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9月24日㉞

 とは言え、予期せずして「家族」の面々から距離を取れたのはやはり正直僥倖だった。いくら「捜査」のためだとしても、さらに今しばらくの間、時間と場所を共にすることを求められてしまえば、さすがの私も耐え切れたかどうかわからない。結果、「犬神家」もびっくりの「骨肉の争い」が、車中にてにわかに展開され始めてしまったとしてもおかしくはなかったということだ。

 しかし反面、そこで降車したことは、もちろんいいことずくめというばかりだったわけではない。

 例えばその場所は駅からかなり遠く離れていたので、「目的地」に向かうのにはだいたい徒歩で30分ほどの時間が必要とされるはずだった。普段から鍛えている私にとっては、どれだけ歩こうが大した負担ではないが、30分という決して短くない時間をただ「移動」のためにのみ費やすというのは、もちろん好ましい展開ではなかった。

 それゆえ私は足を動かしながら、意識してある一つの対象に思考を集中させることを試みた。いや、より正確を期すならば、「一つの対象」ではなく、「一人の人物」という風に、名状せねばなるまい。私は歩いている間中ずっと、頭の中でその人物のイメージを矯めつ眇めつしており、もともとただの「気散じ」がてら始めたその企ては、いつしか逆に私を取り込み、「目的地」の近くに辿り着いたことにさえ気づかないほどになった。もちろんここで言う「一人の人物」とは、これまでに2度遭遇したことのある、あの「浴衣姿の少女」である。

 恐らく偶然なのだろうと思う。というか、そうでなければおかしい、そもそも偶然でないのならば、何らかの原理がそこに作用しているということになるが、しかしだとしても、その「原理」が何なのか、結局さっぱりわからない……。考えれば考えるほど、困惑は深まるばかりだったが、反面、ここまで得られた情報や直面した状況などの諸々を総合して推理するに、火事が彼女の「出現」を後追いする形で発生しているように思われるというのは、紛れもなく確かな事実だった。 ……要するに、文字通りの「火付け役」というわけか? ……たわけている、あまりにたわけていすぎる……。

 一応断りを入れておけば、「火事が~発生している」ことではなく、「火事が~発生しているように思われる」ことが、私にとっての「確かな事実」だった。つまり「名探偵」としての私の脳みそは、「豪邸」と「風俗店」の2箇所において【彼女の目撃→火災発生】という流れが共通して見て取られた件について、それを単なる偶然ではなく、明確な繋がり(≒因果関係)によって結びついたものであると判断し、私を再びの「風俗店」訪問へと導いたわけだった。

 だが結論から先に申し上げれば、私は結局のところ、当の現場までたどり着くことはしなかった。

 ……できなかったのではない。しなかったのだ。理由は大きく分けて2つある。

 1つ目は、実際にその目で見ずとも、十分に結果がわかりきってしまったということだ。

 駅へと向かう大通りには商店街の一帯が広がっており、その付近には既に消防車や救急車が止まっていて、所謂「物々しい雰囲気」とやらが醸し出されていた。野次馬も多くいて、日付の境目も近いこの時刻とは思えないほどの盛況っぷりだった。要するに、興奮していてもたってもいられないらしい奴らがわんさか沸いて出てきていており、そのスタンス自体の是非については賛否両論あるのだろうが、いずれにせよ、やはり付近で火事が起こったのだということは、それだけでまさしく「火を見るよりも明らか」だった。

 さらに現場の様子を確かめずに済ませた理由のもう1つは、それらの「野次馬」の中に見知った顔を見かけたことだった。

 商店街の中ほどには「レコード屋」があった。より正確を期すならば「~レコード」という店名から、昔は「レコード」を売っていたのだということが推し量られるが、今は時代の趨勢に合わせてCD販売に舵を切っている(むしろそれもまた、既に「時代遅れ」なのかもしれないが)店で、「見知った顔」はその店頭、丸い柱状の灰皿を前にして煙草を吸っていた。既に深夜と言ってよい時間帯で、シャッターの下ろされた店先にはもちろんほとんど照明の類など灯されていなかった。にもかかわらず、私はそいつを「見知った顔」であると、すぐさま判断することが可能だった。なぜならだろうか? ……端的に言えば、そいつがランドセルを背負っていたからだ。

 そう、いろいろなことが起こりすぎて、時間にすればほんの少し前のことなのに既にずいぶんと昔のことのように思えるが、かつて「ライオン」の背にまたがって登場し、自ら「名探偵」と名乗ったあのアズマという「こどおじ」が、ちょうどその時、再び私の目の前に姿を現してくれたのである。


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