表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
403/660

385 【シリウス】 継承する




 熊か、狼か。何かに変身しようと思ったけど、うまく考えがまとまらない。

 俺はシドの体を強く抱き締めて、覆った。あの煉瓦片がこの子にだけは当たらないように。

 ぎゅっと目を瞑り、すぐに襲い来るであろう痛みを待つ。



 ガン、と耳を塞ぎたくなるような大きな音が聞こえた。



「…………?」



 でも、来ない。何も落ちてこない。

 おかしい、と思って恐る恐る顔を上げたけど、煉瓦片は頭上のどこにも見当たらなかった。



「シリウス!」

「! アランさん!」



 両手に子どもと背中に女性を乗せたアランさんが、ベランダから飛び出した。軽やかに地面に降りたって、子どもと女性たちを降ろす。



「アランさん、さっき煉瓦が……あれって……」

「怪我はねえか?」

「う、うん……」

「糸を吹きつけてまとめてぶっ飛ばしたんだよ。ほら、あそこ」



 顎で示された方を見ると、大きな煉瓦片がまとめて地面に転がっている。


 ……助けてくれたんだ。

 俺はほ~っと胸を撫で下ろした。

 腕の力を緩めてシドの顔を見ると、不思議そうに目をぱちくりさせていた。



「アランさんが助けてくれたから、もう大丈夫だよ」

「…………あらん」


 シドがアランさんの方へ視線を向ける。

 気まずそうにすぐに逸らした。


「? どうした?」

「……一度やり合ったことがあるからな。気にしてんだろ」


 一度やりあった……?

 ああ、もしかしてイグニス邸火災事件の時の……?


 確か、アランさんはイグニス邸を警備していた時、シドを見つけて戦うことになったんだっけ? 子どもなのにすごく強かったって……。


 アランさんはシドに目線を合わせるように腰を下ろした。


「おい、金髪」

「…………」

「怪我はねえか」

「!」


 シドは驚いて目を見開いた。

 アランさんはしばらくシドの様子を見た後、「……ねえみてえだな」と呟いて立ち上がった。



「他にも残ってる奴がいる。火は消えたとは言え建物の方は脆くなってるし煙もそのままだからな。俺は一旦救助に向か――――」

「おい! 大丈夫か!?」

「……チッ、遅えよ」


 王子様と皇子様が、二人揃って走ってきた。

 金髪の……ノア様だっけ? 二面性の激しい人。

 雰囲気的に、多分まともな方のノア様になったみたいだった。どうにかしてお酒を飲ませたのかな? 確か酒で人格が変わるとかだったような気がする。



「大丈夫か!? 急に火の手が上がったと思ったら消えて……。怪我はないか!?」

「問題ねえ。つーかお前らこそ……おい、そっちの皇子サマはどうなんだ。急に銃ぶっ放したりしねえだろうな」

「あ、その度はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」


 頭を下げたノア様を見て、アランさんは気味悪そうに後ずさった。


「一体今度は何企んでやがる……?」

「乱蔵、疑いたくなる気持ちはよくわかるが、今のこの人は一応安全だ。説明は面倒だから後にする。それで……シド、大丈夫か? たまに力が暴走すると聞いた。怪我はないか?」

「…………」


 シドはまた奇妙なものでも目の当たりにしたかのように、驚いて王子様を見つめていた。

 それからぎゅっと俺の服を掴む。

 俯いて、小さく頷いた。



「怪我がないのならよかった。だが……よくすぐに力を抑えられたな。兄さ……皇子の話によると、一度暴発したから君自身にもなかなか抑えられないんだろう?」

「………………変」

「変?」


 シドは俺の服を掴んだまま、俺に顔を向けた。


「……この人、変」

「え、俺?」

「この人が変で……それで、こうなった」


 まだ変身もしてないのに変って言われた。いや、て言うか、シドの口ぶりだと、俺が何かしてシドの力が収まったみたいだ。

 俺は小首を傾げた。

 俺はただシドに近づいて話しかけて……抱き締めた。ただそれだけだ。

 その時には火も相当弱まって、すぐに落ち着いた。俺は特別何かした訳じゃない。


 皆の視線が俺に集中してるけど、悪いけど俺だって何が起きたかわかってない。


「いや、俺は何も…………」

「あんたの……青い目」


 シドは俺の右目を見つめていた。


 青い目。アグニに潰されて、あいつが治してくれた、俺の新しい目だ。

 本来は元の金色に戻るはずだったのに、なぜか俺の目だけはあいつと同じ、青い目だった。

 それをあいつは……ルークは、もの凄く申し訳なさそうにしていた。

 でも俺は、本当はすごく嬉しかったんだ。




 まるで、“特別”みたいで。

 あいつからの、贈り物みたいで。




「これが、どうかしたか……?」

「その目を見てると……どうしてか……落ち着く。変な感じ。力を……一緒に抑えていく感じ。操ってる感じ。……わからない。でも……わからないけど…………落ち着く」

「それは、どういう…………」

「わからないから……俺も、戸惑ってる」

「…………その青い目は、ルークが治したんだったよね?」


 ノア様に聞かれて、俺は小さく頷いた。ノア様は「もしかしたら……」と、隣の王子様を気遣うような視線を向けて、口を開く。




「ルークの力の一部が、彼に移ったって言うのは考えられないかな?」

「え?」

「は?」

「何?」


 俺もアランさんも王子様も目を丸くした。

 力が移る? 視力が移るってのはあったけど、力が移るなんてそんなの聞いたことがない。

 大体、視力が移ったのはそういう魔術を使ったからで……治癒してその力が移ってしまうんじゃ、あいつの力はとにかくいろんな人にばらまかれるってことにならないか? いつかなくなっちゃうぞ。



「ルークの力は治癒と無効化だ。僅かでも彼に移ったのかもしれない。もちろん、ルーク自身がそれで力を失ったってことはないと思うけど。あくまで一部が移ったか、それとも与えられたのか」

「い、いやいや! でもそんなこと……」

「シオ……ジーク、手を擦り剥いてたよね? シリウス、見てあげてくれないかな?」

「いやそんなこと言われても……」



 王子様の手は赤く血が滲んでいた。

 それを見せられたところで、俺にできることなんて何もない。

 困惑してアランさんを見上げて、ノア様を見て王子様を見て……それからシドを見て、取りあえずよくわからないから王子様の手を握った。



「な、治れ~? 治れ治れ~……? なお、れ……――――」



 何も起きる訳ない。そう思いながら「治れ」と取りあえずぶつぶつ呟いていると……




 突然、青白い光がふわりと浮かんだ。




「ッ!?」



 なんだこりゃ、とアランさんの驚いた声が、遠くに聞こえる。

 正直、一番驚いたのは俺だった。

 青白い光が、王子様の手を包んで、そして消える。


 手を離して王子様の手を見ると……傷口が、ほとんど塞がっていた。

 完全に、じゃない。でもさっき見た時より明らかに治っている。

 ノア様が「やっぱり」と微笑んだ。



「どうしてかわからないけど、ルークの力の一部が君に移ったんだね。それがシドにも作用した」

「いや、でも、そんな、なんで……」

「わからない。でも、この世界は説明のつかないことばかりだろう?」

「で、でもそれじゃ、あいつが治癒した人は皆こんな――――」

「ルークが治癒した人なら誰でもこうなるってことはないと思うよ? 現に、他の人に君のような身体的特徴……目の色が変わるとか、そういうのは起きてないでしょう? ……もしかしたら君は、何かルークに通ずる物があるのかもしれないな。性格、とか? 性質とか? わからないけど」

「いやいやいやいや――――」

「もしルークの力が、他の聖騎士と同じように最初から受け継がれる類いのものだったら、君が受け継いでいたのかもしれない。……これも、わからないけれど」



 何が何だかわからない。

 俺は自分の手を見つめた。もう一度光を出そうとしてみたけれど、どんなに頑張ってもさっきみたいには出てくれなかった。俺が、聖騎士の力の一部を貰った……? そんなばかなって、やっぱり信じられない。だって聞いたこともない。

 でも、確かに王子様の手の傷は治ってしまった。それは紛れもない事実だった。




「シリウス。…………光り輝く者、か」

「え?」


 王子様は視線を逸らした。


「いや……確かそんな意味もあったなと思っただけだ。天の狼とか、焼き焦がす者、とか……。ルークは、光……光を導く者、だったか」




 その時、ふと、姉貴の言葉が蘇った。




『あの星の一つは、シリウスって言うのよ。何か意味があったと思うの。確か……光り輝く者、だったような……。ねえ、シリウスってとても素敵な名前だと思わない?』




 俺に、シリウスって名前をくれたのは姉貴だった。

 そんな共通点があったなんて、今の今まで気づかなかった。



 ……顔が熱い。

 訳わかんないし、ほんとにあいつの力の一部が俺に移ったのかって、全然信じられないけど……







 すごく、嬉しかった。







「おい」



 王子様の声に、思わず肩が上がる。

 恐る恐る見上げると、王子様はすごい怖い顔で俺を睨んでいた。



「本当にお前がルークの力の一部を継承したかはまだわからないんだからな? それに、お前とルークの名前に共通点があったとて、こんな共通点探せば誰だってあるものだからな? 決していい気になるなよ? それこそシドは金髪だしレインだって碧眼だ。ルカという名前だって光をもたらす者とか多分そういう意味が……そうだ、あいつなんてルークの名前とほぼ同じみたいなものだからお前より深い結びつきがあるようなものだぞ。わかっているのか!」

「……すげえな、お嬢と欠片も共通点のないお前が何でそんな偉そうに語ってんだ?」

「ぐッ……」


 痛いところを突かれたのか、王子様は膝から崩れ落ちてしまった。

 ダ、ダメージ、受けすぎじゃないか……?



「まあいい。力があるっつっても不安定なんだろ? あまりムリはするな。俺は救助に向かうからちょっと待ってろ。いいか、絶対にお前らだけで皇帝を追いかけん――――」

「そうだ!! 皇帝!!」


 ノア様が顔を強ばらせ、王子様の腕を取る。


「早く追いかけよう!! 早くあいつを止めないと!!」

「ひ、引っ張るな! そもそも誰のせいで足止めを食らったと……」

「おい、お前らだけで追いかけるのはやめろって――――」

「皇帝は僕の部屋からある薬を盗んだんだ! それを持って西支部に向かってる!!」



 西支部……そこって……

 あいつがいる場所だ。



「薬って……何の……」

「前世回帰薬の…………失敗作。正直、何が起きるかわからない。よりにもよって失敗作だから…………最悪、体が耐えられなくて爆発するか、記憶がぐちゃぐちゃになって廃人になるかもしれない!!!」



 本当に何でそんなもの作りやがったんだこの野郎。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ