第54話 ダンジョンからの帰還
三階層への階段が見えた。巨大な階段だ。確かに上空からだと見つけやすいだろう。
階段の前にはこの階層のボスと思われる存在がいた。オークの上位種のようで、手にはメイスを持っている。大した相手ではなそうだ。俺でも問題なく討伐できるだろう。
訓練のため、ソフィーちゃんが戦うことになった。ソフィーちゃんは張り切っている。
その時、三階層への階段からミノタウロスが上がってきて、こんにちはと顔を出した。
階層ボスらしきオークの上位種は、ミノタウロスの一撃で死んだ。
ソフィーちゃんはミノタウロスと戦うことになった。
さっきまで張り切っていたソフィーちゃんはどこに行ったのか、悲壮感が漂っている。
頑張れ、ソフィーちゃん。
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結果としてはソフィーちゃんの辛勝だった。
たった数ヶ月でミノタウロスを倒せるようになってしまうとは。商会の潤沢な資金を使ってスキルを増やしたというのもあるだろうが、凄まじい修練を積んだのだろう。
チャールズさんがセンスがあると言うのも頷ける、それはもう見事な攻防だった。トンファーは魔物討伐には向いていないんじゃないかと思っていたが、部分的に刃物のようにしていて殺傷力を上げているようだ。予見スキルも上手く使っているのだろう。紙一重で攻撃を躱しては攻撃を積み重ねていった。何度か危ない場面もあった。トンファーで防御はしたものの後方に吹き飛ばされて木に叩きつけられていた。しかし、ソフィーちゃんは何事もなかったかのように起き上がって、再び敵に向かっていった。頑強スキルを手に入れているようだ。
俺はまだ頑強スキルを持っていない。近接戦闘している人なら大抵誰もが持っているものだ。訓練場で冒険者の人たちとの試合で結構ボコボコにされているのだが、未だに習得できていない。ソフィーちゃんはシルビアさんに鍛えられて習得したのだろう。俺もシルビアさんに殴られたら習得できるだろうか。いや、駄目だ。今の俺が殴られたらミンチになってしまう。
三階層に降りてみることになった。
三階層は岩石地帯のような場所だった。ここも魔物の気配が濃い。様子だけ確認して二階層に戻った。明日からは三階層への階段を起点に二階層の間引きを行うことになる。ここは一階層のように安全ではないため、バーベキューはできない。マジックバッグの料理のストックで食事は済ますことになった。
それから三日間、二階層の魔物の間引きが続いた。
宝箱も何度か発見された。一階層の時のようなアーティファクトはなかったが、宝石類やスキルスクロール、謎の金属塊などが出てきた。この謎の金属塊は綺麗だったので貰えないか交渉したところ、ご自由にどうぞと言われた。デュンケルと二人で山分けすることにした。デュンケルも嬉しそうだ。
綺麗な金属だったのでアクセサリーでも作ってみることにした。試しにネックレスを作ってみた。ネックレスチェーンを作るのは苦労した。金属魔法のスキルレベルが上がっても細かい作業は難しかった。デュンケルに教わりながら何とか完成した。以前、キラーシャークを討伐した際に入手した青い宝石も埋め込んでみた。うん、いい感じのネックレスだ。アクセサリー作りも楽しいかもしれない。暇な時に色々作ってみよう。
出張最終日、二階層の強力な魔物は大体討伐したと思われたので、三階層の魔物の間引きを行うことになった。
俺も三階層を少し探索してみることにした。しかし、俺は普段森で狩りをしているのだ。空中移動しつつ、木に隠れながら奇襲をかけるのだが、岩石地帯では隠れる場所が少なく上空からの奇襲が難しい。仕方がないので俺が囮になってデュンケルが背後から仕留めるという、いつもの連携で行くことにした。
この戦法は俺が空中で相手の注意を引きつけるためにウロウロすることになる。岩石地帯だとすごく目立ってしまうのだ。戦闘中に周囲の魔物が乱入してくる可能性が高くなってしまう。ただでさえ魔物の氾濫状態で魔物密度が高いため、シュバルツに周囲の安全を十分確認してもらってから戦闘することになった。
それでも狩りやすいミノタウロスとの遭遇率が高く、かなりの数を仕留めることができた。
最終日を終えて翌朝、ダンジョンの外へ移動することになった。
昼過ぎには一階層に辿り着き、そこから三時間かけて俺が一階層の海を走破する。夕方には街に戻れた。
この日は宿を予約して冒険者ギルドの酒場で宴会することになった。従魔OKの酒場といえばここなのだ。みんなが思い思いに好きなものを注文していき、酒を準備する。冒険者ギルドの酒場の良いところは飲食物の持ち込みもOKなことだ。酒は注文した蒸留酒を使って俺がカクテルを作ったり、ビールを出したりした。
デュンケルはフリード用に足の短いカクテルグラスを、キャノン用に超ミニジョッキを作ってあげている。本当に気の利くやつだな。シュバルツは真剣な顔でメニューを眺め、吟味することに余念がないというのに。
ソフィーちゃんもシュバルツと一緒に料理を注文している。霊獣は契約者としか念話はできないはずなのに、何故かソフィーちゃんとシュバルツは意思疎通がとれている。謎の友情が生まれたようだ。今日は戦争が起きることはなさそうだ。
酒が揃ったところで、チャールズさんが乾杯の音頭をとる。
「それでは皆さん。ダンジョン探索、お疲れさまでした。目的の三階層到達も果たせましたし、ドロップ品も十分な量が確保できました。商会長もお喜びになることでしょう。帰ったらまた宴会になるかもしれませんが、今は我々で楽しみましょう。今後の更なる商会の発展を祈って、乾杯!」
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
みんな楽しそうにグラスを空けている。
「そういえば次のダンジョン出張はいつ頃になるんですかね?」
「数ヶ月は先になると思いますよ。今回の戦後処理がありますからね。」
「鑑定班は大変だろうね~。あのドロップ品の量だからね~。」
「そこは商会長が夜なべして頑張るんですよ。」
「ああ、フィデルさんも鑑定持ちでしたね。」
「まあ、何にしてもダンジョン出張はルノさん在りきですからね。ルノさんの都合で決まることになると思いますよ。」
「じゃあ、次は酒場作りが終わってからですね。」
「お~!キアラグリーンがいつでも飲めるようになるんだね~。期待してるよ~。」
「それは蒸留酒が作れるかどうか次第ですね。まだ分かりませんよ。それに酒場のスタッフは誰がやるんですかね?」
「先日、また若い新人たちが雇われてましたよ。多分、酒場が完成する頃には研修は終わると思いますよ。」
「うーん、若者も必要なんですが、酒場のマスターは少し年を重ねた雰囲気のある方が理想なんですよね。例えばルーベンさんみたいな。」
「ブフッ!ルーベンがマスターだって~!うん~!いいと思うよ~!私、毎日通ってキアラグリーン飲みに行くよ~。ブフフッ!腹がよじれる~。」
何故かキアラさんに大ウケした。ルーベンさん、シュッとしてて格好いいし、おかしくはないと思うんだけどな。
「私がマスターですか?上からやれと言われればやりますが、富裕層向けの酒場なんですよね?うーん、私に務まるんでしょうかね。」
うん、この人ワーカーホリックだからね。上からやれって言われたら絶対断らないだろうね。
「いや、私の中での理想像の話ですよ。例えで挙げさせてもらっただけです。でも私が作ろうとしている酒場の雰囲気にはルーベンさんは本当によく合うんですよね。」
「ルーベン。商会長はルノさんがおっしゃった事は大体OKを出すぞ。仕入部はダンジョン産の物が定期的に入手できるようになれば、普段の仕入れは俺とキアラで対処できるはずだ。酒のノウハウ教わっとけ。俺にまずい酒出すなよ。」
ロドリゴさん、酒好きだからな。毎日通うんだろうな。
しかし、もうルーベンさんがマスターをする流れになってきてしまったな。申し訳ないことをしてしまった。




