表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/199

いくつかの事件③

 ところで、その時私が「配送」を利用して手に入れようとしていた「アイテム」とは、いったい何だったのだろうか? 勿体ぶっても仕方がないので思い切って明かしてしまえば、それは「腕時計」である。とは言えもちろん、例えば、芸能人やスポーツ選手の連中がよくやっているように、本来ただ時刻を確認するためだけのものであるにもかかわらず、わざわざ大枚をはたいて高級品を購入し、メーター側の思う壺だということに全く気付かず周囲の者たちに見せびらかして大喜びをし、ただ値段が高いというだけなのに何やら自分まで偉くなったと勘違いして誇らしい気分になろうなどと考えていたのではない。そうであれば、「名探偵」どころか、「ただの間抜け」という冠名さえ、あまりにも身分不相応な呼称であるとして、即座にご遠慮願わなければならないだろう。

 だからそうではなくて、私にとって新たな腕時計を入手できるか否かは、言うならば「死活問題」だった。Hのアジトに連れ込まれた8月末以来、大げさでなく生死を左右する問題となっていたということだが、そのことを自覚するに至った最大の要因は、あの日、私の動きの多くが、Hの連中に筒抜けになっていたことである。

 そう、奴らは私の行く先々で、まるでこちらの動きが予測できているかのように先回りして待ち伏せをし、私の前に立ち塞がってきた。それどころか最終的には私を巧みに誘導し、「封印」のために特化した「領域」へと連れ込んでくれまでした。その手管はあまりにスムーズで流れるようでさえあり、逆にむしろ違和感を覚えるほどであったように記憶する。

「事務所」へ戻っていったん身の安全が保障されたのち、改めて冷静になって思い返してみて初めて、なぜあれほどまでに簡単に、私が奴らの誘導に引っかかってしまったのかがわかった。原因は私ではなく、奴らの方にこそ存した。簡単に言えば、奴らは裏技、言い換えれば「チート」を使っていたのだ。非常に万能で、逆にだからこそ使うことが「卑怯」にも該当する裏技……。その手法を端的に名状すれば、「発信機の設置」ということになるだろうか。

 ところでごく一般的な傾向として、「探偵」にとって「時計」というのは非常に重要なアイテムである。

「コ●ン」くんのように、麻酔針を打ち込んで他人を昏睡させる際に重宝するからではない。相手を廃人にしてしまう可能性を全く一ミリたりとも考慮せず、平気な顔で何度もそのような非人道的な行為に身を投じられるのは、事あるごとに飽きもせず「江戸川コ●ン、探偵さ」などと言い、ドヤ顔することだけを生きがいとしているようなあの「怪獣」レベルで頭のデカすぎるクソガキだけだ。

 だからそうではなくて、少なくとも私が腕時計を肌身離さず持ち歩いている理由は、犯人を確保する際、その時刻を正確に確かめておく必要があるからである。これは「名探偵」であろうがなかろうが関係なく、また好む好まざるにかかわらず、実際上、絶対に欠かせない手続きなのだ。

 そしてだからこそ、そこを突かれたわけだった。

 正直言って、盲点だった。繰り返しになるが私が時計を持ち歩くようにしていたのは自らの意志からではなく、ただの慣例によっている。正式にベルトで腕に巻き付けるのではなく、ポケットに放り込んでおき、本当に必要が生じた時だけ取り出すようにしていたとの事実(先ほどから「持ち歩く」という表現を当ててきたのはそのためだ)が、腕時計に対する私の無関心の度合いを顕著に示していると言えるだろう。

 だが、せわしなく移動を続ける私の位置を、その時々でリアルタイムに把握することを成し遂げるためには、私と共に移動する物体を把捉し続けるしかない。つまりその「物体」こそ、何を隠そう先ほどから言及している腕時計というわけである。これ自体はごくごく簡単な推理ではあり、本来であればお披露目することさえ憚られるほど幼稚な代物だが、反面、だからこそ、それはただの「推理」ではなく、確たる「事実」として、最大限尊重されなければならない。要するに、そういうことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ