悪魔とワルツ
鬱蒼とした森の中、大規模魔法で破壊され拓けた木々が口枯れた場所。
カールス・フォン・アルケオン第2王子の従者であり聖騎士近衛兵であるマクスウェア・ファミリアの左手から闇の雷が暴れる爪となり伸び上がる。
その雷を避雷針のようにして巨大な戦斧で受け止めているのは妖艶な長身のモデルのような白銀の美女。
「……ふむ。我が闇の魔術を防ぐその斧、なるほど……7つの楔はやはりお前が持っていたか、魔女よ」
黒雷を放ちながらマクスはゼレスデウナを見やる。
「……てめえ、どんだけ知ってんだ?この『世界』のことオレら『異邦者』のこと……」
オレはビュビュビュンッと巨大戦斧を高速回転させ纏わりつく雷を搔き消し、目の前の男にジャキンッと突き付け問う。
「お前が知っていること全部洗いざらい教えてもらうぜ」
「ま、待ってくれ!マクスウェアと話をさせてくれ!アイツは私の幼少からの幼馴染なんだっ!何か、何か理由があるはずだ!!」
王子さんが慌ててオレに詰め寄る。
「無駄だよ、王子さん。あの聖騎士の兄さん完全に取り憑かれてるんだよ、上位悪魔にな」
「なっ!? 何だってっ!?」
そう、オレはすでに聖騎士と最初に会った時から憑依状態だったことを知っていたが教えなかった。奴が上位悪魔で人間の体に上手く正体を隠して乗り移っていたのを。
「ほほう、我の存在に気付いていたのか。聖女の結界にも上手く入り込んでいたのだがな……やはり貴様も危険な存在だと改めたぞ」
聖騎士、いや、聖騎士の身体を操る悪魔が感心したように笑う。
「まあ、我も木っ端貴族に召喚された身の上なのでな。本来の力は半分も出せないので貴様とまともにやり合うつもりはないのだが……」
「逃すと思うか?」
オレは余裕綽々な態度の悪魔に油断なく戦斧を突き付けたまま睨む。
『ご主人様、この濃い闇の気配、妾は知っております』
オレの影中でアルモディアが囁く。
「なに?知ってやるやつか、アルモディア」
『はい。随分と昔ですが何度か戦ったことが。ご主人様ここは私にお任せを』
ふーむ。どうやら悪魔同士の知り合いか、何かしら因縁でもあるのか。まあ、ここは同じ悪魔に場を任せてみるのも面白いかもしれない。
「いいぞ。やってみろ。ただし逃すなよ?コイツにはいろいろ喋ってもらいたいからな」
『ありがとうございます、ご主人様。では不肖ながらこのアルモディア、ご期待に添えて見せましょう』
オレの影がたわみ、黒い水面が波立って闇の中から紅の幼い乙女がゆるりと現れた。
白磁器の肌に真っ赤な鮮血の豪奢なドレスを纏う姿は美しいアンティークな仕立人形のようであり、まるでこの場には場違いな雰囲気を帯びている。
いきなりオレの影から現れた赤いドレスの少女にギョッとするカールス王子。
かたや一方聖騎士に憑依した悪魔はピクリと眉毛を上げて訝しげに見やる。
「貴女は……マンティコアに一撃を与えたときに、見知った魔力にもしやと思いましたが……これはこれはとても懐かしいお方にお逢いしましたね、吸血戦姫様」
「ふふふ、そうであるな、実に懐かしいな。かれこれ千年以上は経つのか。あの時よりも随分と魔を蓄えておるようだ。妾に挑んだ名無しの悪魔が、かのように立派になりおってからにして……お主、今は名前はあるのか?」
アルモディアが真紅の瞳を細め、懐かしそうに語る。
「……ええ。あの頃は力に渇望してなりふり構わず、己の名すら無いしがない矮小な悪魔でしたが……」
聖騎士に憑いた悪魔は恭しくも丁寧に頭を下げて紳士的に礼を取る。
「我の名は"禍いの尾マラコーダ" そして、災いなる邪悪の爪『マレブランケ』を統率するしがない悪魔の目付役兼監督役を務めさせていただいております。以後、お見知りおきを、皆さま」
慇懃に下げた顔を上げて、ニヤリと太々しく悪魔マラコーダは嗤った。




