魔王戦2
更新しました。
威圧感の増した魔王を前に、俺はすくんでいた。
ただ同時に、嬉しさを感じていた。
この世界に来てからは、驚かされることが多かった。
というより、驚かされることしかなかったように思える。
しかし、今は違う。
久し振りに感じたこの緊迫感。
この世界に来て、初めて感じるものだ。
そう、現実世界にあったものだ。
引きこもりだったころにしていたゲーム。
そのラスボスを倒すときのようだ。
何故だろうか。
ここで今までの思い出が脳裏に溢れ出す。
……これが走馬灯ってやつなんだな。
初めて見た走馬灯に驚く気力は、俺にはもうない。
眼前の敵に、一撃を食らわせることしか考えられない。
「では、再開しよう」
魔王ジールビィスは言った。
その言葉には、覇気がある。
そして、俺は最後のカードを切るために、詠唱を始める。
「敵を砕くのは我が正義。敵を葬るのは我が拳」
これは、俺の奥の手。最後の切り札。
それを今、解放する。
「そして、偽りの世界と偽りの限界、解き放つのは――我が魂」
その瞬間、俺の身体は紅き光を纏う。
その光は次第に強くなり、いつしか部屋全体を照らすほどになっていた。
「それが、最後の切り札だね?」
そう、これぞ俺の最後の切り札。
名を最後の抵抗と言う。
このスキルは、5分間だけ自身の身体能力及び、それに関連する力の全てを最高点まで上げるもの。
しかし、使用後は徐々に身体が動かせなくなり、最後には倒れてしまうというデメリットがある。
それでもなお、使わなくてはいけない。
『大義を成すには、何かの犠牲も必要なのである』
そのようなことを誰かが言っていた気がする。
俺はその時、確かに! と思った。
犠牲なくして大義を成そうなどというのは傲慢も甚だしい。
ここで俺は、この後の俺に降りかかるデメリットを犠牲に、圧倒的力を得た。
これが最善であると信じている。
「ここで終わりにさせてもらう」
そう言って、俺は床を蹴る。
その瞬間、床が割れ、破片が飛び散った。
俺は目で追えないほどの速度で一直線にジールビィスに向かってゆく。
そして、構えた剣を大きく横薙ぎに振るう。
これで倒せればいいが、そう簡単にいかない。
先程の剣戟とは比べ物にならないほどの威力がジールビィスを襲い、眼前を覆い尽くす粉塵が舞う。
しかし、剣を握る手が感じたのは、敵を切り裂いた感覚ではなかった。
「今までとは比べ物にならん力だな。流石に私でも危なかった」
「誉めてんのか自画自賛なのかわかんねぇよ」
しかし、まだまだギアは加速する。
これから真の本番だ。
「深淵の怒り『インフェルノ』」
おもむろにそう唱えたジールビィスの掌には、黒い炎の玉が浮かび上がっていた。
「死にたくなければ、避けろ」
そう言って、ジールビィスは黒い炎の玉を此方に向ける。
そうしたとき、その炎の玉は、ジールビィスの掌から離れ、此方に近付いてくる。
その速度は驚くべきもので、かわすのがやっとだった。
その玉は壁にぶつかり、消える……はずだった。
しかし、その玉は消えることがない。
ずっとそこにあり続けている。
「この炎、厳密に言えば炎ではなく、濃縮された私の魔力。これは付着したところから動くことがなく、燃え広がりはしない。しかし、触れれば燃え移る」
そんな説明をジールビィスはした。
ナ○トの天照みたいだな。
俺、好きだったんだよね、あの技。
「手の内は明かしたことだし、さっさと死んでくれ」
二人しかいないこの空間。
しかし、その何倍もの力がこの空間を埋め尽くしていた。
剣は光り輝き、暗闇を無くしていく。
炎は暗く居座り、光を侵食する。
その一進一退の攻防は、未だ続く――
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
遂に、完結の道へと進みます。




