第49話 ダンジョン出張第一陣出立
ダンジョン出張第一陣のメンバーが発表された。
第一陣のメンバーはチャールズさんをリーダーに俺、ロドリゴさん、ルーベンさん、キアラさん、シルビアさんだ。このメンバーに例外としてソフィーちゃんも加わる。シルビアさんが教育の一環として個人的に連れて行くそうだ。レイクスの支店長の人が自分も行きたいと相当ごねたらしいが今回は攻略が目的ではないからと却下されたそうだ。
俺は呼ばれなかったが、どうやら幹部会議があったらしい。レイクスの幹部クラスの戦闘員も集められて、白熱した会議になったそうだ。何故なら全員参加を希望したからだ。戦闘員全員が店を空けるのは仕入れも停滞してしまうし、防備も手薄になってしまうから困るとフィデルさんが待ったをかけたらしい。防備とは何のことだろうか?商会が何かに襲われることがあるのだろうか?この商会は一体何と戦っているのだろうか。すごく気になるが、今はダンジョン出張だ。
現地まではメンバーをシュバルツの影の中に入れて、俺がスピーダーで進むのが最も効率が良い。しかし、折角なのでチャールズさんとシルビアさんに差し上げるスピーダーの運転に慣れてもらおうと思う。
二人乗りなのでチャールズさんとロドリゴさん。シルビアさんとキアラさん。俺とルーベンさんの計三台での移動だ。ソフィーちゃんはシュバルツの影の中でトレーニングだ。
ここで自分の失策に気付いてしまった。
シルビアさんに乗ってもらうはずだった俺のスピーダーの後部座席に、おっさんを乗せることになってしまった。しかも、シルビアさんに専用機を差し上げてしまったために、二人乗りドライブに誘いにくくなってしまった。
嗚呼、専用機プレゼントする前にドライブに誘えば良かった。俺の馬鹿。
済んだことを気にしても仕方がないので、早速皆さんに乗って頂いた。
「おおー。これは乗り心地が良いですね。」
「ジャレッド先生が乗っていらっしゃったのを見て気になってましたが、これは良いものですね。」
操作方法を一通り教えると二人は早くもコツを掴んだようだ。まあ、そんなに難しい操作じゃないからね。
キアラさんがシルビアさんの後ろから、私も操作したい~、と手を出そうとしているのが不安だ。事故には本当に気をつけて欲しい。
「くれぐれも事故は起こさないように気をつけてください。特に歩行者の人を轢かないようにするのと、周囲の馬車の馬を驚かせないようにしてください。」
「分かりました。距離をとって走行する必要がありますね。」
「しかし、本当にこんな良いものを頂いてもよろしいのですか?」
「ええ、遠慮なくどうぞ。日頃の感謝の気持ちとして受け取って頂ければ。霊獣契約者でないとまともな燃費で走れませんが。」
「燃費といっても馬の維持費と比較すると全く大したことないと思いますよ。多分、一人乗り用は欲しがる人が相当数いますよ、これ。少なくともうちの商会長は絶対に欲しがりますね。」
「作るのが大変なので販売の予定はありませんね。もし修理が必要になったら呼んで頂ければ見ますので。」
スピーダーを欲しがる人はいるというのは分かってる。積載量の都合上、荷物の多い人には必要はないだろうが、マジックバッグ持ちの人はみんな欲しがるだろうね。でも俺は魔道具だけ作る生活を送る気はないのだ。俺は旅人なのだ。
途中でデミグラスソースのレシピの取引をした宿屋に寄って、ローレンス商会幹部の皆さまを紹介しておくことにした。
夕方、バートさんの宿屋に到着したのだが、以前立ち寄った時よりすごい繁盛していた。新メニューが人気を呼んでいるようだ。
部屋は空いていたので宿泊させてもらった。すごく忙しそうだったので、挨拶するのは夜にすることにした。
時間をずらして遅めの夕食だ。
うむ、この宿屋のソースを使ったブラックブルカツはやはり美味い。以前より完成度が上がっているな。商会の皆も美味そうに食べている。ソフィーちゃんは山盛りの唐揚げをもりもり食べている。店の許可をもらって霊獣たちもビールを飲んでいる。シュバルツはいつものようにメニューの端から端まで注文している。それを見たソフィーちゃんはすごく羨ましそうにしている。シルビアさんは呆れた様子だが、好きに注文しなさいと許可を出した。ソフィーちゃんは嬉しそうに追加注文していた。普通にしていればこの二人は仲の良い姉妹みたいなんだよな。追加注文の量が普通ではないけど。
料理が出揃った頃、他の客はいなくなっていた。そこへ店主のバートさんがやってきた。
「さっきは済まなかったな。手が離せなかったんだ。」
「お久しぶりです、バートさん。すごく繁盛しているようで驚きましたよ。このビーフカツも更においしくなってますね。」
「ああ、おかげさまでな。あんたと取引して良かったよ。改めて礼を言うよ。」
「いえ、こちらも頂いたレシピのおかげでハンバーガーが完成しましたよ。紹介します、こちらがローレンス商会の幹部の方々です。」
「始めまして。ローレンス商会のチャールズと申します。お世話になったようで、商会長に代わってお礼を申し上げます。」
「バートだ。礼は必要ない。どう考えてもこちらの方が受け取った対価が大きかった。対価のレシピでここまで客が来るとは思ってなかったからな。もし、この街に立ち寄ることがあったらいつでも泊まっていってくれ。」
「有難うございます。これから港町へ出張なので、帰りにまた立ち寄らせて頂きますよ。今後も良いお付き合いをよろしくお願い致します。」
「そうだ!バートさん。良かったら料理を持ち帰り用にたくさん作って頂けませんか?出張中に食べたいのです。」
「それくらいならお安い御用だ。力になれることがあれば言ってくれ。できる限り協力しよう。」
俺は鍋や大皿をたくさん渡しておいた。出来上がったら取りに行こう。
この人数でダンジョンに籠もるとなると、ストックを増やしておかないとな。ソフィーちゃんがひもじい思いをすることになってしまう。
翌朝出発して旅は順調に進んでいった。スピーダーなら港町まで片道4日で行ける。夜通し走るなら2日で行けると思う。
港町フレネに到着すると、こんなに早く来れるとはとみんな驚いていた。
この日は宿泊して明日の朝、市場で海産物を大量仕入れした後にダンジョンアタック開始だ。泊まる宿はもちろん普通の宿だ。今回は出張だからな、前回の高級宿に泊まるわけにはいかない。だが、朝夕食事付きの宿泊プランで、俺の分も出張経費ということで払ってもらえた。気前のいい商会だ。元の世界で俺が勤めていた会社も見習って欲しい。
露店で飯も鍋単位で買い漁った。これも出張経費で払うということで遠慮なく買いまくった。
そして、いよいよ魔境の地、海ダンジョン二階層へ向かう時がきた。




