第68話 ドラゴンバスター
探索五日目。
下層への階段探しを行うことになった。ウルケルに乗って進むのだが、空にも結構強力な魔物がそこそこいる。チャールズさんたちの魔法でも一発では仕留めきれないので、ウルケルが被弾しないように俺が障壁で守る。三階層の時のように探索は進まず、この日は階段を見つけることはできなかった。
探索六日目。
昨日よりかなり離れた距離まで探索していると、昼過ぎに階段を発見した。この広さは地上からの探索は無理じゃないかな。階段を見つけるのに何ヶ月、いや何年かかるのやら。ウルケル大活躍だな。美味い肉をたくさん食わせてやろう。
夕方までは階段周辺の魔物討伐だ。サイクロプス、コカトリス、アックスビーク、でかい牛やら蛇やら。もう強力な魔物が多すぎて階層ボスがどれなのか分からなかったくらいだ。俺は障壁スキルで守りに徹して、攻撃はデュンケルに頑張ってもらった。シュバルツとウルケルには、届く範囲内でウィークポイントを振りまいてもらった。
探索最終日。
第五階層へ降りていく。途中でワイバーンが数匹いたが、チャールズさんに蹴散らされた。
階段を降りていった先に広がっていたのは・・・
「これは・・・空中層ですか・・・」
階段の先は地面がなかった。所々に浮いている島があるようだ。飛行タイプの魔物が多数飛び交っている。
「このダンジョン攻略させる気がないんだろうね~。」
「この下はきっとどこまで落ちても地面は無いんでしょうね。本当にダンジョンは何でも有りなんですね。」
「えげつないダンジョンですね。普通の探索者では攻略は不可能と言ってもいいのでは?」
「普通の探索者だと、1階の海を船を用意して渡って、広大な2~4階を何年も探索して、その先に待っているのが空中層。心が折れますね。」
階段の先には、如何にもこの上に乗ってくださいというような感じの正方形の浮島がある。
「あの正方形の浮島はトラップかな?」
「あれに乗って進めということかもしれませんが、魔物の氾濫状態では危険すぎますね。氾濫状態じゃなくても難易度が高いですが。」
「逃げ場のない格好の的だな。グリフォンにガルーダ、あれはワイバーンの上位種か?こんな所を対策もなしで進むのは俺は御免だ。」
ロドリゴさんは諦めムードだ。俺もこんなところを進むのは反対だ。
「でも珍しそうな魔物もいますよ。あれはエンジェルベアではないですか?」
なんだ、その可愛らしい名前は。確かに天使の羽根みたいなのが付いてる空飛ぶ白い熊がいるが、牙を剥いて獰猛な顔をしているぞ。
「ここも匂いで誘引作戦でいきましょうか。階段内なら飛行タイプの魔物の強みは潰せます。ドロップ品も拾えそうですし。」
「下り階段ですよ?匂いが四階層側に向かっていってしまうのでは?」
「ルーベンの風魔法で何とかできませんか?」
「多分できると思いますね。五階層側に風を吹かせればいいわけですね。」
「万が一、四階層側から魔物が来たらその討伐もお願いしますね。」
俺は念の為に、スピーダーの動力用の風を発生させる魔結晶を階段の上の方にいくつか設置した。
ルーベンさんの代わりとしてデュンケルに遠距離攻撃部隊に加わってもらった。張り切っているようだな。うちのメンバー代表として頑張ってほしい。チャールズさんとキアラさんはメイン火力の魔法部隊。この二人が攻撃して倒れた敵をデュンケルが止めを刺す流れだ。これならバリスタ砲の金属矢も回収できる。
シルビアさんにはデュンケルの後ろでバリスタ砲の矢の装填をお願いした。
そして、ドロップ品の回収役。次々魔物は飛んでくると思われるので、ドロップ品の回収が一番危険な役割だ。いざという時に盾で身を守れるロドリゴさんが担当することになった。
シュバルツとウルケルは距離が届きそうならウィークポイントの魔法を使うように指示しておいた。階段内では回避行動がとれないので、強力な魔物が飛び込んできても、俺達の前に到達される前に確殺しなければならない。
俺とソフィーちゃんのポジションは変わりはない。肉を焼く役と食べる役だ。昼食と夕食用の分も焼いて、俺のマジックバッグで保管しておくか。
「では、お肉乗せます!」
皆が配置についたのを確認して、俺は謎の掛け声を掛けた。
「いつでもどうぞ!」
何故かソフィーちゃんが返事を返してきた。目の前にいるんだから叫ばなくていいだろうに。戦闘員の皆も呆れている様子だ。ソフィーちゃんの頭の上のキャノンも呆れている。怒ったところでソフィーちゃんの食欲は満たされないのだ。この子は大物になるのかもしれない。
匂いで誘引作戦はこの階層でも有効のようで、討伐は順調だった。
巨大な階段内と言っても魔物が殺到すれば大混雑状態になる。飛行タイプの魔物の強みの機動力は失われ、魔物同士でぶつかり合うこともあった。お陰で攻撃部隊は適当に攻撃を乱射しているだけで魔物は討伐されていった。キアラさんなんか爆発魔法を乱射しながら「爆発は芸術だ~!」と叫んでる余裕さえあった。
今回のダンジョン出張も大儲けだな、と考えながら肉を焼いていると問題が発生した。
渋滞する魔物を押し退けながら無理やり進んでくる何かがいる。一番前にいたロドリゴさんが走って戻ってきた。
「ドラゴンが来るぞ!」
「全員一箇所に集まってください!シールドの魔法が使えるものは準備を!」
すぐにチャールズさんから指示がでる。みんながバーベキューコンロの周りに集まってきた。霊獣たちにもシールドの指示を出す。ソフィーちゃんも皿の上のお肉を急いで口の中に詰め込んでいる。やはりこの子は大物かもしれない。
ドラゴンはワイバーンの上位種らしきものを壁に叩きつけて、その姿を現した。グリーンドラゴンだった。俺が出会ったドラゴン一家の親ドラゴンよりは小さいが、それでもウルケルの倍以上の大きさがあるのではないか。
ドラゴンは一瞬動きを止めてから口を大きく開いた。
「ブレスきますよ!全員シールドを!」
俺もバーベキューコンロの前で障壁3枚に闇属性シールドを展開した。全員がシールドの後ろに身を隠す。10枚以上の重なったシールドが展開された直後、轟音と共にブレスが放たれた。
ものすごい衝撃波が吹き荒れた。シールドは半分くらいが消し飛んだようだが、全員無事だった。良かった。バーベキューコンロは守られた。
「ああっ!コンロの上のお肉が吹き飛ばされてしまいました!」
守れなかったものもあったようだ。どうやら余波でやられてしまったらしい。
ブレスの余波が去った瞬間、戦闘員の方々はシールドの影から飛び出していった。俺と霊獣達もシールドの陰から顔を出して、ウィークポイントを使いまくった。
ドラゴンは狭い階段内で腕を振り回しながら暴れているが、徐々に追い詰められている。階段内はやはり動きにくいようだ。距離を詰められて得意の風魔法も使えないのか、防戦一方だ。チャールズさんに片腕が切り落とされて、とうとう敵は動きを止めた。その瞬間、ソフィーちゃんが飛び出していった。
「お肉の仇です!!!」
ソフィーちゃんのトンファーの尖った先端が、ウィークポイントが当たっていた敵の眉間を貫いた。そして、ドラゴンは霧散して消えた。
この日、ソフィーちゃんはドラゴンバスターの称号を得たのだった。




