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473 楽しむ





――――――――――

――――――――――――――――




「うわあ……!」



 すっげえ、きらきら。

 その通りは、目が潰れそうなくらいきらきらしたものでいっぱいだった。

 お店がたくさん並んで、輸入雑貨だとか、小物だとか宝石だとか、きらきら色鮮やかなもので溢れている。


 腰があっという間に治って、義勝に連れられてきた先はいろんなお店が並ぶ通りだった。

 人で賑わっていて、皆きゃあきゃあ言いながら楽しそうに買い物をしている。

 こんな可愛い通りに、俺や義勝は場違いじゃないかなって思ったけど、あいつを見ると恥じらいも戸惑いも一切なしで堂々としていたから、俺もあいつの真似をすることにした。



「気になるものがあればつけてみるといい」



 義勝はそう言ってくれたけれど、どれも可愛すぎて選べない。

 俺なんかがつけちゃっていいのかなって思うし、きらきらしたものって高そうだし、壊しちゃったらいけないし。


 だからちょっと離れたところから眺めるしかなかったんだけど……




「ふわあ…………」




 た、楽しい…………!!!

 きらきらふわふわしたものを眺めてるのってすげえ楽しい……!!!


 胸がドキドキ高鳴ってる。

 見たこともない綺麗な飾り、宝石、どれも綺麗で細工が凝ってて、可愛くて……!!


 自分がこういう可愛いものが好きだったなんて、正直ちょっとビックリだ。

 こういうのが似合うのは心桜みたいな女の子で、俺みたいなのは欲しいと思うことすら恥ずかしいと思ってた。



「……楽しそうだな」

「ああ! だってどれも可愛くて綺麗で……へへ、いいなあこういう空間。楽しいなぁ。すげえニヤつく。俺、変じゃない? 変な奴になってない?」


 そう言って顔を上げた俺は、思わず固まった。

 義勝が、思わずドキッとするような優しい顔で、俺を見つめていたから。


「あ、えっ……と……」

「お前はちっとも変じゃない。胸を張れ。……これなんてどうだ? お前に似合いそうだ」 


 簪ばかりずらっと並んであるお店だった。

 義勝は店員さんに声を掛けて、そのうちの一つを手に取り、俺の髪にそっと当てた。

 淡い、黄色い花の簪。

 


「綺麗だ。色合いが似すぎてお前の髪の一部みたいになっているが」

「え。それはどうなんだ?」

「お前は何をつけても似合う」

「て、適当言って誤魔化すなよ!」


 俺が唇を尖らせると、義勝はふっと柔らかく微笑んだ。


「何をつけても似合うと思ったのは本当だぞ。これはこれで、そういう飾りだと思えば悪くない。だがそうだな、もう少し違う色の方がいいか」


 あいつはにこにこしながら、楽しそうに簪を眺めた。


 絶対揶揄われたんだと思うけど……不思議と、悪い気はしない。

 何であれ褒められるのは嬉しいし、義勝は珍しくにこにこして楽しそうだし。

 綺麗な横顔を眺めていると、今日あいつに言われた言葉がふっと蘇る。




『お前は、俺の特別だ。お前を想ってる。ずっと……ずっと傍にいる。約束だ。決してお前を一人にはしない』




 あれって、夢じゃない、よな?

 思い出しただけで顔が熱くなる。嬉しい。嬉しくて嬉しくて堪らない。

 でも同時に、夢でも見ていたんじゃないかって、不安になる。

 だって、あんなに都合がいいことってないからさ。

 全部俺の妄想でしたって言われても、ああやっぱりそうかって納得しちまう。


「……………………」


 何となく、控えめに、俺はあいつの手をそっと掴んだ。


「ん?」


 義勝が優しい顔を俺に向ける。

 真っ黒な瞳には、俺だけが映っている。

 それだけでもやもやした不安はどこかに飛んでいって、嬉しい気持ちだけが胸をいっぱいに満たした。

 何も言わない俺に、義勝は不思議そうに首を傾げた。


「気になるものでも見つけたか?」

「……ううん、何でもない」

「そうか」

「……へへっ」


 だめだ、にやける。

 頑張って頬を引き締めようとしたけど、どうしてもゆるゆるに緩んじまう。


「……にこにこして嬉しそうだな」

「え、そ、そう? 俺はいつも通りだぞ! 義勝の方こそにこにこしてんじゃん!」

「ああ、まあ、楽しいからな」



 義勝は、俺が掴んだ手を優しく握り返した。

 それから、当然のことのように言葉を続けた。




「お前が嬉しそうにしている顔を見るのも、こうしてゆっくり街を歩くのも、お前に何を贈ろうかと考えるのも……何もかも楽しい。お前と一緒にいられる時間が、俺は幸せだ」

「ッ……な、なな、な……」

「! ほむら、この簪はどうだ? 小さな剣がくっついて強そうだぞ!」

「…………。ほんとだ、すげえ重そうだな」



 俺は赤くなった顔を隠して、ぼそぼそと返しながら、その妙な簪を言われるがままに髪に挿してみた。



 ああもう…………ばかばかばか。

 義勝のばか。

 義勝が素直過ぎるのも考えものだ。

 こんなことばっかり言われてたら、俺の心臓が持ちそうにない。



 それから俺たちはいろんなお店を覗いてみたけれど、なかなか一つに絞れなかった。

 だって難しい。小さな剣がくっついた簪はちょっと微妙だったけど、基本的にどれも可愛くて選べない。



「なあ、簪、やっぱりいいよ。いっぱい見たらお腹いっぱいになっちゃった。満足満足」

「なら俺が選んだものを――――」

「義勝が選ぶのって高そうなものばっかりだからな……」

「嫌か?」

「嫌じゃないけど……」



 義勝からなら、何を贈られても絶対嬉しい。

 でも、高そうなのはどうしても気後れしちまう。本当に貰っていいのかなって、悪い気がする。

 どうしようかなと辺りを見渡した時だった。



 ふと目に留まったのは――――……




「…………綺麗」




 俺はその深い藍色に、目が釘付けになった。

 優しい落ち着いた色合いは、何となく義勝を彷彿とさせた。



「これ、欲しいな」

「……髪紐?」

「うん」


 よく見ると深い藍色に金色が混ざって、きらきら輝いているように見える。

 まるで夜空を溶かし込んだような、綺麗な髪紐だった。


「よくできているが……簪とは違うぞ?」

「だってほら、俺、簪なんて普段使わないじゃん? でもこういう髪紐なら毎日使えるだろ」

「それは……」

「……お守り、みたいなさ」

「お守り?」


 ちょっと気恥ずかしかったけど、俺はこくんと頷いて、勇気を出して言葉を続けた。



「毎日、ずっと傍にいるって、お守り。この髪紐、義勝みたいだから……これをつけてたら、義勝がずっと傍にいる、みたいな……そんな感じになるかなっ……て……そしたら、ほら、嬉しいから」

「……………………」




 義勝から返事はない。

 おい返事くらいしろよって顔を上げて、驚いた。



 義勝の顔が、ビックリするくらい真っ赤になってたから。



「ッ……そ、そんなに照れちゃって……ら、らしくねえなあ!」

「お前こそ……顔、真っ赤だぞ」

「おお、俺はいつもこんな顔色だ!」

「ふっ……そんな訳、ないだろう……」

「そんな訳なくなくなくなくなくなくない!!」

「どっちだ」


 義勝は可笑しそうに噴き出して、それからその髪紐をそっと手に取った。






――――――――

――――――――――――




「…………どう?」



 

 長い金髪を一つに結わえて、恐る恐る義勝を見上げる。

 義勝は目を細めて、静かに微笑んだ。



「綺麗だ。似合ってる」



 真っ直ぐなその言葉に、また堪らなく恥ずかしくなる。

 義勝の手が伸ばされて、俺の頬に触れた。

 また口づけしてくれるのかな? でもここでされるのは恥ずかしい。期待と不安と恥ずかしさで心臓をバクバクさせていると……



 グキュルルルルル…………



 心臓じゃなくて、腹の方が「もう耐えられません」とばかりに音を上げた。



 俺と義勝はぽけんと目を合わせて、それから同時に噴き出した。


「飯でも食うか」

「うん!……あ、なあなあ! じゃあ欲しいものがあるんだけどさ!」



 そうして、俺は美味しそうな食材がいっぱい並ぶ市場に連れて行ってもらった。

 そこは見たこともない食材で溢れかえってて、色鮮やかで、見ているだけで楽しかった。正直何一つわからなかったけど、一体どんな味がするんだろうって考えたらドキドキする。



「あ、なあなあ! あれってサツマイモかな? 色がそっくり!」

「んー……どうだろうな。まあ、確かに色は似ているな」

「あの隣のは蓮根?」

「……よく似ているが、ちょっと違うような……」

「あれは竹の子? めちゃくちゃでっかい!」

「…………さすがにデカすぎないか? 俺よりあるぞあれは」


 いくらでも買っていいって言うから、俺は遠慮なくいっぱい袋に入れた。

 簪の時はあんなに悩んだのに、食べ物になると迷いがなくなるのはなんでだ? まあ、どれだけたくさんあっても困りはしないよな!


 義勝は不思議そうな顔をしていた。


「自分で作るのか? レストランならいくらでも――――」

「うん、天ぷら蕎麦を作りてえなと思って」

「天ぷら……蕎麦?」

「刀士郎の好物! 皆で作ろうって話したじゃん。もちろん義勝も参加だぞ!」

「俺は……料理下手だ」

「大丈夫大丈夫! 大切なのは気持ちだって! あ~素麺とか売ってねえかな。織姫様に食べてもらいたいし、かぐや姫様には竹の子ご飯作ってあげたいんだよな。乙姫様には何がいいかな? でっかい鯛とかないかな~。それに蓮さんには蓮根だな! 蓮根の天ぷらを食べてもらおう! 蓮さん、喜んでくれるかなぁ」


 考えたらわくわくしてきた。

 皆喜んでくれるといいな。料理は好きだ。喜んでくれる顔を想像するとわくわくする。


「いっぱい、お世話になったから。たくさん作って、たくさん喜んで貰えるといいな。皆でわちゃわちゃするのすっげえ楽しみ」

「…………。そうか」


 義勝は俺の頭を優しく撫でてくれた。


「そうだな、お前はそういう奴だった」

「? どういう奴?」

「他者の喜びに、幸せを見出す人間」


 愛おしいものを見るように、義勝はじっと俺を見つめていた。

 俺は視線を逸らせなかった。

 俺、そんな大層なもんじゃないよ? ただ楽しいと思うことをやっているだけだ。そう言いたかったけど、うまく言葉が出てこない。


 義勝はやがてぽんぽん、と俺の頭を軽く撫でた後、「それで」と大量の食材へ視線を移した。


「尋常じゃない量を作りたいのはわかったが、今から宴でもやるつもりか?」

「う、うん! 蓮さんの屋敷で! 蓮さんにはいっぱい子供がいるから、どんだけ作ってもあっという間にぺろりだと思う!」

「子だくさん? ……そうなのか?」


 訝しげな義勝に、俺は蓮さんの屋敷でのこととか、ここに来てからのことを喋った。

 楽しかった。ただただ楽しくて、一緒にいられるのが幸せで、このままずーっと歩いていたいくらいだった。


 幸せな時間がいつか終わることを、この時だけは忘れていたかった。


明日から3日間お休みします。

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