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第62話 領主への陳情

翌朝、影の中から出ると、小さいドラゴン達が花畑に水魔法で水やりをしていた。この花畑はドラゴン達が育てていたのか。そういえば植物魔法も持っているんだったな。踏み荒らさないように注意しよう。

ん?水魔法使えるなら昨日酒樽をあげなくても良かったんじゃないか。喉が渇いても自分で調達できるじゃないか。まあ、済んでしまったことか。ウルケルと会えたのも酒があったからだし。


さて、帰ることになるのだが、この場所の保護を求める陳情をどこにするべきか。トラッキアの街の冒険者ギルドに報告するか。あるいは領都に戻ってフィデルさんかジャレッド先生経由で領主にお願いするか。

よし、領主にお願いすることに決めた。冒険者ギルドに報告したら先走ってドラゴン討伐に乗り出す奴がいるかもしれないからな。先に領主に話を通して対策してもらおう。

領都までウルケルが背に乗せてくれることになった。空を飛ぶ魔道具は作るのを諦めていたので空の旅が楽しみだ。飛ばされたら大変なので、ウルケルの背の上で影の中から上半身だけ出して首にしがみついた。

空に飛び上がるとこの森の広さがよく分かる。どこまでも森が広がっている。俺は方角をウルケルに指示しながらナビゲートした。迷うことなく領都まで来れたので、少し離れた場所に着陸した。すぐにウルケルは影の中に入ってもらって、スピーダーで領都へ向かった。


従魔登録は一旦保留にすることにした。霊獣のことはジャレッド先生に相談するのが良いだろう。

それにしても、どうして俺が契約する霊獣はどいつもこいつも図体がでかいのだろうか。フリードやキャノンくらいの大きさの方が連れ歩きやすいんだがな。


酒場へ向かった。開店の時間はもう少し先だ。

デュンケルは商品の納品に行くようだ。商品の陳列にもこだわりがあるらしく、自分で配置するのだ。店員の女の子から売上や反響の報告を聞いてから、後で霊獣用個室に来るだろう。

シュバルツはもう酒の注文に向かっている。俺もウルケル用の巨大ジョッキを出して注文しておいた。ルーベンさんたちには、ドラゴン型の霊獣が霊獣用個室にいるから今後ともよろしくと伝えておいた。

霊獣用の個室でウルケルに出てきてもらった。この部屋はデュンケルやシュバルツが快適に飲めるようにかなり広い部屋になっている。ウルケルでも何とか入れる。天井が低いかもしれないが、半身は影に潜ってもらえば問題ないだろう。

『ウルケル、店の人に酒の注文はしておいたからシュバルツとここで飲んでいてくれ。』


さて俺も何か飲もうかなと思って店内に戻ると、フィデルさんに遭遇した。

「ルノさん!帰還されたと聞いて、今お呼びに行こうかと思っていたところですよ。」

「先程、戻りました。店は問題なかったでしょうか?」

「店は問題ありませんが、他で問題が発生しているようなのですよ。その件で会って頂きたい方がいらっしゃるのです。先程、ご来店されて個室にお通し致しましたので。」

「どなたがお見えになっているんです?個室を利用するような人物で、俺に用がある人など身に覚えがありませんが。」

「この領地の領主様、オクスリビア子爵様ですよ。個室を作って頂いたのは僥倖でした。これがなかったら大変なことになっていましたよ。領主様はオープンしてから三日に一度は来店されるものですから。」

「領主様ですか。流石に今の格好でお会いするわけにはいかないので、ちょっと霊獣部屋で着替えてから行きますよ。」

「とても気さくな方なので、あまり気にしなくても良いのですが。まあ、準備ができましたらお声掛けください。」

今は帰還したばかりで黒い革鎧姿なのだ。俺はスーツに着替えることにした。

グリーンドラゴンの保護の件のこともあったから都合が良いな。タイミングを見て話を切り出すか。

ウルケルを紹介することにもなるだろう。しまった。ウルケルのスーツがないぞ。あいつ裸だ。せめてシュバルツとデュンケルにはスーツを着せておこう。

俺は準備を済ませてフィデルさんの元へ戻った。しかし、デュンケルがいなかったな。あいつどこに行ったんだ。


フィデルさんが個室をノックする。

「フィデルです。失礼致します。」

部屋が開けられると、そこにはデュンケルと握手しているダンディなおっさんがいた。

デュンケル!こんなところで何をやっているんだ!ここはお前の握手会の会場じゃないだろう!

「おお、貴君がルノという者か?ぜひお会いしたかった。私はグラシアノ=オクスリビアだ。ここの領主をやっている者だ。親しみを込めてグラスと呼んでくれ。」

「お会いできて光栄です、子爵様。私はルノと申します。そちらは私の契約霊獣のデュンケルと申します。」

「堅いな、グラスで良いと言うのに。デュンケル氏は先程店内で見かけたものでな。声を掛けさせてもらったのだ。デュンケル氏にお会いできるとは。今日は良き日だ。」

ああ、この人は彫像マニアなんだったか。本店のワイバーン像をわざわざ見に来たとかいう人だったな。デュンケルのファンか。

「グラス様。とりあえず席にかけてお話しませんか。」

フィデルさんは子爵様の前だというのに、割と遠慮のない対応だ。でも貴族を敬称呼びはまずいんじゃないか。

部屋には子爵様の付き人と思われる男性が二名、後ろに控えている。一人は護衛か。多分かなりの強者だな。

ジャレッド先生もいらっしゃった。報告の手間が省けるな。軽く会釈しておいた。デュンケルには霊獣用の個室に移動してスーツを着ておくように伝えて退出させた。

「ジャレッドとフィデルから話は聞いているよ。特にイルタ川の氾濫を治めた功績は大きい。お陰で長年の悩みの種が一つ消えた。ずっと礼を言いたかったんだ。本当にありがとう。」

ウンディーネの件か。そういえば村がいくつか流されたとかいう話だったな。

「いえ、礼には及びませんよ。ジャレッド先生の調査について行った先の偶然の出来事ですから。それに霊獣達からのお願いでもありましたからね。」

「ウンディーネの件は残念だった。公開はしないが内密に現地に慰霊碑を作らせている。この件に関しては一般公開はしていないが、国へは報告してある。二度と魔物に堕ちるような霊獣を生まないためにも法整備する必要があるのでな。霊獣の住処を奪ったり、虐げたりといったことが起こらぬようにせねば。ジャレッドの研究発表により、契約魔法と霊獣の存在についても認知されつつあるから、放っておけば必ず問題は起こる。貴君も気を付けられよ。」

「そうですね。今は従魔ということで通しておりますからね。そのうち気付く人も出てくるでしょうね。そういえば今回の旅でまた新たな霊獣と契約したのですが、従魔登録でも問題が起こりそうで困っているのです。」

俺は今回の旅の話とウルケルの従魔登録の件、遺跡とグリーンドラゴンの保護の陳情の話をした。

「ううーむ。ドラゴン型の霊獣か。確かに普通に従魔登録するのは無理だな。私が霊獣の証明として従魔ギルドマスター宛に一筆書こう。それと飛んでいる姿が見られるだけでも民衆の恐怖心を煽ってしまう。飛ぶ時は何か分かりやすい目印をつけておいてくれないか?それを付けているドラゴンに危険はないものとして触れを出そう。世間で認知されるには時間がかかるだろうが、冒険者ギルドマスターだけでも知っていれば問題は大きくはならないはずだ。」

目立つ物か。飛ぶ時は『私は霊獣です』と書いた横断幕でも括り付けておくか。想像してみたがすごくダサいな。

「では飛ぶ時は遠目でも分かるように適当な紋章を描いたものを持たせておきましょうか。紋章は決定次第お伝えしますので。」

「そうしてくれ。それから遺跡とグリーンドラゴンの保護だったな。既に目撃例があるというのは私も報告は受けていた。しかし、生息地の探索が困難だったので放置していた案件だな。詳細な情報が入手できたのは助かるな。簡単に辿り着けない場所のようだが、冒険者の探索範囲に規制を設けるか。それとドラゴン型霊獣ウルケルの庇護下にあるグリーンドラゴンだから討伐しないようにと触れを出すか。霊獣はまだまだお伽噺の認知だが、神聖視はされているからな。霊獣の名前を使うのは効果的だと思うのだが良いかな?」

「ええ、構わないと思います。霊獣の認知度が上がった方が私も動きやすくなると思うので。」

「しかし、無害なドラゴンというのは信じがたいな。本当に大丈夫なんだろうな?」

「私はそのドラゴン一家と一緒に食事を共にしましたが、至って平和なものでしたね。見事な花畑を育てていたりして、微笑ましいほどでしたよ。ただし、ウルケルからは安全なのはそのドラゴン一家だけで、他のドラゴンは非常に危険な存在だから気を付けるようにと釘を刺されました。」

「分かった。霊獣ウルケルは後で見せてもらっても良いかな?」

「ええ、霊獣用個室にいますので見ていってください。」

話の分かる領主様で良かったよ。俺からの話は終わったな。ジャレッド先生はまだ必死でメモをとっているようだが。

フィデルさんも何か話があるんだったかな?

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