表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/30

第21話 海パンびんびん物語♪

 ――男女差別というモノがある。


 男も女も、みな同じく平等だよ♪ というアレだ。


 ただ口ではどうこう言おうとも、やはり差別というモノはなくならないのが現状だ。


 それはココ、侍の国ジャパンにおいても例外ではなく、むしろ他の国より根強いかもしれない。


 んっ?


 『なんで』かだって?


 じゃあみんな、想像してごらん?


 俺達がプールで遊んでいたとして、そこにナイスバディのお姉さんが全裸で登場したら、どんなリアクションをすると思う?


 そうだね、可能な限りお近づきなろうと、声をかけに行くよね!


 間違っても警察、ないし監視員を呼ぼうだなんて思わないよね!


 なら、もし。


 もしも、だ?

 



 ――女の子が遊んでいるとこへ、全裸のナイスバディなお兄さんが現れたら、彼女は一体どんなリアクションをするだろうか?




 その答えは、今……俺の目の前に提示されていた。




「やぁ、お嬢さん。こんにちはっ! 今日はいい天気だね♪」

「こ、こんにちは……」




 犬かきをしながら、競泳水着を着こんだ女の子の方へ近づいていく。


 スラリと四肢が長く、まるでモデルのような体形をした女の子に笑顔で声をかけながら、俺は内心の焦りを悟られないように口を開き続ける。


 そう、彼女が持っているモノは、明らかに俺の海パンだ!


 ソレを投げ捨てようとしていたので、思わず声をかけてしまったが……果たしてココからどう話を転がしていく?


 とりあえず、何とかして彼女の手から俺の海パンを奪取しなければ!


 事は慎重を要した。




「あぁ、急に声をかけてゴメンね? 実はお嬢さんが手にしているモノは、俺の大切なモノでしてね? えぇ、ほんと。出来れば返して欲しいなぁ、なんて思っちゃったりして」


「あっ、そうなんですね。ごめんなさい、ウチ、てっきり海藻かと思ってました」

「あははっ! プールに海藻なんて、あるワケないよぉ!」




 適当にお嬢さんと会話のキャッチボールを繰り広げつつ、彼女のゆっくりと近づいていく。


 よし、イケる!


 あとはこのまま、距離を詰めれば――ハッ!?


 待て、ユウ・キンジョーッ!?


 距離を詰めたら、バレるんじゃないのか!?


 無論、初対面の幼気(いたいけ)な女の子に、俺の全てを見せつけるのは、ある種興奮するモノがあるが、流石に犯罪だ。


 ハードボイルドを地でいく俺が、するような事じゃない。


 俺は泳ぎを止めて、その場でブンブンッ! 両手を振り回しながら、彼女に『投げて♪』と合図を送る。


 距離にして8メートルちょいって所か。


 ギリギリだな。


 俺は期待をこめて、猿のオモチャのようにパンパン♥ 手を鳴らすと、思いが通じたのか、お嬢さんは俺の海パンを大きく振りかぶる……ことなく、



 ――とぷんっ♪



 と、水中の中へ消えて行った。




「へっ?」




 間の抜けた声が、俺の唇からまろび出る。


 事態を理解するのに、数秒の時間を有した。


 その数秒の間に、お嬢さんはスイスイッ! と、魚のように潜水して、俺の剥き出しの股間の前まで進軍し……泡を吹きながら立ち上がった。




「えっ? ……えっ?」




 彼女は瞳を大きく見開きながら、俺の顔と、自分が手に持っていた布切れを、交互に見やる。


 そして、ゆっくりと俺の目の前で、その布切れを広げた。


 現れるのは当然、俺の海パンである。


 潜水中の彼女が見た絶景は、さぞ雄大だったに違いない。




「改めまして、金城優です。森実高校に通う、ピチピチの高校2年生です。よろしくね♪」

「あっ、ご丁寧にどうも。黒崎工業高校1年の八木桃花です。よろしくお願いします……」




 いやぁ~、人間って不思議だよね?


 許容限界値が一定数を超えると、逆に落ち着いちゃうっていうか?


 気がついたらお互い、自己紹介をしてたよね♪




「八木さんは1人でプールへ来たのかい?」

「あっ、いえ。兄と一緒に……」

「へぇ~、じゃあウチと一緒だね。俺も妹と一緒に来てるんだ」




 そのままごくごく自然に、日常会話を楽しむ俺達。


 もちろんその間にも、海パンを履き直すべく、水面下では必死に両手足をバタバタッ!? させていた。


 気取られるな?


 笑顔を崩すな?


 少しでも、彼女を正気に戻してみろ?


 次に会うときは、間違いなく法廷だ。


 俺は真夏だというのに、寒気を覚えずにはいられなかった。




「って、あれ? 『八木』って?」

「うん? 『金城』?」




 どうにも聞き覚えのある苗字に、首を傾げていると、八木さんも俺と同じく首を傾げていた。


 ……なんだろう、凄く嫌な予感がするなぁ。


 なんて考えていると



 ――グイッ!



 と、物凄い力で肩を掴まれた。


 な、なんだ、なんだ!?


 逆ナンか!?




「よぉ、兄ちゃん? ワシの妹に何か用かいのぅ?」




 (すご)みのあるドスの効いた声が、俺の肌を叩いた。


 こ、この声は……まさかっ!?


 俺は確信にも似た嫌な予感に突き動かされ、背後へ振り返ると、そこには、見覚えのあるアフロが居た。




「随分と楽しそうにお喋りしとるようやけど、ワシも混ぜてくれんか? ……って、んぁ? あれ?」

「……よぉ、ゼットン。こんな所で奇遇だな?」

「ジョーッ! なんでこんな所へ居るんや、おまえ?」




 そう言って、ゼットンは八木さんと俺の顔を交互に見返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ