第69話 それぞれの悩み
討伐したドラゴンの跡には金属製の箱があった。牙や革などの素材類も落ちている。
「宝箱ですね。ひょっとしたらさっきのドラゴンは階層ボスだったのでしょうか。」
「ボスだと思いたいな。あんなのが雑魚で何匹もいるなら、四方八方からブレスが飛んでくることになるぞ。」
ロドリゴさんは本当にこの階層が嫌そうだ。遠距離攻撃手段がないから弱気なのか、盾役だから仲間を守りきれない環境が不安なのか。
「ドラゴン肉!ドラゴン肉がありますよ!こんなに大きい塊が三つも!」
宝箱など眼中にない者もいる。とりあえず肉はでかいので、俺のバッグに入る大きさに切って回収しておいた。ソフィーちゃん、俺の周りをうろうろするのはやめて欲しい。
「ドロップした宝箱は罠はないと言われているので、開けてみますね。」
中には謎の金属塊と多数の宝石類が詰まっていた。その上にはスキルクロールもある。
『むぅ。これは珍しいスクロールではないか。』
『ん?まさか、ウルケルは鑑定スキル持ちなのか?』
『うむ、持っておるぞ。あれは空間魔法のスクロールだ。』
ウルケルの有能さがまた増してしまった。
空間魔法。王都のオークションに出品されれば、とてつもない金額で落札されるという噂のスクロールだ。
「チャールズさん、ウルケルは鑑定スキルが使えるそうなのですが、そのスクロールは空間魔法らしいです。」
「なんと。それは扱いに困りますね。」
適正があったのはこの場に二人いた。俺とチャールズさんだった。チャールズさんは本当にスキル適正率が高いな。この人が持ったスクロールは大体光ってるぞ。
「これはルノさんが使用するべきでしょう。魔道具作製スキルも併用すればマジックバッグも作れると聞きますし。」
「いや、流石にこんな貴重な物を受け取れませんよ。持って帰ってフィデルさんに報告すべき案件です。」
「商会長からは、革素材以外のドロップ品の扱いは私に任せると言われてるのですが・・・。ルノさんがそう仰るなら商会長に相談してみることにします。」
魔物の気配が近づいてきているようなので、ひとまず退却することになった。
「それにしても、あのブレスを受けてよくこの階段は崩壊しませんでしたね。」
「ああ、階層間の階段は不壊だと言われていますよ。その昔、ダンジョンから魔物が溢れ出るのを阻止するために、階段を破壊しようと試みた例があるそうです。その結果、傷一つ付けることができなかったそうですよ。」
「ああ、そういうのやっぱり試した人がいるんですね。」
「しかし、あの階層は困りましたね。次の出張で先を目指すかは商会長に判断してもらうことになりますね。」
「商会としては旨味がないですよね。進んだ先はドロップ品の回収ができませんし。」
「しかもリスクが大きすぎるんですよね。あの群れの中、空中での戦闘がどれだけ続くのかも分からない。リスクと対価が全く見合わない。進んだ先で最下層まで攻略できれば、ダンジョン攻略を成し遂げた商会という名誉が手に入りますが。」
「魔物氾濫状態の3~4層だけでも大儲けできますからねえ・・・。」
「商会長が攻略を諦めてくれれば良いのですが。」
「今回の戦果を見たら、危険を犯してまで攻略する価値なしと判断してくれるでしょう。」
「うーん、あの人は野心家ですからねえ。他の商会がやっていないようなことをやりたがるんですよね。もちろん、そこに利益の追求もするのですが。ダンジョンに関しては利益を捨ててでも、名誉をとるかもしれませんよ。」
「・・・生き残る対策が整うまでは、俺が適当な理由をつけてダンジョン出張を欠席しましょう。」
「それが良いですね。3~4層の仕入れの時だけお願いしますよ。」
この日は一階層に出た所の砂浜で一泊することになった。時間的に宿をとることができそうになかったからだ。
そして恒例のバーベキューだ。
「本当にドラゴン肉食べちゃってもいいんですか?」
「商会に戻ったら他の従業員も食べることになりますから。我々は先に食べてしまいましょう。」
売れば一財産だろうに。まあ、他の高級肉も食べまくってるし今更か。
綺麗な赤身肉だな。ヒレ肉っぽい感じかな。厚めに切って鉄板で焼くか。
うむ、やわらかジューシー。脂身はないから肉の旨味が詰まってる。これはレアでもいいかもしないな。肉を食べると幸せになるよね。ドラゴン肉は幸福度が数段上だね。これは米が欲しくなるな。カツ丼のカツを退けてドラゴン丼だ。うむ、ガッツリ食ってる感がいいね。ワサビ醤油で食べても良く合うな。カツはいらないので、ソフィーちゃんの皿に乗せておけばなくなるだろう。
みんなも美味しそうに食べている。ソフィーちゃんもとても幸せそうな顔をしている。ドラゴン肉を食ってこそドラゴンバスターだよね。
ウルケルはグリーンドラゴンを食べることに抵抗はないのだろうかと思ったが、普通に食っていた。ダンジョン産なら関係ないか。
デュンケルはドラゴン戦でインスピレーションを得たらしく、ずっと影にこもって作品作りに没頭している。こんな時くらい息抜きに飲みに来ればいいのに。
『主殿、ドラゴン肉は最高ですね。次はいつ食べれるんでしょうか?』
「商会の従業員の人たちが食べたら、ほとんど残らないかもしれないからなあ。ソフィーちゃんもすごい食べるし。」
『それなら今たくさん食べておかないといけませんね。しかし残念です。もう当分食べられないんですね。』
「ドラゴンに遭遇できたとしても、商会の人たちがいないと討伐は無理だからなあ。いつか俺達だけで討伐できるようになれればいいな。」
『それは期待せずに待つとしましょう。』
「諦めるなよ。よし、目標にしよう。俺達はドラゴンバスターになるんだ。」
『今回の我々は、全員障壁の後ろに隠れて後方支援してるだけでしたからね。役に立ってないわけではないんでしょうけど、もう少し活躍できたらいいですね。』
「そのうちデュンケルのアーティファクトみたいなのが手に入るかもしれないしさ。少しずつ戦力を整えればいいんだよ。焦らずにのんびりいこう。」
『そうですね。無理のない範囲でお供しましょう。』
翌日、領都まで飛んで商会の方々を送り届けた。前回同様、ドロップ品を倉庫に放出して鑑定班に渡しておいた。
フィデルさんに今回の出張報告を行って、空間魔法のスクロールや宝石類を提出する。
「空中層ですか。やはりダンジョン攻略は一筋縄ではいきませんね。ドラゴンが出るとなると、しばらくは四層までの狩りでお願いすることになると思います。それに空間魔法スクロールですか。うーん、困りましたね。私としては売る選択はないですが、ただ誰が使うべきかなんですよね。しばらく考えてみたいので預からせてください。」
フィデルさんも悩んでいるようで、スクロールは一旦預かってもらうことになった。宝石類はデュンケル行きだ。今はアクセサリー作りどころではなさそうだけど、そのうち作ってもらおう。
そして恒例の大宴会だ。今回はドラゴン肉の登場で従業員のみんなは盛り上がった。飲食部門と酒造部門のメンバーはもう慣れた様子で会場準備を整えてくれた。もう俺の出番はなさそうだな。俺はシルビアさんと飲みながらその様子を眺めている。
「今、戦争中なんですよね。ここは平和だなあ。」
「ルノさんがご自分で作った場ではありませんか。」
「まあ、そうなんですけどねえ。」
「・・・悩んでいらっしゃるんですか?戦争を早く終わらせるべきかを。」
「えっ?」
「ルノさんなら可能でしょう?高速で敵国内を動き回って破壊活動を行えば、敵国は戦争どころではなくなるのでは?」
「・・・はい。それは俺も考えました。補給街道を破壊してしまえばと。」
「悩んでいらっしゃるのは、霊獣たちを想ってでしょうか?」
「そこまでお見通しですか。その通りです。ウルケルは必ず目撃されることになりますからね。」
「ルノさんらしい悩みですね。霊獣がルノさんの元に集まるのも分かる気がしますよ。まあ、どのみち我々は商人ですからね。報酬もないのに働く必要はありませんよ。」
「俺もそう思っていたのですが、海向こうの国で戦争孤児の子たちがたくさんいたんですよ。あの子たちを見るとどうにも・・・」
「ウルケルさんに頼らなくてもスピーダーもあるじゃないですか。危険は多少伴うかもしれませんが。」
「スピーダーですか。確かに時間はかかるかもしれませんが、できないことはないですね。」
「お一人で不安でしたら、私にお声をかけてください。休暇をとってご一緒しますよ。あなたが頼るのは霊獣だけなのですか?」
「・・・有難うございます。少し考えてみたいと思います。」
「一人で背負うようなことでもありませんし、いつでも相談に乗りますよ。」
参ったな。シルビアさんを巻き込みたくないと思っていたのだが、多分それもお見通しなんだろうな。敵わないなあ、彼女には。




