456 【ジーク】 閃く
「こ、粉々…………!!」
「どどどどどどうしよう!!? 俺!? 俺のせい!?」
ほむらが涙目になっている。
僕は慌ててフォローした。
「おおお落ち着け。多分大丈夫だ、うん。壊れているように見えるがこの程度なら多分何とかなるだろう、うん!」
「いやどう見ても壊れてんだろ……何とかならねえよこれは」
「そうだ! 俺がくっつけるよ! 俺けっこう器用だからひっつけたら何とかなるかも……!」
そう言って、ほむらは石の欠片に手を伸ばした。
すると……
パキパキパキパキ――――――
「あ」
バキンッ
もっと酷い音がして、緑色の石はサラサラサラー……と砂みたいに風にさらわれていった。
「………………」
「………………」
ほむらの顔からみるみる血の気が引いていく。
「お、俺が、触った、所為、で…………」
「ほむら」
「弁償! 弁償ってどうすれば…………!」
「いや、これは君が悪いんじゃない。何で壊れたかはわからないが、まあ、多分、寿命だ」
「寿命……」
「そう、寿命。だから気にしなくていい」
「でも…………」
「まあ壊れたもんは仕方ねえだろ。王子サマが気にしなくていいっつーなら気にするな」
乱蔵がぽんぽんとほむらの肩を叩いた。
ほむらはそれでも泣きそうになっている。
「あんな高そうな綺麗な石……お、俺のせいで壊しちゃったのに……」
「寿命だ。君のせいじゃない」
寿命というのはあながち間違いじゃないはずだ。
多分二度も瞬間移動を使って効力が切れたとかそういうところだろう。……多分。
「おい、もう石のことはいいからこの先のことを考えるぞ。石が使えねえならどうする。取りあえず自警団にでも行くか? そのうち公爵が来るって約束だ。待ってりゃ会える」
乱蔵の言葉に僕は頷いた。
確かにそれが一番かもしれない。安全だし。
そうしよう、と言いかけたところで、ほむらが首を傾げた。
「自警団? えっと、そこにおじさんがいるのか?」
「いや……おじさんはいない」
「おじさん、どこにいるんだ? 俺、おじさんに会いたいんだけど…………」
ここにきておじさん問題が浮上。
そうだったな、ほむらは皇帝に会いたくて仕方ないんだった。
しかし、アカツキでどれだけの騒ぎになっているかはわからないが、きっと皆大慌てだ。義勝から許可も貰えなかった。このままアカツキに戻れば、今日会うのはまず無理だろう。最悪、当分の間は大人しくしているしかないかもしれない。
「おじさんってのはまさか…………」
乱蔵に簡単に説明すると、あいつも渋い顔になっていた。
当然だ、あの皇帝に会わせるなんて、いくら本人が望んでいるとは言え到底賛成はできない。
「おじさんは良い人なんだ。だから……会いたいなって……手紙、貰ったし……だから…………」
ほむらは僕たちの顔色を窺いながら、必死だった。
その様子を見ると心が揺らぐ。どうにかしてやりたい、と思ってしまう。
何より、今回のハプニングは僕が招いたことだ。僕がこの石を持ってさえいなければこんなことにはならなかった。責任は僕にある。
「…………何とか、会える方法を探すか」
僕の言葉に、ほむらの顔がぱああっと輝く。
「ほんと!?」
「おい王子」
「少し会うくらいいいだろう。それに今僕たちはシノノメ帝国にいる。幸い、会いに行くのは難しいことじゃない」
「いや難しいだろが。皇帝は塔に囚われてんだろ? 義勝は? あいつは何て言ってんだ」
「許可できないと」
「じゃあ諦めるんだな。塔は警備も厳重だ。さすがにあんな場所には忍び込めねえ」
ほむらの顔がまたシュン、と陰る。
僕は考えを巡らせた。
これからどうするのが最善か。どうすれば義勝はほむらと皇帝の面会を許可するか……。
何か良い方法があるはずだ。何か…………
ふと、大きな窓が目に入った。
賑わう人々の姿。通りを歩く人の姿が、ガラスに次から次へと映っていく。
………………一つ、良い考えが閃いた。
「…………乱蔵、お前はほむらの無事を義勝に伝えて来い」
「は?」
「それから提案を。直接会うのがどうしても許可できないと言うなら、それ以外にも方法がある。例えば――――――」
僕の案に、乱蔵の目が僅かに見開かれる。
これであいつが許可を出すかはわからないが、まだ可能性としては大きいような気がした。
乱蔵には「お前が行け」と言われたが、「僕より速いだろ」と言い返せば何も言わずに皇宮へ向かった。
「…………なあ、俺本当に行かなくてよかったのかな?」
乱蔵が去った後、ほむらは申し訳なさそうに零した。
「当然だ。君が行ってそのまま部屋にでも閉じ込められたらどうする」
「それは……困る」
「騒ぎになるのはよくない。君はここでしばらく大人しくしとくんだ」
乱蔵の帰りを待つ間、僕らは静かなカフェに入った。
ルベルたちのいる屋敷や自警団に行くと騒ぎになるし、やはり強制連行されてしまう。
幸い乱蔵がこちらの通貨を持っていたから支払いの心配もない。
「茶は好きだろう? 美味しい?」
「あ、ああ! お茶は最高に美味い! 乱蔵さんのお菓子も美味しいし……でもいいのかなぁ……俺がこんなに良い思いばっかりして」
ほむらは幸せそうにお茶を飲んだ。
「えへへ……。ありがとう、紫の人。紫の人って優しいよな、本当」
「ッ……そ、そうか」
僕は慌てて視線を逸らした。
緩んだ笑みを向けられると、堪らなく幸せな心地になる。
その一方で罪悪感も感じていた。僕のせいで彼女は迷惑を被っているのに、こうして意図せず二人きりの時間ができたことを、僕は正直喜んでもいる。
「紫の人も甘い物好き? これ美味しいよ、食べる?」
「いや、僕はお茶だけでいい。それよりその……紫の人と言うの、どうにかならないのか」
「あ、ご、ごめん!! えっと……」
「ジー…………」
ふと、別の名前が浮かんだ。
「…………シオン」
「え?」
「シオン。それならどうだ? 覚えやすいか?」
ほむらはぱちぱち瞬いた後、元気よく頷く。
「うん!! 紫苑か~。紫苑なら俺も知ってる! 綺麗な花だよな!」
「あ、ああ、そうだな……」
「紫色で可愛くてさ。俺もすげえ好き!」
「そ、そうか……すげえ好きか」
花のことだとわかってはいるがすごく嬉しい。にやける。耳が熱い。
僕はお茶を飲んで誤魔化した。
良い気分だ、と思っていたら……
「この前義勝が墓に手向けてた」
茶を吹き出しそうになった。
こんな時まで義勝の名前を出さないでくれないか。
「…………墓」
「そう、あいつ母親を亡くしててさ。よく墓参りに行ってたな。俺もついていってさ。義勝のお母さん、ちょっと話したことがあったから。すげえ綺麗な人だったんだ」
ほむらはお菓子を頬張りながら、懐かしそうに目を細めた。
「良い人だったんだ。俺にも優しかったし。だからもっと長生きしてほしかった。もっともっと話したいことたくさんあったのに」
「…………そうか」
「義勝が教えてくれたんだ。紫苑のお話」
「? お話?」
「うん、面白いお話があるんだよ。何て話だったかな。えーっと、えっと……」
ほむらはう~んと頭を捻った。
「確か、こん、こん……こんにゃく物語? だっけ?」




