2話 待機
しばらく待っていると、入り口に向かう形で3匹のゴブリンが姿を現した。
そのゴブリンたちはいずれも鞍馬が以前倒したものより大きく、140センチメートル程。
鎧というか、木製の胴当てと肩・肘・膝を守る防具を身につけ、兜も着用している。
武器は、あまり切れ味のよくなさそうな脇差しをそれぞれ装備していた。
「みんなは音を立てないでこの人を守っていて。」
そう言ってエリナが立ち上がり、ゴブリンたちの方向へ走り出す。エリナ1人に任せるわけにはいかないと、鞍馬も立ち上がり、走り出す。
しかし走り出した瞬間、草むらを走り抜けようとした際に音を立ててしまう。
バサバサ、と草が靡く音がすると、ゴブリン達がこちらに気付いてしまう。
しかしエリナはそれを即座に察知して、2~3フェイントを入れると持っていた剣を2振りし、ゴブリン2匹の首を切り裂く。大きく血飛沫を上げた2匹が倒れる。
鞍馬は残りの1匹がこちらに向かってくるのを確認すると、足を止め、ゴブリンの動きをよく観察する。
向かい会うような形で、ゴブリンが脇差しを持った右手を上げて大きく振りかぶるのを見て、大きく左にステップすると、ゴブリンの剣撃は空振り、バランスを崩した所に、鞍馬は剣を胴当てでカバーされていない脇腹に突き刺す。
鞍馬はこれで終わりだと思い、緊張を糸を緩めるが、ゴブリンは未だ事切れず、鞍馬に体当たりをかます。鞍馬が尻餅を着くと、ゴブリンは鞍馬を一瞥するとソンヒョンやユミコの隠れている方向に走り出す。
「ヤバい!ソンヒョン!ユミコ!そっちに向かっている!」
不味いと思い、そう言いかけるも、言い終わらぬ内にソンヒョンが剣の鞘でゴブリンの頭部を叩き、倒していた。
そしてソンヒョンは、近くにあった大きめの石を拾うと、まだ息のあるゴブリンの頭部にめがけて止めをさす。
「ごめん、あれで死んだと思ったんだけど。俺のせいで失敗した……。」
一連の殺陣が終わり、エリナと共にソンヒョンの元に戻った鞍馬がエリナとソンヒョンに謝罪をする。
「気にするなよ、リージョンの中のゴブリンは外のものより少し強いみたいだ。確実に負傷者のいる方を狙ってきたし、頭も回るらしい。」
冷静に返すソンヒョン。
「大丈夫よ、あなたの仕事はゴブリンから自分の身を守ることだから、上出来。ただ、指示を無視するのは今回限りで絶対にやめて。」
少し呆れた様子で鞍馬を諭すエリナ、やはり今後に対する不安があるようだ。
鞍馬は、謝罪しながらも、ゴブリン2匹を一瞬の内に葬ったエリナの剣撃を思い出した。
ソンヒョンも手負いのゴブリンとは言えいとも簡単に戦闘不能に追いやっていたし、自分の不甲斐なさに憤りを感じると同時に、2人の強さに少し辟易とした感情を持った。
そして行軍中、マサトがゴブリンや獣を簡単に御していたことを考えると、マサトやテツヤのグループも相当な強さなのだろうと想像した。その4人が手間取っているこの洞窟にも、嫌な予感を募らせた。
そしてこの鞍馬の予感は的中することとなる。