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手記⑥

 ……話を元に戻そう。

 いずれにせよ、弱冠「4歳」にして「子持ちの配偶者」を拝命いたしたという「秘密」の内実については、ここまでの記述から十分ご理解いただけたことだろうと思う

 とは言え、俺が自らの来歴について滔々と語ってきたのは、例えば「不幸自慢を聞かせたかった」といった理由からではない。むしろこの「告白」は、史上最悪レベルの生き恥を晒すのと同義であるとの意味合いにおいて、実際には「為されない」ことこそが最適解である。翻って考えれば、そうとわかっていながら敢えて語った(=「為された」)ということは、その「告白」が、決定的なデメリット(=「史上最悪レベルの生き恥を晒す」こと)を補ってあまりあるほどの、極めて重要な目的に則って捻出されたことを示唆している。言うまでもなく、ここで言うところの「目的」とは、冒頭で提示した、〈俺の「夢」=「不倫すること」〉という、一見反社会的な等式についての解説である。

 そして、その「解説」を十全に理解可能なものとするためには、「弱冠4歳にして「子持ちの配偶者」となった」という「秘密」が、どのように「夢」と関係してくるのか、その点についてさらに詳しく説明しておかなければならない。なぜなら容易に察せられるように、〈「夢」=「不倫すること」〉と〈「秘密」=「4歳にして『子持ちの配偶者』となったこと」〉とは、本来、直接的な影響関係にないからだ。「接点」自体が皆無であると言っても、決して過言ではあるまい。

 だが反面、両者の間に横たわる隔絶を埋めるのは困難ではない。ポイントは、「夢」と「秘密」とをつなぐ媒介として、「異性と親しくすること」という第三項にご登場を要請することだ。

 いったんあらゆる先入観の類いを排して原理的に考えてみよう。

 異性と親しくすること。

 それは本来、誰にでも認められた極めて基本的な「権利」のはずである。いや、むしろ「義務」であると言い切ってしまった方がよいかもしれない。なぜなら我々は高い理性を備えた「人間」である前に、まず間違いなく「生物」だからだ。

 そして「生物」が本能的に種を残すべく活動すること、それは極めて自然な振る舞いのはずである。例えば性的アピールのために大きく翼を広げるクジャクや、メスを巡って文字通り「死闘」を繰り広げるライオンなどの涙ぐましい奮闘を参照せよ。つまり異性に好意を抱き、その異性との仲を深めるために頭をフル回転させて作戦を考え、やがて全身全霊をかけてアプローチをしかけることは、繰り返しになるが、「生物」としての「あるべき姿」なのだ。

 しかし殊に人間界においては、その「あるべき姿」のカテゴリから除外される者が少なくとも一種類存在する。それが「既婚者」である。なぜなら「既婚者」が「(配偶者とは別の)異性に好意を抱き~アプローチをしかけること」を為した場合、それは「生物としての義務を果たした」と認められるどころか、「不倫」というわかりやすい罪状を与えられたうえで告発の対象とされるからだ。より直截的に言い表せば、「既婚者」は、いったんその身分を獲得した後に「異性と親しくすること」全般を厳しく禁じられるわけである。それが「子持ち」であるならばなおさらさだ。

 もちろん自分が本当に生殖行為に励み、実際に子供をもうけ、そのうえで「子持ちの既婚者」となったのであれば、諦めはつく。というよりもそのような人物は、はっきり言ってもう人生の目的の大半を果たしたのも同然なのだから、諦めていただかなければ困る。何事も、引き際が肝心なのだ。

 だが俺は違う。

 何度でも繰り返すが、チチオヤの「失踪」時、俺はまだ4歳だった。4歳。つまりセックスどころか、まだ子供ができる原理さえも知らないほどの、言わば、あどけなさを爆発させているような年齢のことである。

 逆に言えばそのぐらいの年齢のクソガキというのは、「幼なじみ」や「同級生」といった、テンプレートじみたカテゴリにおける同年代の「異性」と、プラトニックな交渉を持つことこそが仕事みたいなところさえあるはずなのだ。無邪気だからこそ、いかなるしがらみにも囚われず、積極的かつ下心なく「異性」と交流することができる。そういうことだ。むしろ「おままごと」とかいうお遊びに代表される通り、その辺のライフステージで恋愛の真似事をしておかずして、いったい他のどこでシミュレーションが可能だというのか?

 にもかかわらず、実際の俺は自分には全く何の責任もない、チチオヤの「失踪」とかいうあまりに局所的に悲惨すぎる事態の尻ぬぐいをさせられる形で、無理やり「子持ちの配偶者」の役割を押し付けられ、見事に「異性と親しくすること」から半永久的に隔てられてしまった。

 そしてそれは同時に、俺にとって大いなる「夢」が、「不倫」となったタイミングでもある。

 弱冠4歳にして「子持ちの既婚者」となった者にとっては、誰かを好きになり、その相手と仲睦まじくすること自体が「不倫」に該当し、自動的に禁じられてしまう、そしてだからこそ、逆説的にではあるが、それこそが大いなる「夢」となる、要するにそういう理屈だ。

 つまり身も蓋もなく、ただわかりやすさだけを追求して簡略に言いきってしまえば、俺はただ、何のしがらみもなく、ごくごく普通に「自由恋愛」がしたいというだけなのだ。

 お分かりいただけただろうか?


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