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いくつかの事件⑬

「ヘビ……、ヘビ……ねえ……」

 オオタニが相変わらずバカの一つ覚えのように、わけのわからないことをほざいてこちらを困惑に陥れようとしているのだと瞬時に悟った私は、この辺りでいっぺん絞めとくかと思い、「事務所」の中に戻った。

 状況証拠から推し量るに、「事務所」内のどこかにあの忌まわしきZが潜んでいるはずで、しかしにもかかわらずどこにいるかわからないということが一抹の不安を掻き立ててはいたが、そもそもここは俺の方の本拠地なのだから何を恐れることがあると私は自らに言い聞かせ、そのまま速足で一気に「書斎」へと向かった。廊下の軋む音が、いつもよりも大きく聞こえる気がする……。

 もとより長い間滞在するつもりはなかったが、そのうえさらに「書斎」が相変わらず「封印領域」の様相を呈していることに言い知れぬストレスを覚えもした私は、箪笥の上に置かれていたミッ●ーマ●スの人形を掴むとすぐに引き返した。ミッ●ーマ●ス。言わずと知れた人型のネズミ野郎であり、「ハハッ、僕ミッ●ーマ●スだよ」とか何とかいう宣言を口癖としているという意味合いにおいて、「コ●ン」くんに負けず劣らず頭のイカれたあいつのことだが、その人形を収拾する癖が私にあるはずがない。

 翻って考えれば、それもまた「書斎」→「封印領域」という変化に伴ってその場に用意されたものだった。まさしく、「クソガキどもの部屋」というコンセプトで以て製作されたらしい「書斎=封印領域」にふさわしいアイテムというわけだが、先の二度の訪問で、既にその存在に気づいていた私がそれを手に取ったのは、もちろん「クソガキども」とは異なり、アホ面提げてそれを愛で倒すためではない。繰り返しにはなるが、一応確認しておけば私の目的はひとえにオオタニを絞めることである。そしてだとすれば、「ミッ●ーマ●ス」くんの力を借用して取り組むだろうことは、後にも先にもただ一つしかあり得ない。

 もっとも、この隙にオオタニとWとがどちらも姿を消している可能性は想定しないでもなく、そのことがわずかな懸念ではあった。もちろん私自身の本心からしてみれば、消えてくれていることの方がよほど都合が良いのであるが、反面、奴らが街に放たれた時の混乱や、住民に対する影響を考慮すると、「消えていない」ことの方が「消えている」ことよりも総合的に見てわずかにマシだというのも事実だった。つまり結論から言えば、奴らが勝手に「消えている」よりも、「消えていない」奴らを私の手で以て成敗することこそがこの場合の最適解たり得たということだ。

 そして果たして奴らはそこにいた。

 オオタニが再び耳をWに近づけ、その声を聴いている……いや、何事か言葉を交わしているのか? 

 そのような感じで奴らの行動についての把握は中途半端なところまでしか進展しなかったが、それは奴らがそれだけ私に対して慎重を期していた(つまり、何をしているのかを悟られないようにしていたということ)からではなく、私の側にその「把握」よりも前にまず優先すべきことがあったというだけだ。 

 私は人形を掴んだまま外に出ると、2人に聞こえるように大声で叫んだ。

「オイッ! よく見とけよっ!」

 そして間髪を入れず、人形をマンションの外廊下に叩きつけると、のしかかって所謂「マウントポジション」を取り、締まらないニヤけ顔のネズミ人間目掛けて「拳の嵐」を浴びせかけ始めた。時折「ウラッ!」とか何とか気炎を吐きながら、相手の顔が歪んでもなお攻撃の手を緩めないその姿は、傍から見ればさながら「鬼神」のように映ったに違いあるまい。もちろん、気がふれたとかそういうことではなくて、要するに私はそれらの一連の行動を通じて、自身に逆らうとどうなるか、オオタニらに身をもって思い知らせてやろうとしたのだった。本来愛玩のための用具にすぎないネズミ人間の人形相手にさえ、全く手を抜くことなく完膚なきまでに叩き潰そうとするその徹底ぶりは、まさしく見る者を恐怖のどん底に突き落とすのに十分すぎるほどの威力を備えていただろう。「~だろう」というか、少なくとも、私は私自身に対して身震いを禁じ得ず、寸でのところで失禁してしまうところだった……。


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