魔王戦1
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1
剣戟が舞う。
2つの剣は交錯し、金属音を掻き鳴らす。
8本しかない蝋燭が暗闇に包まれるはずの部屋を照らしている。
剣を交錯させ、その度にスパークが散る。
蝋燭によって生まれた2つの影は、互いを牽制し、剣を向ける。
二人だけの空間だが、決して微笑ましいものではない。
一方は、鎧さえ着けておらず、その服は所々斬られており、その周りは赤く染まっている。
一方は、漆黒の鎧を身に付け、傷痕一つない。その者の瞳は紅く、血を求めているようだ。
2つの影による、2つの剣のぶつかり合いがまた起こる。
2
重々しく、その存在を誇示するかのように漆黒の扉。
その扉を開けた先には魔王がいた。
魔王。
俺が探していた、倒さねばならない相手。
その姿は俺の想像を裏切って、人間のような姿だった。
漆黒の鎧と紅いマント。
しかし、その顔は、頭部は、人間とは違う。
人間には有り得るはずのない、二本の角。
そして、あの、紅い瞳。
感じる……人間にはない、黒く染まり、淀んだオーラを。
「口を開きさえしないのか……まぁよい。我が名はジールヴィス。魔王と呼ばれている」
「田中憐斗。貴様を一度倒したであろう男の息子だ。覚えてなければ英雄の剣の所持者とでも覚えておけ」
「田中光國だろう? 覚えているとも。あのときは油断したものだ。まぁ奴は我を封印という甘い方法で倒した。それが今になって災いしているわけだ」
この世界で親父とコイツは戦っているようだ。
真偽の怪しい伝説だったが、これで真相はわかった。
親父はコイツを殺すという方法ではなく、封印という方法でことを治めようとしていたようだ。
それが甘かった。そのツケを俺が払わされることにもなった。
「あれは楽しかった。白熱した戦いほど面白いものはない。命は一つしかない。それを賭けて剣を交錯させる。そんな戦いをしたい。レント、と言ったかな? キミはそんな戦いをさせてくれるのかい?」
「どうかな……じゃあ、始めよう」
「ウォーミングアップをしなくては。ブランクがあるのでね」
「手加減しないぜ?」
腰に提げている真・覇王剣リザリアークを鞘から出し、抜刀。
ジールヴィスも刃まで漆黒に染まった剣を抜く。
カチリ、と音がする。
そして、一瞬の沈黙。
そして……地面を蹴った。
3
どれほど時間が経っただろうか。
剣を重ね、その度に鳴る音。これが続いていた。
閉じている扉。
多分、外からは開けられない。
ということは、助けはこない。
お互いが距離を取ったところで、ジールヴィスは口を開く。
「そろそろ本気でやらないかい? 隠してだろう? キミの本気、見せてくれよ。でないと……死にますよ?」
そう言った瞬間、ジールヴィスの身体が、黒いオーラが纏う。
剣も紫色に光を出し、恐怖が身体を襲う。
ある程度覚悟しなくては耐えられなかっただろう。
こうなれば、俺もやるしかない。
「じゃあ、本気で行こう」
ポケットから煙玉を取り出す。
さらにレベルアップによって手に入れたスキル、«引きこもりの想像力»を発動。
このスキルは、想像した自分の動きを実現させるもの。
しかし、人間という限界を超えられないため、剣術の強化くらいしかできない。
そして、必勝の一手に出る。
煙玉を地面に叩き付け、自身の姿を隠す。
そして、十八番スキル、«ぼっちは歩くのが速い»を使用。
これで俺の姿は認識出来ない。
ゆっくり歩いて近付く。俺が歩いている間は誰も認識出来ない。
背後を取った。
これでもう、剣を降り下ろすだけだ。
手に持った剣を高々と上げる。
そして、勢いよく降り下ろす。
必勝の一手を打ったのと同じだ。これならば、魔王でもダメージは避けられない。
俺の世界の動きが遅くなる。
まるで、スローモーションを見ているかのように。
そして、魔王、ジールヴィスの身体を、剣が切り裂く…………ことはなかった。
俺の剣をジールヴィスは無駄のない動きで、避けた。
そのままジールヴィスは俺の腹部を蹴り飛ばす。
その衝撃によって、部屋の壁にぶつかる。
痛みはもちろんある。しかし、俺の頭は、他のことでいっぱいだった。
――何故、あの一撃を見切ったんだ!? 見えていたのか? いや、そんなはずがない。あれは存在を消す力。察知できるはずがない!
俺の顔には疑問の色が浮かんでいたのか、ジールヴィスは、俺の頭の中を読んだかのような言葉を発した。
「何故? と言いたいのだろ?」
ジールヴィスは続ける。
「もちろん、キミの姿も存在もわからなかった。いい技だ。けれども、一歩足りなかったな。我が力、生命力の感知の前には」
「生命力の感知?」
「そう、今の私は生命力の存在、流れ、強弱がわかる。存在を消したとしても、生きていることにはかわりない。残念だったね」
生命力を感知する、そんな力があるのか。
ヤバイな……ビリビリくる、コイツの強さが。
しかし、まだ俺には、秘蔵の新スキルがある!
「さぁ、仕切り直しだ。まだまだいけるだろう?」
ジールヴィスの言葉とともに、崩れかけた臨戦体制が立て直された。
煙玉によって生まれた白い煙が、足元から消えてゆく。
邪悪の存在を前にして、俺は震えている。
それでも、立ち向かう。
完璧なハッピーエンドを迎えるために。
自分の望むもの、望む未来は、自分で手に入れる。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




