第21話 海パンびんびん物語♪
――男女差別というモノがある。
男も女も、みな同じく平等だよ♪ というアレだ。
ただ口ではどうこう言おうとも、やはり差別というモノはなくならないのが現状だ。
それはココ、侍の国ジャパンにおいても例外ではなく、むしろ他の国より根強いかもしれない。
んっ?
『なんで』かだって?
じゃあみんな、想像してごらん?
俺達がプールで遊んでいたとして、そこにナイスバディのお姉さんが全裸で登場したら、どんなリアクションをすると思う?
そうだね、可能な限りお近づきなろうと、声をかけに行くよね!
間違っても警察、ないし監視員を呼ぼうだなんて思わないよね!
なら、もし。
もしも、だ?
――女の子が遊んでいるとこへ、全裸のナイスバディなお兄さんが現れたら、彼女は一体どんなリアクションをするだろうか?
その答えは、今……俺の目の前に提示されていた。
「やぁ、お嬢さん。こんにちはっ! 今日はいい天気だね♪」
「こ、こんにちは……」
犬かきをしながら、競泳水着を着こんだ女の子の方へ近づいていく。
スラリと四肢が長く、まるでモデルのような体形をした女の子に笑顔で声をかけながら、俺は内心の焦りを悟られないように口を開き続ける。
そう、彼女が持っているモノは、明らかに俺の海パンだ!
ソレを投げ捨てようとしていたので、思わず声をかけてしまったが……果たしてココからどう話を転がしていく?
とりあえず、何とかして彼女の手から俺の海パンを奪取しなければ!
事は慎重を要した。
「あぁ、急に声をかけてゴメンね? 実はお嬢さんが手にしているモノは、俺の大切なモノでしてね? えぇ、ほんと。出来れば返して欲しいなぁ、なんて思っちゃったりして」
「あっ、そうなんですね。ごめんなさい、ウチ、てっきり海藻かと思ってました」
「あははっ! プールに海藻なんて、あるワケないよぉ!」
適当にお嬢さんと会話のキャッチボールを繰り広げつつ、彼女のゆっくりと近づいていく。
よし、イケる!
あとはこのまま、距離を詰めれば――ハッ!?
待て、ユウ・キンジョーッ!?
距離を詰めたら、バレるんじゃないのか!?
無論、初対面の幼気な女の子に、俺の全てを見せつけるのは、ある種興奮するモノがあるが、流石に犯罪だ。
ハードボイルドを地でいく俺が、するような事じゃない。
俺は泳ぎを止めて、その場でブンブンッ! 両手を振り回しながら、彼女に『投げて♪』と合図を送る。
距離にして8メートルちょいって所か。
ギリギリだな。
俺は期待をこめて、猿のオモチャのようにパンパン♥ 手を鳴らすと、思いが通じたのか、お嬢さんは俺の海パンを大きく振りかぶる……ことなく、
――とぷんっ♪
と、水中の中へ消えて行った。
「へっ?」
間の抜けた声が、俺の唇からまろび出る。
事態を理解するのに、数秒の時間を有した。
その数秒の間に、お嬢さんはスイスイッ! と、魚のように潜水して、俺の剥き出しの股間の前まで進軍し……泡を吹きながら立ち上がった。
「えっ? ……えっ?」
彼女は瞳を大きく見開きながら、俺の顔と、自分が手に持っていた布切れを、交互に見やる。
そして、ゆっくりと俺の目の前で、その布切れを広げた。
現れるのは当然、俺の海パンである。
潜水中の彼女が見た絶景は、さぞ雄大だったに違いない。
「改めまして、金城優です。森実高校に通う、ピチピチの高校2年生です。よろしくね♪」
「あっ、ご丁寧にどうも。黒崎工業高校1年の八木桃花です。よろしくお願いします……」
いやぁ~、人間って不思議だよね?
許容限界値が一定数を超えると、逆に落ち着いちゃうっていうか?
気がついたらお互い、自己紹介をしてたよね♪
「八木さんは1人でプールへ来たのかい?」
「あっ、いえ。兄と一緒に……」
「へぇ~、じゃあウチと一緒だね。俺も妹と一緒に来てるんだ」
そのままごくごく自然に、日常会話を楽しむ俺達。
もちろんその間にも、海パンを履き直すべく、水面下では必死に両手足をバタバタッ!? させていた。
気取られるな?
笑顔を崩すな?
少しでも、彼女を正気に戻してみろ?
次に会うときは、間違いなく法廷だ。
俺は真夏だというのに、寒気を覚えずにはいられなかった。
「って、あれ? 『八木』って?」
「うん? 『金城』?」
どうにも聞き覚えのある苗字に、首を傾げていると、八木さんも俺と同じく首を傾げていた。
……なんだろう、凄く嫌な予感がするなぁ。
なんて考えていると
――グイッ!
と、物凄い力で肩を掴まれた。
な、なんだ、なんだ!?
逆ナンか!?
「よぉ、兄ちゃん? ワシの妹に何か用かいのぅ?」
凄みのあるドスの効いた声が、俺の肌を叩いた。
こ、この声は……まさかっ!?
俺は確信にも似た嫌な予感に突き動かされ、背後へ振り返ると、そこには、見覚えのあるアフロが居た。
「随分と楽しそうにお喋りしとるようやけど、ワシも混ぜてくれんか? ……って、んぁ? あれ?」
「……よぉ、ゼットン。こんな所で奇遇だな?」
「ジョーッ! なんでこんな所へ居るんや、おまえ?」
そう言って、ゼットンは八木さんと俺の顔を交互に見返した。




