第16話 義妹は思春期♪
「お兄ちゃんに質問があります」
朝食を食べ終え、義妹と揃って家を出ること数分後の通学路にて。
コガネは妙に神妙な面持ちで、俺をまっすぐ見上げてきた。
「んっ? どうしたコガネ隊員? 忘れ物か? 体操服なら貸してやれるぞ?」
「お兄ちゃんの体操服はブカブカ過ぎてサイズが合わないから、いらないよ。そうじゃなくてて?」
そのぅ、とコガネは言い淀むように唇をモゴモゴさせながら。
「お、お兄ちゃんはさ? キレイなモデルさんとか、スタイルのイイ女の子は……好き?」
「す……だいす……愛している」
「ほんと自分に嘘がつけないね、お兄ちゃん?」
何故か肩を落とすコガネちゃん。
あ、あれ!?
お、お兄ちゃん、何か変なこと言ったかな!?
「そっか、お兄ちゃんはスタイルのイイ子が好きなんだ……」
「ま、待て待て!? 確かにスタイルのイイ女は大好きだが、俺が1番愛しているのはコガネだぞ!? そこに嘘はない!」
「……本当に?」
「もちろんだとも!」
「嘘ついたら『車裂き』だよ?」
「刑が重すぎない?」
義妹の思考が一瞬で日本を飛び越え、ヨーロッパの方へと羽ばたいていた。
「じゃあ、お兄ちゃんにもう1つ質問」
「よっしゃ、バッチコイ! もう何でも聞いて? お兄ちゃん、何でも答えるから――」
「――お兄ちゃんは、太った妹と痩せた妹……どっちが好き?」
「すぅぅぅ…………」
俺はゆっくりと息を吐き捨て、お空を見上げた。
あぁ、今日も空が青いなぁ……。
「ねぇ、どっちが好きなの? 痩せたボクと、太ったボク」
「……こ、コガネちゃんは痩せていようが、太っていようが、どちらも可愛い――」
「あぁ、そういう毒にも薬にもならない答えは求めてないから。『痩せたボク』と『太ったボク』どっちが好きかだけ答えてくれればいいから」
そう言って、ニッコリ♪ 微笑むマイ・シスター。
相変わらず素敵な笑顔だなぁ。……目、以外は。
「それで、どうなの? どっちのボクが好きなの?」
嘘は許さん! とばかりに、義妹のガンギマリした瞳が俺を襲う。
さて……コレはなんて答えるのが正解なんだ?
痩せていようが、太っていようが、俺のコガネへの愛は微塵も変わらない。
むしろ、少しぽっちゃり♪ している具合が、最高にエロくて大好きだ。
なんて言おうモノなら、ウチの妹は烈火のごとく怒りだすのは目に見えてるし……。
なんて思っていると、ピキーンッ! と、唐突にお茶を濁す最高の言葉が浮かんできた。
「コガネ、よく聞いてくれ?」
「う、うん」
「痩せてるとか、痩せてないとか関係ないんだ。女の子の魅力は見た目じゃない、魂だ」
「見た目じゃなくて、中身?」
「そうだ」
君にとどけ! と言わんばかりに、真剣な眼差しで義妹を見つめる。
するとコガネは何故か頬を赤らめ、俺から視線を外した。
が、構わず俺は義妹を無理やり納得させるべく、テキトーな言葉を重ね続ける。
「姿、形は問題じゃない。問題なのは魂だ」
それを踏まえたうえで、ハッキリ言うぞ?
と、愛しの義妹をまっすぐ見据えて、俺はこう言った。
「お兄ちゃんが本当に好きなのは『早乙女。早乙女乙女ですっ!』――って、はぁん!?」
突如いきなり男臭い声が、俺のカッチョイイ台詞にカットインしてくる。
ちょっ、誰だ!?
今すげぇ良い事を言おうとした俺のお株を奪ったヤツは!?
「早乙女乙女って、昨日会った……うそ。お兄ちゃん、あの人が好きだったの?」
「ち、違うぞコガネ!? 俺が愛しているのは『乙女戦線』だけだ! だから違う!? 俺はあんな『――だ、大胆不敵!? 大胆不敵だ!』な身体の事なんて、これっぽっちも思ってない!」
「大胆不敵なボディ……お兄ちゃんはちょっと太っている人の方が好みなの?」
何故か希望を見出だしたような表情を浮かべるコガネ。
あぁ、もうっ!? 違う!?
俺は《貧弱な身体》って言いたかったの!
「誰だ!? さっきから俺の言葉にカットインしてくるバカ野郎は!?」
「ジョーさんっ! 大変です、ジョーさんっ!」
ムキーッ! と、地団駄を踏む俺のもとへ、トサケン同級生が焦った様子で駆け寄ってきた。
「さ、早乙女乙女ですっ! 乙女戦線の早乙女乙女たちが、大胆不敵にも森実高校に乗り込んできました!」
「テメェの仕業かぁぁぁぁぁっ!?」
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ガシッ! と、トサケンの頭を鷲掴みにして、あらんかぎりの力を指先にこめる。
「テメェのせいで、俺の大切な妹にあらぬ誤解を与えてしまったじゃねぇか!?」
「いや、ソレ何の話ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
メキメキメキッ♪ と、トサケンの頭蓋骨から、痛みと悲鳴のエレクトリカル・パレードが開催される中、何故か誤解を受けたハズのコガネが「お兄ちゃん、ストップ!」と、俺の腕に抱き着いてきた。
「ナゼ止める、コガネ? コイツは俺とおまえのスィーツ☆タイムを邪魔した、不届き者だぞ?」
「そこは確かに『ムッ!?』ってなったけど……でもっ! トサケンさん、今、すごい大事な事を言わなかった!?」
「大事なこと?」
はて?
何て言ったかな、コイツ?
とりあえず、愛する義妹の要望通り、トサケンの頭から指先を引っ込める。
途端に地面に倒れて、両手で頭を押さえながら、ゴロゴロッ!? と右に左にと転がり始める、トサケン。
なにやってんだ、コイツ?
黒歴史を思い出したときの、俺みたいだ。
「うがぁぁぁぁ~っ!? あ、頭が割れるかと思ったぁ……」
「大げさだなぁ。ちょっと頭を撫でた程度で」
「大げさじゃないっすよ、ジョーさん!? パイナップルすら余裕で粉砕するその握力で頭を握られたら、誰だってこうなるっすよ!? ジョーさんはもっと自分の力が【人の理】から外れていることを、自覚してください!」
「人を【バケモノ】みたいに言うんじゃねぇよ」
「実際、バケモノじゃないっすか!」
「なんだよぉぉぉぉっ!?」
「ひぃぃぃっ!? ごめんなさぁ~いっ!?」
「ストップ! お兄ちゃん、スットプ! これ以上は話が進まないから!」
ペシペシッ! と、コガネに二の腕を叩かれてしまう。
むぅ……怒られてしまった。
俺、しょんぼり……。
可愛い義妹に怒られて、1人静かに肩を落としている兄をその場に、コガネは慌てふためくトサケンに声をかけた。
「大丈夫でしたか、トサケンさん?」
「ありがとうございます、アネゴ。好き♪」
「あぁんっ!? トサケン、テメェ!? なにドサクサに紛れて、俺の妹に告白してんだ!?」
「ご、ごめんなさい!? つ、つい!?」
「怒っちゃダメだよ、お兄ちゃん? これはトサケンさんなりのジョークなんだから。ねっ、トサケンさん?」
コクコクコクコクッ! と、高速に首を縦に振るトサケン。……チッ!
しょうがねぇ。今回は可愛い妹の顔に免じて、見逃してやんよ。
ただ次はねぇぞ!?
「そんな事よりも、トサケンさん。さっき何て言ったの?」
「そ、そうでした! 大変です、ジョーさん!?」
俺が心の中で舌打ちを溢していると、その足元へ縋りつくように、トサケンが抱き着いてきた。うぜぇ……。
これが美少女なら、俺も膨らませるところを膨らませるというのに……。
「えぇい、暑苦しい!? 離れろ、バカチンが!」
「そんな事を言っている場合じゃないんです!」
トサケンは、切羽詰まった表情のまま、ハッキリとこう言った。
「早乙女乙女が率いる【乙女戦線】が、森実高校にカチコミに来ました! その数、およそ100人です!」




