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手記⑦

 ところでこのように言うと、遅かれ早かれ必ずある一群の集団が出張ってくることになるという展開を、我々は予め覚悟しておかねばならない。「ありがた迷惑」という言葉を知らないらしく、死ぬほどお節介なその連中は、こちらが許可してもないのに突然現れたかと思うと、

「何かを成し遂げられるか否かは最終的には当人の『意志』と『努力』次第なのであるから、結局のところ、『夢』が夢のままに留まっていることの究極の原因はお前自身にある、本当に『夢』を叶えたければ、他人のせいにするより前にまず行動せよ」

とか何とか、長ったらしい正論を突き付け、糾弾をかましてくるのである。そう、自分はその「意志」と「努力」で自ら道を切り開いてきたのだと思い込み、その空虚な自負自体を心のよりどころとして自分を保ち続けている筋金入りのアホどものことだ。まずそのようにエラそうにほざき散らすことが、自分のアホさ加減を何よりはっきり証明しているのも同然なのだと気づいていないだけでもやはりあまりにアホすぎる。相手にしないのがもちろん専らの最適解ではあるが、仮に一言だけ発言をお許しいただけるのならば、俺は次のように反論を試みたい。

 ……貴様らは他人の不幸に託けて極めてもっともらしいこと、すなわち誰でも知ってはいるし頭では理解している常識的な事柄を物々しく口走って快楽を得るより前に、まず、自身がいかに幸運であるかをよく噛みしめておくべきだ、なぜなら例えばもし貴様らが仮に「我が家」の一員としてこの世に生を受けたのであれば、「お前が異性と関わり合いを持ってこられなかったのはひとえにお前のただの努力不足だ」などと説教をかますことはおろか、自分もまた半永久的に「異性」とお付き合いを許されず、その結果、やがて「異性」の存在を口にすることさえ躊躇うようになったはずだからだ、試しに想像してみたまえ、例えば同じ学校の同級生女子から年賀状が来ただけで、「うわっ、この子あんたに色目使ってるわ、気をつけなさいよ」と注意され、ブツ自体を没収されたり、あるいはテレビに出ている女性芸能人に対して、事あるごとに「うわっ、こいつ絶対整形だわ、瞼が明らかにおかしい、あーあ、なんでそんなことしちゃうんだろう」とか何とか、悪口雑言の類を吐き散らかす様を見せつけられたりといった環境で生育されてきた者は、「被害者」をこれ以上増やさないようにするべく、「異性」から極力距離を置くようになる、それこそが、ごくごく自然な流れではあるまいか……?

 そして俺は実際、問題の「4歳」から今年の夏に至るまで、異性と深い交流を持ったことがなかった。

 一応断りを入れておけば、ここで言う「深い交流」とは、「連絡事項の伝達」以上のやり取りを意味している。つまりごく普通の基準からすれば、全く「深」くなど、ないだろう。だがそのレベルのごく初歩的なコミュニケーションさえ禁じられていたというところから、逆に俺の陥った境遇の尋常ならざるヤバさがうかがい知れることだろうと思う。ただ生まれただけで、つまり何も悪いことなどしていないのに、いつしか半ば自動的に、なかなかどうして克服することの困難な袋小路へと追い込まれてしまっていたこと。それのもたらす暗澹たる雰囲気と究極的な閉塞の感によりびっちりと覆い尽くされているのが俺の人生なのだ。「夢」を追求できる余地など、さらさらあるはずがない。違うか?

 しかし25歳になったばかりの今年の夏、期せずしてその「夢」を叶える人生最大のチャンスが、俺のもとにやってきたのである。


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