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ブラックリスト  作者:
17/23

星奈の才能

相談窓口の面々の裏の顔や、現在の状況を教えて貰ってから数日後、自分達の休日を利用して、星奈と北条はとある廃ビルに来ていた。


星奈に相談窓口の裏の顔がばれてしまった事で計画に支障をきたさないために、影矢と打ち合わせを行いに来たのだ。


どうやら、羽柴にはブラックリストの監視の目を掻い潜り、故意に抜け道を作り出す技術力があるらしい。

このビルも羽柴によって徹底的に調べられ、安全の確保をしているそうだ。


こんな事が出来るなら、星奈に調べさせた抜け道調査は何の意味があったのか、北条曰く、「他勢力の現状把握」という事だった。

柴田達レジスタンスの様な存在は他にも点在しているとのことで、監視の抜け道を調べておく事で何をしようとしているのかを調べていたらしい。

北条でも、その程度の情報だけで現状把握など出来るはずもなく、司令塔となっているのは16歳の影矢だと言うから驚きだ。

星奈もその片鱗は感じていたが、まさかそこまで凄い人物だとは思わなかった。


危険な思想の持ち主だと皆に知られていながらも、集落の長として、革命を行う者達のトップで居られるのはそれだけ優れた能力があるということだ。


星奈は影矢に対する評価を改め直し密談に臨んだ。


廃ビルの一室には予定していた通り影矢、羽柴が待ち構えていた。

ビルの壁や天井は所々が腐敗しており、至る所が崩れている。窓ガラスが何枚も割れ、とても人が住める環境ではないが、彼らはここに滞在している。

彼らはこの様な環境でも何とも思わないのだろう。最果てとは違い眩いまでの太陽の光もあるし、隙間風程度の寒さなど彼らからしたら無意味なのだ。


星奈からみても、最果てで暮らすよりもここで暮らした方が快適に過ごせるように思えた。


影矢は二人の顔を確認し、人目に付かないように深く被っていたフードを脱ぎ、その綺麗な髪を星奈達に晒した。

その動作だけでも行う人間が影矢になると、とても美しく見える。彼の周りだけ時間がゆっくり流れているような錯覚さえ起こしそうだった。


目を奪われていた星奈は気を紛らわせようと視線を変え、彼の横に立っていた羽柴に話を振った。


「羽柴さん!本当に最果て行きじゃなかったんですね。教えてくれないなんて酷いじゃないですか!」


「あはは。すんません。これでもあたしも協力者の端くれなんでね」


羽柴は頬をかいて頭をぺこぺこと下げた。


「それより星奈さん、以前電話した時急に切れたから驚きでしたよ。また何かあったのかな? ってね。まぁ今回は北条さんに確認してもらって警戒に当たって貰ってたんで何とかなったみたいですが、気をつけてくださいよ?影矢さんが心配してあたふたするのを見るのはあたしとしては楽しいんですがね」


「それは言わない約束ですよ!誰だって心配するでしょう!」


「相手があたしなら非情に振る舞えたと思いますがね?まぁその話はいいでしょう」


羽柴は笑って誤魔化した。二人の会話も一区切りついた時、影矢は咳払いをしてから本題に移った。


「まずはわざわざ足を運んで頂いてありがとうございます。今後の予定を決める前に確認させてください。石橋星奈さん、あなたはどこまで協力してくれますか?」


「……どこまでというと?」


「そのままの意味ですが?があなたにしてもらいたい事は今まで通りの情報収集に加え、他の課の方々への誑かしをお願いしたいのです」


人を殺せとでも言われるかと思っていた星奈は一先ず安堵した。そして、具体的な話に切り替えた。


「情報収集は何となく分かるんだけど、誑かしって何をすれば良いの?」


「簡単に言えば、BLC内部を混乱させて貰いたい。例えば報道関係の方に嘘の情報を流し、警察や映像管理を行う者達の目をそちらに集め、その間に僕らと相談窓口の方々が中心地に進入する、というのが今回の作戦です。出来そうですか?」


「ーー私の役目ってかなり大事な所だったりする?」


「はい。あなたに協力して貰えなかった場合、計画を一から立て直す事になります。ですが、あなたが協力してくれるのなら、可能だと考えていますよ」


星奈は影矢から向けられる期待の目が素直に嬉しかった。今まで色んな人に馬鹿だ何だと言われていた自分が、ここまで大きな責任を担う事が出来るのだ、と。


星奈は人に期待されるのが初めてなのだ。そのせいか、顔を紅らめて影矢から目を背けてしまった。


影矢はその動作を拒絶と捉えたのか視線を落とし、頭を抱えた。

星奈もそれに気がつき、慌てて訂正した。


「あ、違うよ!私やるよ!お姉さんに任せなさーい」


「ーーそう言って貰えると助かります。では具体的な話に移りましょうか。まずーー」


星奈が協力を決意した事で、影矢の表情は見るからに明るいものへと変わっていた。星奈はそれが嬉しかった。好きな人が出来たらこんな感覚なのかと思えた。

その時、星奈の脳裏には一人の少年の言葉が流れた。


それは津雲が話していた言葉。「何もしなくてもチャンスは来る」と彼は言っていた。それは影矢の話には無かった情報だ。

星奈は友達として津雲を裏切るような事はしたくない。だが、その事は影矢に伝えておくべきだろうと考え、皆に伝えた。


「ーーなるほど。その津雲という少年が何を考えているのか分かりませんが、おそらくは他の派閥の人間なのでしょう。我々を混乱させ、抑止するというのが一番分かりやすい所ですが、他にも何かあるのかもしれませんね……それに、その人は中心地の人間ですよね?信用出来ないと俺は考えますが、どうでしょう?」


その場にいた全員でお互いの考えを出し合った。


「あたしは信用出来ないに1票ですね。胡散臭い情報に惑わされるべきじゃない」


「俺もその意見に賛成だな。廊下ですれ違う事も多いが、あの子が俺たちの事に気付いているとは考えにくい。星奈を通して撹乱させようとしたっていうのが正しいんじゃないか?」


「私はーー嘘を付いているようには思いませんでしたけど……どうなんでしょう?」


影矢は三人の意見を参考にし、思考を巡らせた。彼の頭の中でどのような事が浮かんでいるのか知る由も無かったが、星奈は彼の真剣な眼差しに見惚れた。


「ーー分かりました。当日は北条さん達と俺たちの部隊で分けてから行動しましょう。その津雲という少年が何を考えているのか分かりませんが、警戒するに越した事はない。他に話していない事はありませんか?」


星奈は暫く考えた後、首を振った。


行動を起こす日時を詳しく決め、北条とも別れた星奈はどのように行動を始めていこうか考えた。


影矢の作戦の中で星奈がしなければならない事は二つ。

一つは報道課に嘘の情報を流し監視の目を遠ざける事。


もう一つは機械整備課、または映像管理課に協力させ、全員が進入する迄の抜け穴を作る事。


報道課の方は雪菜との関係を使えば何とかなるだろう。だが、二つ目は非常に難しい。

映像管理課の人々に仲の良い人間はいない。それどころか話す機会すら無いのだ。映像管理課の規約により、休憩時間も職場から出てこないし、朝の時間に休憩所を利用する者もいない。

星奈の勧めたキャンペーンの中にも一切関わっていないため、接触を図るだけでも骨が折れる。

残る方法の機械整備課だが、此方は星奈がやろうとすれば簡単に懐柔できるだろう。


それどころか柴田の協力さえあれば、簡単に中心地へ入る事ができるのだ。

だが、星奈はそれをしたく無い。つい最近、あんな事をしてきた柴田と話したく無い。本来であればブラックリスト登録をしてしまいたいほどだ。


星奈は、またしても一晩中葛藤する事となった。

寝ずに考えた作戦はこうだ。

報道課の雪菜を通し、ニューレストが不正をしているという嘘の情報を流してもらう。

心苦しい事ではあるが、報道課もいつも完璧な情報を流しているわけでは無いので問題は無いだろう。


そしてもう一つの依頼。BLCの休憩所に柴田を呼び出し、協力をしているフリをして中心地への抜け道を作らせる。

柴田に関わるのは全くもって不本意ではあるが、自分の役目を果たす事の方に天秤が傾いた。


そうと決まれば話は早い。

星奈は雪菜に連絡を取り、仕事終わりに食事に行く約束を取り付けた。

優先度合いで考えたら柴田と接触してから雪菜と話した方が良いのだろう。だが星奈の胸にある柴田に対する嫌悪感がそれを許さなかった。


ーー


夜のBLCはとても暗い。相談窓口や層民課のように、外部の人達が入れるような場所は節電の為に電灯を消し、職員が仕事をするスペースに僅かばかりの光が灯っているだけだ。


数分前まで北条が仕事をしていたのだが、先程星奈に「頑張れ」と喝を入れ帰宅した。現在相談窓口の仕事場には誰もいないため、星奈は電灯を消して休憩室に篭っている。


少し寂しい気持ちになりながらも雪菜を待った。報道課の職員は夜遅くまで残り、朝早くから仕事をしていたのは知っていたが、こんなに遅くまで残って仕事をしているとは知らなかった。


やがて雪菜から連絡が入り、BLCの正面入り口で待ち合わせをした。


「ごめん星奈ちゃん!今日も遅くまでかかっちゃって。待ってたよね?」


雪菜は小さな手を合わせ、謝罪をしてきた。その仕草がとても愛らしく、怒る気にはならなかった。


「全然いいですよ〜。それより毎日この時間まで仕事とかキツくないですか?」


「私達は楽しんでやってるからね。星奈ちゃんも報道課に来る?」


会うたびに何回も行っているやり取りだ。星奈はこの質問をされる度、高速で頭を振って否定している。毎度その仕草を見たいがために、もしかしたら彼女におちょくられているだけなのかもしれない。

だが、ここ数日の間でこの様な日常会話をした覚えがなかった星奈は、このような些細なやり取りも嬉しく思えた。


無事雪菜と合流した二人は近場のラーメン屋さんに寄り、食事を始めた。この店は雪菜がよく行く店という事で、店の大将に「いつもの二つ!」と勢いよく告げて店の主人もそれに応じた。


料理を待っている間、星奈は本題を切り出さず雪菜との会話を楽しんだ。その会話があまりに普通過ぎて、雪菜を利用しようとしている事に罪悪感が芽生える。だが星奈の決意を崩すには至らなかった。


雪菜の頼んだ<いつもの二つ>はごくごく普通のラーメン、に見える激辛ラーメンだ。香りも普通の豚骨ラーメンと変わらなかったので、星奈は躊躇なく啜った。すると、口の中に唐辛子を捻じ込まれた様な感覚に襲われ、慌てて水を飲み干し辛さの調和を図った。


その食べ物を雪菜は嬉々として食べ続けている事から、大将が間違えて出した訳では無いのだと分かった。


「ーー雪菜先輩って辛党だったんですね。私は辛過ぎてーー」


「星奈ちゃん、私に頼み事があるんでしょう? これ位付き合って貰わないと割に合わないなー」


雪菜は子猫の様な仕草でおねだりをしてきた。いや、星奈からすれば、この時の雪菜は小悪魔以外の何者でもない。だが、実際雪菜に頼み事を聞いて貰いたい星奈は彼女のおねだりを断る事が出来なかった。


身体中から汗が吹き出し、味覚がだんだんおかしくなる。瞳から涙が溢れ出してきた頃、不思議な事に一周回って激辛ラーメンが美味しく感じてきた。


雪菜もその様子に満足したのか、自分から話題を振ってきた。


「それで、私からのプレゼントも受け取って貰ったみたいだし、そろそろ頼み事を聞いてあげるよ」


「ーーその前に一つ聞いてもいいですか?」


星奈は激辛ラーメンにやられた喉を酷使しながらも、どうしても疑問に感じた事を尋ねてみた。


「一つと言わずいくらでも」


「雪菜先輩の食べてるそれも激辛ラーメン何ですか?」


「違うよ?」


笑顔でそう言ってのける雪菜に星奈は騙された。仕事となれば大真面目に働く彼女だが、プライベートの時はこの様なイタズラが大好物だ。店の奥で大将が心配そうに見ていたのは残すのを懸念してでは無かった。辛くしすぎた自らのラーメンで星奈が倒れないように見守ってくれていたのだ。


「雪菜先輩……絶対頼み事を何が何でも聞いてもらいますからね!」


「いいよ。中心地へ向けた偽情報でしょ?」


星奈は口に含んだ水を盛大に吹き出した。どうやって切り出そうか迷っていたが、そんな事御構い無しに彼女からストレートを投げられた。

それだけで済む話ではない。影矢の作戦が彼女にはバレているかもしれないのだと考え、星奈は動揺を隠せずにいた。


「あのね、私達報道課6中立の立場にあるけど一つの組織なのよ。あなた達とは違って内部から変えようとしている、ね」


「え?な?」


星奈は大将に聞かれている事を気にしてあたふたと忙しなく動き回った。


「だーかーらー。やったげるって言ってるの! あなた達の派閥は個人的に好きだし、星奈ちゃんが激辛ラーメン食べてくれたしさ!あ!ここも抜け穴だから大丈夫よ。大将も仲間だしね」


雪菜が大将に手を振ると、大将も渾身のドヤ顔を作り、親指を立ててそれに答えた。

星奈は頭の中をクルクルと回転させ、何とか理解しようと試みた。味覚が麻痺しているお陰か、いつもよりも冷静に考える事が出来た。

とりあえず自分の目的は達成できたのだ、と。


「何で黙ってたんですか〜!ていうか激辛ラーメンを食べさせる必要あったんですか!?」


「ごめんね。まぁ過ぎた事は仕方ない!詳しく聞かせてよ」


その後、色々と面倒になってきた星奈は、影矢から頼まれた依頼をそのまま雪菜に伝え、雪菜もそれに応じた。


話し合いの最中、大将から口直しに貰った飴玉を口の中で転がしながら二人はラーメン屋を後にした。


「星奈ちゃん、私達のことを分かって貰った上でまた聞くけど、報道課に来ない?」


合流した時と同じ質問だが、報道課がどんな所なのか分かってしまった後で言われるのはまた違う質問だ。

雪菜もいつもより真剣な眼差しで星奈を見ていた。この提案は本心から来ているのだろう。

それでも星奈は曲がらない。雪菜の提案を真摯に受け止めた上で断った。


「ごめんなさい。私は影矢くん達を、皆を裏切れません」


「……そっか」


顔を背けた雪菜の表情を覗いてみると、寂しそうな横顔を浮かべていた。


「星奈ちゃん、もしかして好きな子でも出来た?」


しみったれた空気を壊し、雪菜から不意を突かれた。


「違いますよ!全然そんなんじゃないです!影矢くんの事なんて何とも思ってないですからね!?」


「分かった分かった。いやー良かったよ。いい人が見つかったんだね」


星奈は顔を真っ赤にして否定したが、もはや通じ無かった。


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