげてほしかったな……。
お父さんの言葉を聞き、ジョゼさんは俯いて固まってしまった。
「なあに言ってるんだい、この人は!」
と、ジョゼさんのお母さんがお父さんの後頭部を思い切りはたいた。
スパン! と強烈な音が鳴り、お父さんが前のめりに倒れそうになる。
「何するんだ、お前!」
「昨日までハラハラして眠れなかったくせに強がってるんじゃないよ! 正直に娘がかわいくて仕方ない上に、心配でしょうがないから家にいろって言ったらどうなんだい!」
「え、それってどういう……」
俺はお母さんの言葉に首を傾げる。
話の方向が見えないぞ?
「この人はねえ、筋金入りに娘が大好きなのさ。でも、面と向かって言うのが恥ずかしいから遊んでばかりいるなとか、畑を手伝えって言い訳するのよ!」
「おい、やめろ!」
お父さんが慌てた様子でお母さんを手で制する。
しかし、その動作に効果はなかった。勢いづいたお母さんは話すのを止めない。
「この間帰って来たときなんて、寝る前まで嬉しそうにジョゼが帰って来た、成長して綺麗になっていたとか、ずっと言ってるのよ」
「やめろと言っている!」
お父さんが声を荒らげながら、お母さんへ近寄る。
「深夜近くまで娘が可愛いって散々言ったと思ったら、次の日からはレースに出るなんて心配だ、怪我するんじゃないかって毎日言い出すのよ。こっちの身にもなって欲しいわ!」
「んーッ!」
とうとう我慢できなくなったのかお父さんが実力行使に出てお母さんの口を塞ごうとする。
だが、お母さんの腕力は凄まじく、あっさり腕を極められて行動不能に陥るお父さん……。
「昨日からはレースに行く、レースに行くって子供みたいにはしゃいで。いざ、会場に着いたら、チケットを忘れて顔を真っ青にしてるのよ? 私がジョゼが来る前にたまたま自由席のチケットを取っていたから会場に入れたけど、この人ちょっと泣いてたからね? そもそも、お前にチケットは預けられないって自分で管理していたのに忘れるなんてどうかしてるわよ! もう少しで私まで入れないところだったわ。それでやっと席に着いたら、今度はちゃんとスターティンググリッドに並べるか心配だとか、最下位になったらどう励ましたらいいんだとか、ずっと言ってるのよ……」
とうとう何も言えなくなって押し黙るお父さん。
何かを耐えるように顔は真っ赤で全身はプルプルと小刻みに震えている。
ここまでやると可哀想過ぎる。まるで公開処刑じゃないか。
「父さん……」
辛辣にあたるお父さんの行動の真意を理解し、言葉を詰まらせるジョゼさん。
「う、嘘だからな。これは母さんのでっちあげだ」
しかし、お父さんは見苦しく言い訳。どこまでもツンデレが過ぎるぞ。
「……ありがとう」
ジョゼさんは目を潤ませながら小さく呟いた。
「まあ、その、なんだ……。俺はよくやったと思うぞ」
口を限界までモゴモゴさせ、出てきた精一杯の言葉。
そんな印象だった。
「それじゃあ、あたしたちは帰るよ。結果は残念だったけど、あんたは私たちの中じゃあ優勝してた! かっこよかったよ! よく頑張ったね!」
お母さんが再度ジョゼさんを強く抱きしめ、歯を見せて笑う。
「たまには帰って来い。母さんが心配する」
お父さんが視線を合わせずにボソリと呟く。
二人はジョゼさんとの別れを惜しんでいたが、明日も仕事があるとのことで帰って行った。




