閑話休題 もう1つの兄妹の物語
「アニキッ、アニキぃ~っ! 見て見てっ! 波がすっごいよ、ここ!」
「……ハァ。何が悲しゅうて、妹とプールに行かにゃならんのじゃ? 罰ゲームか?」
浮き輪片手に、波のプールでキャッキャ♪ と騒ぐ妹、八木桃花を冷めた目つきで見つめる、ゼットンこと八木薫。
薫がもう1度「ハァ~」と盛大な溜め息をこぼすと、桃花が『ムッ!?』とした表情になった。
「なにさ、なにさ? その態度は? 全部ウチとの約束を破った、アニキが悪いんでしょ?」
どこか責めるような桃花の口調に、薫は「うっ!?」と、顔をしかめる。
そう、今日は先日、妹との買い物をブッチした見返りに、妹の要望で隣町のレジャープールへと足を運んでいたのだ。
「そ、その件については謝っとるがな。そろそろ許せ? なっ?」
「つーんっ! 許して欲しいなら、アニキも一緒に楽しんで!」
「へいへい。分かりやしたよっと」
そう言いつつも、何故か波のプールから出ようとする薫。
そんな薫に桃花は慌てて声をかけた。
「ちょっ、アニキ!? どこ行くのさ!?」
「身体が冷えたから、温かい飲み物を買ってくる。お前も何か居るか?」
「……いらない」
唇を尖らせて、ソッポを向く妹。
薫はそんなイジけた妹をその場に置いて、温かいコーンポタージュを買いに、売店へと移動した。
桃花は去っていく兄の後ろ姿を眺めながら、つまらないそうに悪態を吐いた。
「アニキのバーカ。もう知らないもん。……うん?」
ぷいっ! と視線を明後日の方へ向けると、人工ビーチの方が騒がしい事に気がついた。
目を凝らしてよく見ると、何やら人だかりが出来ていて、ちょっとしたパニック状態であることが窺えた。
「なにアレ? ……んっ?」
もっと目を凝らしてよく見ようとした矢先、
――ベタっ!
と、浮き輪に布切れが引っかかった。
「うわっ!? ナニコレ、海藻!? バッチィなぁ、もう!」
桃花は浮き輪にへばりついた布切れを剥ぎ取ると、そのまま遠くへ投げ捨てようとして、
「ストォォォォォォップ!? お嬢さん、そこでストップだ!」
野太い男の声が、桃花の耳朶を震わせた。




