美女と魔獣6
樹木が根こそぎ倒れた荒れた森の大地に大穴が開き、熱気を伴う黒煙が上がっている。
「テメエみてえな腐れ雑魚は従魔にする価値すらねえなあ」
オレは大戦魔斧『燃え尽きぬ怒轟の煉獄』をひょいっと持ち上げビュビュビュンッと豪快に振り回し肩に担ぐ。
「……なんて禍々しく凄まじい力なんだ……本当に君は、何者なんだい……?」
カールス王子が冷や汗をかいてこっちに険しい表情を向ける。
「オレはただのしがない一介の冒険者さ。ちょっとばかしワケありだがな」
「……ふう。君といい聖女といい規格外の女性ばかりで俺たち男の立場が危ういよ。なあ、マクス?」
「……ええ。本当に」
王子の背後で控えるように立つ騎士マクスウェアがオレを値踏みするような視線で見てくる。
「しかし、この『昏どこの森』でマンティコアなんて高ランクの魔獣が出たのは初めてなんだが……ゼレス嬢、さっき君はマンティコアが自分を狙って襲ってきたと言っていたがどういうことか教えてくれないか?」
「ああ、構わない。あの魔獣はオレを始末するためにわざわざこの森で待ち伏せしていたんだ。そういう風に命令されてな」
「命令?あの魔獣は従魔だったのか?だとしたら飼い主であるマスターがいるということか……そいつがキミを狙って……」
王子が眉を上げ神妙な顔つきになる。イケメンはどんな表情をしてもイケメンだな。爆ぜろ、そしてハゲろ。あとモゲろ。
「大方オレが聖女と連んでるとも思ったんじゃね?あの聖女、敵が多そうだしな。やらかしてんだろ?王子さん」
「……痛いとこを突くね。聖女アウライディスは徹底して国の執政を取り締まっていてね。犯罪や汚職などは軒並み検挙してるんだよ。市民はもちろん貴族や王族に至るまでね。分かるだろ?」
カールス王子は苦笑いする。
「成る程。オレはとばっちり食らったわけかな。まあ詳しいことはオレを襲うように従魔に指示した本人に聞けばいいんだしなあ」
オレは凶悪に嗤うとカールス王子の背後に控える従者を睨み見据える。
「!? な、まさか!?」
オレの視線の先に気付いて驚愕する王子。
「…………」
従騎士マクスウェアは感情を廃した能面のような表情でオレを見る。
「……ゼレス嬢、まさかマクスが……?」
カールス王子が信じられないというふうに後退り距離を取る。冗談を言ってる雰囲気では到底無い。
重苦しい沈黙が時を僅かに支配する。
「ふん……聖女を近いうちに始末しようと手懐けていた最中のマンティコアがこうもあっさり斃されるとは……異邦人はどいつも化け物だな」
沈黙を破ったのは従騎士であり聖騎士であるマクスウェアだった。
従魔を失ったのに全く気にしていない余裕ある態度でやれやれとかぶりを振る。
「マクス……お前、正気なのかっ!」
王子が食い気味で近寄ろうすると、スッと手をかざす。
「穿ち貫き悉く死滅せよ、冥雷の魔爪。ダズルヘルネイド」
マクスのかざされた掌から黒い雷の閃光が迸る。
「!?」
瞬きすら追いつかぬ一瞬の間に暗黒の稲妻が幾重にも空間を切り裂き王子に迫る。
――――刹那。
「……いきなり闇雷最強魔法ぶっ放すとは、本気で殺るつもりだったな」
王子の眼前に巨大な戦斧が塞ぎ立ち、放たれる禍々しい闇の雷を受け止める。
空気を裂き高響音を上げ唸る漆黒の雷鳴を戦斧がバチバチと弾き返し霧散させていく。
オレはヤツが詠唱を唱え終わる寸前に素早く王子の前に戦斧を突き立て魔法を防いだ。
今の暗黒魔法は並みの魔法防御など意味を成さずに貫通する強力な呪文だった。
雷撃を発し続けるマクスウェアの表情が少しだけ意外性に驚いたように変わる。
「ほう。助けるのか、魔女。意外だな、てっきり見殺しにすると思ったのだがな」
「あん?なんだ、てめえ……オレが何をしようと勝手だろうが」
オレはヤツの余裕ある物言いにイラッとする。
「盗賊や騎士くずれはゴミクズのように蹴散らしたのでな、人間など眼中に無いと、な?」
マクスウェアが冷酷な見下すような眼差しで、まるで今まで見てきたかのように話す。
コイツ……視ていたのか。
「てめえ……何もんだ?」
オレは直感的に感じ取る。コイツは気に入らない。オレが大嫌いなタイプのヤツだ。
それにコイツはオレや聖女を異邦人と言っていた。
何か知っていやがるぜ。




