第51話 探索初日を終えて
一階層への階段まで戻ったが、やはり時間が早かったので誰も戻っていなかった。
晩飯の準備でもしておくか。魔物肉が大量に手に入るだろうからバーベキューにするかな。一階層に上がったところの砂浜なら安全だろう。もし鳥系魔物が来ても今回のメンバーなら何の不安もないしな。
そうだ、トイレも作っておこう。一階層の階段の洞窟の裏側に作るかな。デュンケルに土魔法で穴を掘ってもらって、その上に便器を作ってもらった。ダンジョンでは穴を掘っても時間経過で戻ってしまうらしいが、丸一日くらいは大丈夫だと聞いている。ポケットティッシュも配備しておいた。本当にポケットティッシュには尻拭き紙として毎日お世話になっている。これがなければ俺はこの世界で生きていられなかったかもしれない。
トイレは二箇所作って男女別だ。土魔法で壁も作って囲ってある。土魔法便利。デュンケルはすごい。
その後は肉や野菜を切ったり串に刺したりしながら、みんなが戻ってくるのを待つことにした。
夕方四時頃になるとみんなが無事戻ってきた。ソフィーちゃん以外はみんな嬉しそうな顔をしている。
ポーションで治っているが、ソフィーちゃんはどうやら足を怪我したらしい。シルビアさんの攻撃に巻き込まれたそうだ。あの程度避けなさい、と何故かソフィーちゃんは加害者から怒られていた。シルビアさんの肩の上のキャノンも、ソフィーちゃんを指差して『キューッ!』と怒ったように鳴いている。
『シュバルツ。キャノンはなんて言ってるんだ?』
『このノロマが!と言ってますよ。主殿。』
頑張れソフィーちゃん。
「みなさん、お疲れさまです。明るいうちにドロップ品の整理をしましょう。」
どういう訳なのか、ダンジョン内では昼夜があるのだ。
チャールズさんがみんなを集めてドロップ品の整理をすることになった。各自が持っていたマジックバッグからどんどん中身を取り出していく。この世界のマジックバッグは口が広い袋が一般的だ。口が狭いバッグだと俺のマジックバッグのように入れるものの大きさに制限がかかってしまう。大きくて丈夫な革製の袋をマジックバッグ化させているのだ。丸めておけばコンパクトになるから、口の広さがとにかく大事なのだ。
常温で保管できるものは俺の影の中に入れていく。肉などの腐りやすいものは俺のマジックバッグに入れて保管しておく。マジックバッグを空にして明日も探索するわけだ。
しかし多いな。いつまで出てくるんだ。魔物の毛皮や牙や角みたいな物、スキルスクロールや宝石類もあった。なんかよく分からない物もたくさんあった。
「スキルスクロールは適正がある者がいれば使ってしまいましょうか。」
この場に鑑定スキル持ちがいないので、何のスクロールか分からない。
スクロールはマジックバッグに入れて手を突っ込んでみても『スキルスクロール』としか情報が分からない。肉なんかは『バーサークベアの肉』などと情報が分かるのだが。
スクロールは三つあった。そのうち二つはチャールズさんとキアラさんが適正有りだったが、使用できなかったようだ。どうやら既に習得済みのスキルらしい。これは持って帰って売却することになった。残りの一つはチャールズさんとソフィーちゃんが適正有りで、ソフィーちゃんが使用することができた。
ソフィーちゃんはステータスを確認している。
「このスキルは!シルビアさん!手合わせをお願いします!」
ソフィーちゃんは、この勝負もらった!という顔をしている。
すごいスキルが手に入ったのだろうか?でもスキルLv1で役に立つスキルなんてほとんどないはずだが。
「では行きますよ!」
開始と同時にソフィーちゃんはシルビアさんに接近して攻撃をした。シルビアさんはあっさり躱してカウンターの攻撃を放つ。ソフィーちゃんはそのカウンターを見事に防ぐが、すぐ追撃されて殴り飛ばされて試合終了となった。
「今の不自然な動きは・・・チャールズと同じスキルとなるとアレか。」
「ふむ。末恐ろしいな。」
「ほう。良いスキルを手に入れましたね。」
みんなは今の試合を見てスキルが分かったのか。俺は全く分からん。
「何のスキルなんです?俺にはただソフィーちゃんが殴られただけにしか見えませんでしたが。」
「ルノさん。相手が攻撃を避けてカウンターを仕掛けてきたらどうしますか?」
「避けるか、防ぐかすると思いますが。」
「相手が自分より遥かに格上だったとしてそれができますか?」
「それは・・・」
「普通の攻撃を防ぐのと、カウンターを防ぐのは難易度が全く違いますよ。相手が格上ならカウンターを防ぐのは極めて困難になります。さっきソフィーはそれをやってのけたのですよ。」
確かに見事な防御だった。どこにカウンターがくるのか分かっているような動きだった。
「見切りのスキル?それにしては完璧過ぎる防御だったような・・・」
「惜しいですね。正解は『予見』です。少し先の未来が部分的にですが見えるスキルです。スキルLv1でさっきの防御は見事でしたね。ソフィーはやはりセンスがありますね。」
予見か。すごそうなスキルだな。すごく頑張ってるみたいだし、もう俺より強いんじゃないかな。
試合は2試合目、3試合目と続いており、どんどんソフィーちゃんはボコボコにされていく。
キャノンも一緒になってソフィーちゃんをボコボコにしている。
俺も頑張らないとな。
チャールズさんがシルビアさんを止めるまで試合は続いていた。そしてドロップ品の確認が再開された。
一通りドロップ品の整理が終わったところで晩飯にすることになった。
どうやら俺が飯係のようだ。みんながこっちを見て待っている。
「では一階層へ戻りましょうか。ここよりかは安全だと思いますので。」
一階層の砂浜へ移動してバーベキューだ。
俺の影からバーベキューコンロを取り出して準備していく。商会に販売したコンロも借りて持ってきていたので四台ある。
用意していた分の肉や海産物、野菜類を出しておいて、俺はさっきのドロップ品の魔物の肉を切っていく。
おっ、これはミノタウロスの肉か。これはステーキにしよう。
シュバルツには約束のホタテのバター醤油焼きを焼いてやろう。
どんどん焼いていくが、焼いた側からどんどん消えていく。買い溜めストックのスープやピザなども出していくが、すごい勢いで消えていく。ソフィーちゃん遠慮してくれないかな。
『ああっ!それはとっておいた私のホタテのバター醤油焼き!主殿!この者を何とかしてください!』
ソフィーちゃんとシュバルツの間で戦争が起きているようだ。ダンジョンの中だというのに平和だなあ。




