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9月24日㉔

「デパート(厳密にはショッピングモール)」にたどり着いてすぐ、なぜか「家族」全員(私とMとZ)で喫茶店に出向き、やけに馬鹿でかいパフェとメロンソーダとを堪能した後、やはりなぜかそれぞれが「解散」して好きなように「散策」に取り組むというわけのわからないくだりが挿入されることとなった。先のMの話には、「映画」とか「迎えに行く」とか、そういう類の表現が散見されたように記憶するので、てっきり「映画」を見に行った誰かを「迎え」に来たのかと思っていた私は正直出鼻をくじかれたという感が強かった。

 だがしかし余計なことで声掛けを行ってまた叱責を受けるというのも気が引けたし、そもそも呼び止めるより前にZとMは、弾むような軽やかな足取りでどこかへ行ってしまったので、仕方なく私も喫茶店を後にして「フードコート」へ向かった。その名の通り、ラーメンや海鮮丼やアイスクリーム、さらにスパゲッティやハンバーガーといった料理を提供する所謂「食事処」が所狭しと並んだその場所を私が訪れたのは、しかし「小腹が減ったから何か食べよう」などと野性味あふれる考えを起こしたためではない。逆にすぐ前で摂取した「甘味」のせいで、腹の中では恐らく『黙示録』もひれ伏すレベルの大災害が繰り広げられていただろう。少なくとも私はそう、感じていた。

 だから「フードコート」を目指した私の真の目的は、「何かを食べること」ではなく、「赴くこと」それ自体だった。

 もちろん本来「名探偵」の私が一心に取り組むべきなのは、いついかなる時であってもHの根源を断つこと以外にないのであるからして、ここで言う「真の目的」とは、所詮単なる「暇つぶし」以上ではあり得ない。その証拠に、私は「食事処」には目もくれず、というか「フードコート」の中に入っていくことさえしなかった。代わりに私が接近したのは、世間一般に「カプセルトイ」との呼び名で以て言い表されるあの小ぶりの機械である。「フードコート」の区域の脇に、群れを成して屹立していた。

 しかし、「カプセルトイ」という専門用語が登場してきたということで、その機械に硬貨を挿入し、レバーを回すことで産み落とされてくるでっかい睾丸みたいなのをねじり開けて中から出てきた物体に目を輝かせて大喜びすることを私が目当てとしていたのだなどと、早合点してもらっては困る。私はそれほど幼稚ではない。狭い産道を潜り抜けたことから始まり、これでもかという具合に容赦なく襲い掛かられ続けてきた苦難を、全て不屈の精神で乗り越えてきた私は、むしろ年齢の割に限りなく老成していると言えるだろう。実際幼い頃から私は、何が面白いのか知らぬが、親から「老け顔」と言われ、からかわれていた覚えがある。

 ではなぜ「カプセルトイ」の付近が「お気に入りの場所」であったのか。

 その答えは存外単純である。要するに硬貨さえ入れず、ただひたすらレバーを回しまくることが、ちょうど憂さ晴らしにはもってこいの大きさの快楽を提供してくれるためだ。

 言葉で説明すると非常に地味で何ら面白みのないように思われるこの行動は、しかし実際にはなかなかどうして、ファンキーなものなのである。嘘だと思う者は試しに実行してみたまえ。

「ガチャ」という通称が示す通り、存在自体がふざけていると言って過言でない「カプセルトイ」の野郎は、それでいて一丁前の矜持は保っているらしく、いったんレバーが動かなくなったところからこちらがさらに無理やり力を加えていくと、ほどなくして「ギリギリ」などと耳障りな奇声を発しながら抵抗を試み始める。もちろん「抵抗」自体は本来決して好ましいものとは言えまいが、実力差が明白である場合、話は別である。「カプセルトイ」の例で言えば、アイツらの必死の「抵抗」を完全に無視してさらにねじ切るように思い切り回しまくるのが気持ちよくてならんのである。

 それゆえ私は普段から、同じ「デパート」内で気分が荒むとすぐにその場所を訪れ、仮初の癒しを自らに与えることを習慣としていた。……いや、普段から……だと?

 しかし殊にその日に関して言えば、私は上述の試みから期待したような快楽を得ることができなかった。

 なぜだか知らぬが、そして意図も全く不明だが、「フードコート」付近に簡易の滑り台みたいなのが設置されていて、そのせいで周辺にクソガキどもが次から次へと沸いてきやがりくさり始めていたためだ。

 もちろん「滑り台」というのが非常に有能な遊具であることは認めよう。天辺から勢いよく滑り降り、下まで辿り着いたところで踵を返して滑走面を逆に登っていく。それを繰り返すことで主に心肺、及び下半身に適度な負荷を与えることができる。同様のトレーニングを定期的に自らに課している私は、その効果を身をもってよく知っていた。

 だがそれでも外に行けば公園などいくらでもあって、しかもその大半にはもっと本格的なのが設置されているのであるからして、なぜわざわざ屋内でミニチュア化されたお楽しみを味わわなければならないのか、本当にさっぱりわけがわからない。しかも時刻はもう夜の十時に近いのだ。……ふらふら外で歩いてねえで、お子様はおとなしくオネンネしていてくれよ……。

 もちろん、(恐らく「名探偵」を標的にした)そういう明らかな嫌がらせに対しても、私にできるのはただひたすら「諦める」ことだけだ。そんなに滑りてえなら公園行ってこいというのが本音だが、まだ自分の名前もわからないぐらいのクソガキに何を言っても無駄だし、そもそも「親」とかいうのを自称するあの連中の頭が極限まで沸いていることこそが全ての元凶なので、クソガキどもを仮にその場で袋叩きにして一時的に身体に常識を教え込んでやったところで問題が解決に至るなどということはない。

 ……「親」とかいうのを臆面なく自称するあの連中は、本当にいったい何を考えているのだろうか? 

 自分たちの「愛の結晶」であるはずのクソガキどもを、このような夜更けに何ら恥じることなくそこら中に放し飼いにするだけに飽き足らず、私が前述のように「カプセルトイ」のレバーを回して大層良い気分におなり申し上げ仕り候いたしているところに身の程知らずのクソガキが突入してきて私の邪魔を始めても何ら悪びれる様子もなく、せいぜい「●●(恐らくクソガキの名前)くうん、そっちいっちゃだめよ~」などと猫なで声をあげてなだめようとし始めるだけが関の山なのであるからしてたわけていると言わざるを得ない。いや、いくら「猫なで声をあげてなだめようとし始めるだけ」であっても、「注意」の意志をほんの少しであれ示してくれるのであればまだマシと言うべきかもしれない。裏を返せばほとんどの「親」は、私を押しのけるようにして「カプセルトイ」の機械にベタベタと触れ、さらに舌でその表面をベロベロ舐めくさりやがるなどといった狂気に満ちた行動をまざまざと見せつけるクソガキどもに対して、全く「注意」をしないどころか、むしろその様子を写真におさめなんぞくさりやがって一緒に大喜びしてさえおりくさりやがるというのだから驚きだ。……悪いことを言わないから、親子ともども、生まれるところからやり直してくれ……。


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