9月24日㉗
「じゃあ、買ってきます」
「はあ?」
「ハゲネズミ」が大げさに眉間に皺を寄せ、後ろを振り返った。「家族」もまた、一丁前に顔を見合わせることをしている……。要するに、一挙に場が困惑の渦に包まれたわけだが、反面それはある意味、奴らにしては珍しく極めて「正常」な反応だった。なぜなら、唐突に一言を場に挿入してくれた人物は、私たちの剣呑なやり取りとは本来何の関係もないはずの「第三者」だったのだから。
その人物は、「ハゲネズミ」の背後から乱入を果たしてきた。そう、まさしくその登場の仕方は、「乱入」と称されて然るべき勢いと唐突さを兼ね備えていた。
「ハゲネズミ」が困惑気味に声を漏らしたところで私は身を起こした。背もたれに寄りかかって腕組みをし、その人物をとくと見据える。要するに「おかめ」や「ハゲネズミ」らに向けたのとは異なるアツい視線を送ったわけだが、その間にも「第三者」は、長大なセリフをあたかも呪文か何かのようにひどく円滑にまくし立ててくれていた。
「何も食べないなら場所あけなきゃいけねえんだろ? そうなんだろ? わかったよ、よおおくわかった、じゃあ、買ってきてやるよ、買ってこりゃいいんだろ、買ってこりゃあよお、食いたくねえがしかたねえ、そもそも金持ってねえがしかたがねえ、その代わりそこらへんで強盗発生したらテメエらのせいだからな、いいか覚悟しとけよ、捕まったらテメエらに唆されたって全部洗いざらい白状してやるからな、ククク、おしめえだよ、貴様らは全員おしめえだククククククク……」
「第三者」の独擅場はそれからしばらく続き、その結果、「ハゲネズミ」と「家族連れ」は、首をひねりながらどこかへ立ち去っていった。要するに私自身の力ではないものの、結果的に見事、「撃退」に成功したわけである。容易に想像できることだが、おかしい奴らを出し抜くためには、ほんのわずかであってもそいつらよりもおかしくあることが必須となる。つまりこの場合で言えば「第三者」の存在が、「おかしさ」という点で「ハゲネズミ」らを上回ったわけだった。
だがその人物に対し、殊にこの私が感じた「おかしさ」に関して言えば、それは例えば通常の意味合いでの「奇妙さ」とは微妙に様相を異にしていたと見なされなければならない。
初めにその姿を視界に入れた時、私はやけに高い背丈と、上から見下ろされている感に、どこか覚えがあると感じるだけだった。
だがしかし、長ゼリフを聞かされながら、改めてじっくりと観察したことで、私はそいつが、以前に会ったことのある人物だと気がついた。
「……お前、ヤスナガか?」
気づくと私は問いかけていた。
ヤスナガ。
そう、もはや皆まで言わずとも明らかだろうが、かつて一緒にハギワラヨウコ宅を調査しに行ったあのエセ「霊媒師」である。さすがにTPOを考慮したのか、前回とは異なりトレードマークと思しき黒コートは身に着けていなかったが、口髭と馬みたいに面長な顔立ち、そして何より馬鹿でかい身の丈は見間違いようがなかった。……いや、だが一体今さら、どうしたというのだろうか……?




