手記③
あなたの夢は何ですか?
唐突だが、そのように尋ねられた時、世間一般の偉い偉い人間様たちは、いったいどのように答えるのだろうか。プロ野球選手? 医者? お金持ち? 暖かな家庭を築くこと? こんなものだろうか……?
もっとも、便宜上「あなたの夢は何ですか?」などと疑問を呈してはみたものの、正直言って俺は「あなたの夢」などに興味はない。ここで言う「あなた」が「特定の個人」を指すのではなく、「不特定多数の誰か」という意味に拡大されて捉えられるものであったとしても同じことだ。足りない頭を使って冷静に考えてみたまえ。どいつもこいつもエテ公と紙一重の連中ばかりであり、ほとんど言葉が通じないと言っても決して過言でないような、自称「一般人」どもの抱く夢の詳細などを知って、いったい何が、面白いというのか。
だからそうではなくて本当に重要なのは、「あなたの夢」などではなく、まさしくこの「俺自身の夢」である。そう、この世で「本当に重要」なのは、結局いついかなる時であっても、まさしく自分だけだ。「そんなことはない、赤の他人への無償の奉仕こそが人間として最も大事なことである」などとほざく輩がもしいたとすれば、可能な限り早急に地獄に落ち、「筋金入りの大噓つき」として舌を引き抜かれて然るべきだろう。それかもしくは、その「大嘘」を「真実」にするべく、ぜひとも俺が「夢」を叶えるのを手伝ってくれたまえ。そう、誠意は常に「言葉」ではなく、「行動」によってこそ表されなければならない。逆に言えば、「行動」の伴わない「言葉」など、ただの嫌がらせにしかなり得ない。要するに、そういうことだ。
では、改めて問おう。この「俺の夢」とはいったい何なのか?
もはや「夢」について語れるような年齢ではなく、だからそのフレーズ(「ユメ」)を口にしただけで本当は死にたくなるほどの恥ずかしいのだが、羞恥心を押し殺し、敢えて一言で端的に名状すれば、それは「不倫すること」である。
不倫、フリン、Furin……。
昨今世間を賑わすことも多く、だからこそ、現代においてはある種の「日常語」と化した感さえあるその極めて初歩的なフレーズは、ここでもまた何かの「隠語」ではなく、正真正銘「辞書的な意味」で持ち出されてきている。すなわち俺は昔からずっと、「配偶者以外と肉体関係を持つこと(デジタル大辞泉)」を叶えたくて叶えたくて仕方ないのだ。そのために生きていると言っても過言ではない。まさしく大いなる「夢」というわけである。
だがこう言ったからと言って、俺のこの「告白」を、例えば「筋金入りの変態による独特な性的嗜好の披歴」だなどと短絡的に受け取り、「不潔」だなどと蔑んでいただいては困る。人間だけに限らず、全ての生き物にはそれぞれ事情というものがある。例えば土の中で長い長い年月を過ごし、耐え忍び、ようやく地上に出られたかと思えば、すぐにその命を散らしてしまうという蝉の生涯を、貴様らは同じように笑うことができるのか? そして俺の場合で言えば、ごく控えめに言って、「不倫」を達成できるか否かは「人生」、ひいては「存在」そのものに関わるという意味で、まさしく文字通り「死活問題」なのである。だがそのことについてご理解いただくためには、まず俺の「秘密」について、可能な限り詳しく説明しておかなければならない。




