２００文字小説集

薄紅の理由

2010/04/06執筆

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　桜の下には死体があると言う。その血を吸って薄紅の花を咲かせるのだとも。

　そうではないと知ったのは、両手の指で足りるほどの年の頃。

　血の涙を流しながら、人形に杭を打つ母。

「お前さえいなければ」

　と呪いの言葉を吐くひとりの女。それは真っ白なオオシマザクラの樹だったはずなのに。その花びらは、狂ったように夜空を薄紅に染めていた。

　桜が薄紅に見えたのは、私もまた、女の情念の恐ろしさに瞳を薄紅に染めていたからだった。