新たな依頼②
その人は目の前で水に飛び込み沈んでいった。そしていまだに上がってきていない。
突然だが俺の本当の職業、それはとある私立高校の「守衛」である。
もともとは「空き巣」として日々大活躍を続けていたのであるが、現行犯逮捕されたのを機に泣く泣く現役を退き、先の4月から契約社員として新たに働き始めた。運よく「初犯」と認定されたことで不起訴処分となり、再就職の際の「欠格事由」に該当しなかったのだ。
以来早、5ヶ月ほどが経過しようとしている。
「空き巣」が「守衛」に転職するというのは、何やら出来の悪い皮肉のようにも思えるが、そうではない。俺自身、働き出してみて初めてわかった。鋭い目つきで有象無象の挙動を監視したり、鍵束を持ってそこらじゅうを徘徊したりといったことに日々精を出す「守衛」というのは、広い目で見れば合法的な「空き巣」のようなものなのだ。
とは言えもちろん他にも仕事はあって、実際の業務内容は主に2種類に分けられる。
1つ目は校門付近に設けられた小屋みたいなのに常駐し、やってきた業者などに対応することだ。「日勤」のシフトの場合は主にこの仕事に取り組んでいる。あとは遅刻、早退の生徒の対応とかそのあたりだ。
2つ目は夜の見廻りである。「夜勤」の場合はこの仕事が中心となる。だいたい20時頃から、明かりの消えた校舎内外をうろつくのだ。最初の内は探検のようで興味深くなくもなかったが、さすがに何回もやっていると飽きて来る。とは言え、仕事であるからして仕方がない。仕事に楽しみを見出そうなどと戯けた考えを起こすのは、プロのすることではない。
だがいくらプロでも、我慢ならないことは確かにある。この仕事で言えば、生徒と名のつく奴らのクソさ加減と、教師と名のつく奴らのクソさ加減だ。
まず生徒。そもそも俺は奴らが大嫌いなので、基本的に視界に入れないよう気を付けている。だが、誤って目が合ってしまう時はもちろんあって、そういう場合には挨拶しないわけにはいかない。人として当然のことだ。にもかかわらず、クソガキどもの方はさすがにクソだけあって基本的に反応を返してくることがない。俺たち守衛を、風に吹かれて揺れる樹木の枝か何かだと勘違いしていやがるのだろう。ごくたまに軽く会釈してくる奴もいるが、それもせいぜい10人に1人ぐらいだ。つまり0.0001パーセントだ。残りの999割は完全無視だ。存在を認知することすら、御免こうむりたいようだ。……いったい毎日学校で朝から晩まで何を学んでいるのか?
さらに生徒と並行して厄介なのは、保護者と名のつくクソどもだ。奴らはいったい、何様のつもりなのか? 予め担任を通じて「駐車許可証」を発行してもらってからでないとダメだと言っているのに平気で無断で車で来校し、入口のバーをぶち壊さんばかりの勢いで構内に乗り入れて来ようとしてきやがる。また、そこらへんの車道に平気で急停車してガキどもを乗降させようとしやがるクソどもにも閉口している。「危険だからやめてくれ」と注意すると、すぐさま学校に苦情を入れて来やがるという体たらくだ。やはりこいつらも、俺たちのことを使用人か召し使いの類だと勘違いしておりくさりやがるのだろう。……頼むからクソガキと一緒に、幼児教育からやり直してくれや。
だがまあ生徒のクソさを日々助長しているのは親であるはずなので、クソガキどもがクソである限り、その親もまたクソであるというのは非常に残念ながら誠に論理的に必然だとも言える。「子が子なら親も親」というわけだ。
しかしダメだ。
教師がクソなのだけは絶対に容認できない。もし仮にそれほど熱心にクソであり続けたいのならば、奴らは教師であることを諦めるべきだ。違うか? ……いや、違わない。違ってもらっては困るし、そもそも、違う、はずが、ない。




