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第70話 アトリエデュンケルの新作

街道破壊作戦はもう少し考えるとしよう。実行するにしても今はまだ戦況が分からないし、情報が不足している。


ひとまず目的の肉の確保はできたし、海向こうの国の港町に行かねば。貧民街の子供たちとの約束があるからな。デュンケルの作品作りのためにも、良質な貝殻が手に入ればいいが。


ウルケルの姿が見られないように細心の注意を払って、約束の貧民街の広場にやってきた。

夕方と約束していたが、昼過ぎには到着してしまったので、デュンケルのアクセサリー作りを手伝いながら時間を潰すことにした。螺鈿もどきアクセサリーの準備もしておくか。漆がないから金属に嵌め込む感じで使うかな。


作業して時間を潰していると、いつぞやの子供たちが見えた。今日は8人いるな。全員で来たのか。あ、貝殻が多すぎて運べなかったからか。

「やあ、大量みたいだね。手間をかけてすまなかったね。」

「みんな楽しそうだったからいいよ!ここまで運ぶ方が大変だったくらいだよ!」

「どんな大きさがいいのか分からなかったから、色んな大きさのを集めたよ!」

以前会った子たちが誇らしげに貝殻の積まれた大皿を差し出してきた。


「あの、この前は食べ物を頂いてしまったみたいで、有難うございました。」

一番年長者と思われる十代半ば位の利発そうな少年がお礼を言ってきた。

「礼はいらないよ。こちらが迷惑をかけてしまった方だからね。しかし、君も大変だねえ。この人数を面倒見るのは大したものだよ。」

「正直、その日食っていくのが精一杯ですね。だから今回の買い取り依頼はとても助かります。」

「戦争の影響なんだってね?この前、そこの子たちから聞いたよ。俺の住んでる国でも最近戦争が始まってね。物価が上がったりで困ったものだよ。ああ、愚痴っぽくなってすまないね。」


俺は貝殻の検分をしながら答えた。貝殻はどれも綺麗だ。きっと洗ってくれたのだろう。すぐに使えそうだな。それに大皿だと思っていたものも巨大な貝殻だった。それが10枚くらい積み上げられている。どれも綺麗に輝いている。この大きさの貝殻は貝の魔物かな?これは有り難い。切り出して使うつもりだったから、普通のサイズの貝殻では作品の大きさに制限がかかると思っていたのだ。


「それにしても本当にこんな物を買い取ってくださるんですか?大皿一つ分で大銀貨1枚って聞きましたけど。」

「ああ、勿論買い取るよ。正直、想像していた以上の成果だよ。特にこの大きくて平べったいやつが良いね。こんな貝があるんだね。」

「それは魔物の貝ですね。残念ながら食用ではないんですが。食用の貝なら飲食店にいけば貝殻は手に入るんですけどね。その大きな貝殻は結構探さないとないんですよね。」

「うむ。全て状態もいいし、依頼した通りの光ってる物だけを集めてある。伝えていた額の倍出そう。金貨2枚だ。」

「こんなに頂いていいんですか?」

「構わない。うちの職人は優秀だからね。きっとこの貝殻で素晴らしい作品を作ってくれる。そうすれば金貨2枚なんてすぐ回収できる。」

俺は受け取った貝殻を影の中にしまって、大皿にカツ丼を8人分載せて返却した。ついでにアンパンとチョコクロワッサンを山盛りにしたバスケットも渡しておいた。


「これはオマケだ。みんなで食ってくれ。」

「本当に有難うございます。助かります。」

「今回の仕事に対する正当な報酬だよ。ただ勘違いしないようにして欲しい。貝殻に金を出すような奴は俺くらいしかいないはずだ。小さい子たちが貝殻が売れる物だと誤解しないようにちゃんと言っておいてくれ。」

「分かりました。今回限りの仕事だと伝えておきます。お世話になりました。」

「うむ。君も大変だろうが頑張るんだぞ。」


もしかしたらまた依頼するかもしれないから、念の為に彼らの家を教えてもらって別れた。


偽善だよな。中途半端に希望を持たせたのはよくなかったかもしれない。もう彼らに関わるべきではないのかな。ここの住人は楽しそうに生きているようだし、これでいいのかもしれない。戦争が始まってから考えることが多くなっている。俺は余計なことを考えすぎだな。貧民街のことなんて統治者が考えるべきことだ。俺は俺のやりたいことだけやっていればいいのだ。


俺は気分を切り替えて、早速デュンケルと螺鈿もどきアクセサリー作りを試してみることにした。用意していた細長い菱形の金属の中に嵌るように、貝殻を切り出してみた。思ったような形に切り出せなかったので、研磨して削って形を整えた。結構、大変な作業だった。切り出した貝片を金属に嵌め込んで外れないように縁取りをつける。

「貝の表面の加工とかもすべきなんだろうけど、俺にはできないな。どうだ、デュンケル?宝石とはまた違った輝きがあっておもしろいだろう?自然物だから輝きに統一感がないから扱いは難しいかもしれないけど。」

デュンケルは俺の作った螺鈿もどきを見て考えている。そして金属を取り外して再加工し始めた。どうやら俺の作品は不合格だったようだ。そして再加工された物は貝の表面をガラスで覆ってあった。ガラスを通すとまた一段と輝きが増した気がするし、見る角度によって輝きに変化もあっておもしろいな。

「おお~。綺麗になったな。俺の知ってる螺鈿細工とは違うけど、これはこれでお洒落だな。」

その後もデュンケルはいくつか作品を作っていた。金色に塗装した金属で縁取りされた螺鈿もどきイヤリングにさっきの菱形のガラス螺鈿もどきはネックレスに。どれも綺麗な作品だ。これまでのアトリエデュンケルになかった感じの作品で注目を集めそうだ。デュンケルも手応えを感じているようだ。

デュンケルは一つの貝殻を手にとって考えている。色が黒ずんでいてあまり輝きが綺麗ではない貝殻だった。それを丸く削って、製作途中の大作のグリーンドラゴン像の目に嵌め込んだ。なるほど。そういう使い方もあるのか。アクセサリー以外の作品も作風の幅が広がったようだ。


金貨2枚出した価値はあったと思って良いだろう。ただ、原価は掛からないが加工が大変だな。貝殻はデュンケルの魔法でも加工が出来ないから完全に手作業なんだよな。製作にかかる時間を考慮すると、結構いい値段をつけることになりそうだ。


しかし、またデュンケルが有名になってしまうな。今やデュンケルが領都リビアの街中を歩けば、握手を求めてくる人がいるくらいなのだ。隣にいる俺はデュンケルの作業を手伝う助手扱いだ。別に悔しくなんてない。俺の専門は魔道具作製だからね。デュンケルとは専門分野が違うだけのことだ。俺がスピーダーを一般販売すれば、きっとデュンケルと同じくらい知名度が上がるはずなのだ。でもスピーダーも塗装や最終仕上げはデュンケルがやってるからなあ。スピーダーを売り出してもデュンケルの作品扱いになりそうだ。うむ、やっぱりスピーダーの一般販売はしないほうがいいな。俺の影がますます薄くなってしまう。


『主殿、早く酒場に戻りましょう。酒の在庫が残り少ないのですよ。』

シュバルツは相変わらずマイペースだな。だが、これで一通り予定は片付いたかな。そろそろ戦況が動き出すかもしれないし、戦場へ出発するまでは領都で大人しくしておくかな。

「よし、帰るか。俺もしばらくはのんびり過ごそうかな。」

『主殿、海産物の仕入れもお願いしますね。ダンジョンで結構消費したはずなので。』

シュバルツは酒と食料の在庫管理が仕事がになりつつあるな。

「そうだな。わざわざ他国まで来たんだから、しっかり仕入れして行くか。露店もまわるぞ。食いたい物はあるか?」

『カレーは全種類確保お願いしますよ。ここでしか入手できませんからね。商会で作って貰えればいいんですけどね。』

「カレー作るのは無理だな。作り方が分かっても、スパイスの仕入れにここまで俺が来ないといけないしな。それに匂いで近所迷惑になる。でも、そろそろ料理部門は何か新しいメニューを考案したほうがいいのかな。」

『新作ですね!期待しておりますよ、主殿。』

「時間もあることだし、何か考えてみるかな。」

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