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凡人以下の俺に異世界でチートスキルがあったら奇跡だと思います。  作者: 羽矢隼
第3章 俺は異世界で役目を果たす。
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 魔王戦1

 更新しました。

  1

 剣戟が舞う。

 2つの剣は交錯し、金属音を掻き鳴らす。

 8本しかない蝋燭(ろうそく)が暗闇に包まれるはずの部屋を照らしている。


 剣を交錯させ、その度にスパークが散る。

 蝋燭によって生まれた2つの影は、互いを牽制し、剣を向ける。


 二人だけの空間だが、決して微笑ましいものではない。

 一方は、鎧さえ着けておらず、その服は所々斬られており、その周りは赤く染まっている。

 一方は、漆黒の鎧を身に付け、傷痕一つない。その者の瞳は紅く、血を求めているようだ。


 2つの影による、2つの剣のぶつかり合いがまた起こる。


  2

 重々しく、その存在を誇示するかのように漆黒の扉。

 その扉を開けた先には魔王がいた。


 魔王。

 俺が探していた、倒さねばならない相手。

 その姿は俺の想像を裏切って、人間のような姿だった。

 漆黒の鎧と紅いマント。

 しかし、その顔は、頭部は、人間とは違う。

 人間には有り得るはずのない、二本の角。

 そして、あの、紅い瞳。

 感じる……人間にはない、黒く染まり、淀んだオーラを。


「口を開きさえしないのか……まぁよい。我が名はジールヴィス。魔王と呼ばれている」

「田中憐斗。貴様を一度倒したであろう男の息子だ。覚えてなければ英雄の剣の所持者とでも覚えておけ」

「田中光國だろう? 覚えているとも。あのときは油断したものだ。まぁ奴は我を封印という甘い方法で倒した。それが今になって災いしているわけだ」


 この世界で親父とコイツは戦っているようだ。

 真偽の怪しい伝説だったが、これで真相はわかった。

 親父はコイツを殺すという方法ではなく、封印という方法でことを治めようとしていたようだ。

 それが甘かった。そのツケを俺が払わされることにもなった。


「あれは楽しかった。白熱した戦いほど面白いものはない。命は一つしかない。それを賭けて剣を交錯させる。そんな戦いをしたい。レント、と言ったかな? キミはそんな戦いをさせてくれるのかい?」

「どうかな……じゃあ、始めよう」

「ウォーミングアップをしなくては。ブランクがあるのでね」

「手加減しないぜ?」


 腰に提げている真・覇王剣リザリアークを鞘から出し、抜刀。

 ジールヴィスも刃まで漆黒に染まった剣を抜く。

 カチリ、と音がする。

 そして、一瞬の沈黙。

 そして……地面を蹴った。


  3

 どれほど時間が経っただろうか。

 剣を重ね、その度に鳴る音。これが続いていた。


 閉じている扉。

 多分、外からは開けられない。

 ということは、助けはこない。


 お互いが距離を取ったところで、ジールヴィスは口を開く。


「そろそろ本気でやらないかい? 隠してだろう? キミの本気、見せてくれよ。でないと……死にますよ?」


 そう言った瞬間、ジールヴィスの身体が、黒いオーラが纏う。

 剣も紫色に光を出し、恐怖が身体を襲う。

 ある程度覚悟しなくては耐えられなかっただろう。

 こうなれば、俺もやるしかない。


「じゃあ、本気で行こう」


 ポケットから煙玉を取り出す。

 さらにレベルアップによって手に入れたスキル、«引きこもりの想像力(ノン・リアリティ)»を発動。

 このスキルは、想像した自分の動きを実現させるもの。

 しかし、人間という限界を超えられないため、剣術の強化くらいしかできない。


 そして、必勝の一手に出る。

 煙玉を地面に叩き付け、自身の姿を隠す。

 そして、十八番スキル、«ぼっちは歩くのが速い(スピニング・ロンリー)»を使用。

 これで俺の姿は認識出来ない。

 ゆっくり歩いて近付く。俺が歩いている間は誰も認識出来ない。


 背後を取った。

 これでもう、剣を降り下ろすだけだ。

 手に持った剣を高々と上げる。

 そして、勢いよく降り下ろす。

 必勝の一手を打ったのと同じだ。これならば、魔王でもダメージは避けられない。


 俺の世界の動きが遅くなる。

 まるで、スローモーションを見ているかのように。

 そして、魔王、ジールヴィスの身体を、剣が切り裂く…………ことはなかった。


 俺の剣をジールヴィスは無駄のない動きで、避けた。

 そのままジールヴィスは俺の腹部を蹴り飛ばす。

 その衝撃によって、部屋の壁にぶつかる。

 痛みはもちろんある。しかし、俺の頭は、他のことでいっぱいだった。


 ――何故、あの一撃を見切ったんだ!? 見えていたのか? いや、そんなはずがない。あれは存在を消す力。察知できるはずがない!


 俺の顔には疑問の色が浮かんでいたのか、ジールヴィスは、俺の頭の中を読んだかのような言葉を発した。


「何故? と言いたいのだろ?」


 ジールヴィスは続ける。


「もちろん、キミの姿も存在もわからなかった。いい技だ。けれども、一歩足りなかったな。我が力、生命力の感知の前には」

「生命力の感知?」

「そう、今の私は生命力の存在、流れ、強弱がわかる。存在を消したとしても、生きていることにはかわりない。残念だったね」


 生命力を感知する、そんな力があるのか。

 ヤバイな……ビリビリくる、コイツの強さが。

 しかし、まだ俺には、秘蔵の新スキルがある!


「さぁ、仕切り直しだ。まだまだいけるだろう?」


 ジールヴィスの言葉とともに、崩れかけた臨戦体制が立て直された。


 煙玉によって生まれた白い煙が、足元から消えてゆく。

 邪悪の存在を前にして、俺は震えている。

 それでも、立ち向かう。

 完璧なハッピーエンドを迎えるために。

 自分の望むもの、望む未来は、自分で手に入れる。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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