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転生、千里を駆ける〜乱世最速の男の三国戦記〜【第一部】  作者: トベ・イツキ


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第十五話 帰郷

「おい、劉星(りゅうせい)


 見ろ、あれが涿県(たくけん)だ」


「おお、あれが劉備(りゅうび)たちの生まれ故郷・涿県(たくけん)……!」


 大将・劉備(りゅうび)は僕の名前を呼び、町を指差した。僕は虚ろな目を見開いて、その町を見た。


「あそこが三国志始まりの町・涿県(たくけん)か。三国志好きなら感動する場面だ……」


 三国志の主人公・劉備(りゅうび)が生まれ、関羽(かんう)張飛(ちょうひ)桃園(とうえん)で義兄弟の誓いをした三国志始まりの町。それが涿県(たくけん)だ。


 思えばここまで長い道のりだった。白馬の大将・公孫瓚(こうそんさん)らと共に反乱者・張純(ちょうじゅん)石門山(せきもんざん)で破った僕ら劉備(りゅうび)軍。このままさらに攻め続けるのかと思った矢先、大将の劉備(りゅうび)安喜県(あんきけん)()に昇進したのを機に戦線離脱。一時、帰郷することとなった。


 劉備(りゅうび)軍の部隊の中には近隣の都市から加わった者も少なくない。そういう者は途中で部隊を離れ、各々(おのおの)の故郷へと帰っていった。百人ほどいた劉備(りゅうび)軍も涿県(たくけん)に着く頃には三十人ほどに減っていた。


 僕はというと、前世の記憶を持った転生者だ。劉星(りゅうせい)というのはこちらの世界での名前。元の名は辰元流星(たつもと・りゅうせい)。未来の日本で競馬のジョッキーをやっていた。その乗馬スキルを買われて劉備(りゅうび)軍に加わることとなった。


 僕は前世の記憶はあるが、残念ながら今世の記憶がない。なので、こちらの世界での故郷も親の名もわからない。行くところもの無いので、このまま劉備(りゅうび)の故郷まで同行することとなった。


「しかし、ようやく涿県(たくけん)が見れたけど、城壁ばかりで何の感動もないなぁ……」


 こちらの世界の都市というのは、どこも周りを城壁で囲まれている。外から眺めても城壁か城門くらいしか見るところがない。


 遠目から見たところ、東西に約一キロ。南北はそれより短い、八百メートル前後くらいだろうか。長方形の都市となっている。壁の高さは五、六メートルはありそうだ。山の上にでも行かないと城内はとても見れそうにない。


「せっかくなら城内を見たいところなんだけど……」


 僕はチラリと劉備(りゅうび)の顔を見る。


「俺の故郷の楼桑里(ろうそうり)はあの城内にはないからな」


 涿県(たくけん)は未来の日本での行政区分で言うところの市や町にあたる地域だ。その城中と周辺の地域はいくつかの(きょう)(てい)に別れ、さらにその中に細かな()がいくつもある。(きょう)(てい)が未来の日本の住所で言うところの大字(おおあざ)()は番地くらいだろうか。


 劉備(りゅうび)の自宅がある楼桑里(ろうそうり)涿県(たくけん)の城外にあった。



「町中でゆっくりしたいところだが、もう元日も過ぎちまった。


 悪いが、俺は先に楼桑里(ろうそうり)に戻る。


 城内に家のある奴はここで別れるが、劉星(りゅうせい)、お前はどうする?」


 劉備(りゅうび)の言葉でここまでの道のりを思い返す。僕らのいた管子城(かんしじょう)からこの涿県(たくけん)まで当然、徒歩だ。

 一応、僕には愛馬・彗星(すいせい)がいるのだが、皆が歩いている中、一人だけ馬というわけにもいかず、共に歩いた。代わりに彗星(すいせい)には荷物持ちとして活躍してもらった。


 しかし、その徒歩移動がキツかった。ここまで約一ヶ月半、休むこと無く歩き詰めだった。二十歳くらいの若い肉体に転生していなければ、とてもついていけなかったことだろう。本当に転生バンザイだ。


 だが、その間に年が明け、元日が過ぎてしまった。元日には家族や親戚の集まりがあるらしく、それに参加できなかった事を劉備(りゅうび)は気にしているようであった。そのためか、年越しから少し行軍速度が上がっていた。


涿県(たくけん)の城内には興味はあるが、自宅があるわけでもない。


 このまま劉備(りゅうび)の故郷に同行するよ」


 実のところ僕もクタクタで、城内見学よりさっさと休みたかった。


 涿県(たくけん)城内に自宅のある人とも別れて、僕らは楼桑里(ろうそうり)を目指した。


 劉備(りゅうび)の故郷・楼桑里(ろうそうり)涿県(たくけん)より西南へ少し進んだ先にあった。


 そこは日本の田舎にもありそうなのどかな村だった。ただ、日本と違うのは村の周囲を土壁が覆っていることだろうか。長方形だった涿県(たくけん)とは違い、村の形に合わせたのか、歪んだ円形のような土壁だ。


「ここが劉備(りゅうび)の故郷・楼桑里(ろうそうり)か」


 僕らは門を抜け、村の中へと入る。


 中には農地と少し民家があるだけで、本当に田舎の村といった感じだ。旅の途中で見た城市の街は区画整理され、建物は綺麗に整列していた。対してこちらの村の民家はまばらに散っている。


「さて、とりあえず、俺の家に行くか」


 僕らは劉備(りゅうび)の家を目指した。ここまで来ると同行するメンバーは随分減った。十数名といったところだ。見たところ楼桑里(ろうそうり)には百世帯も住んで無さそうなので、当然と言える。しかし、同行するメンバーには、手先の器用な簡雍(かんよう)や弓の名手・董機(とうき)の姿もあった。


劉備(りゅうび)、あれはなんだい?」


 僕はその道中で見つけた土山を指差した。土を盛り固め、上に大きな石が乗っているオブジェだ。よくわからない物体だが、村の道はだいたいあの土山を目指すように伸びており、あれがまるで村の中心にあるように思えた。


「何って、(やしろ)だよ。


 お前の村には無いのか?」


 どうも常識的なことを聞いてしまったらしい。僕は慌てて取り(つくろ)った。


「ああ、あったかな。


 ちょっとド忘れしちゃってたよ、ははは」


 (やしろ)というと、恐らく神社のようなものなのだろう。しかし、建物らしきものはない。御神体を()き出しで置いているような感じなんだろうか。


「見えてきた。


 あそこが俺の家だ」


 劉備(りゅうび)の指差す方を見ると、随分と大きな家が目に入った。


「随分、大きな家だな。


 村一番の豪邸じゃないか?」


「お前が見てんのは本家の方だ。


 俺の家はその隣だ」


 劉備(りゅうび)の指先をよくよく見ると、今度はこじんまりとした家が目に入ってきた。


「随分と小さくなったな」


「ほっとけ。


 小さいかもしれんが、得に生活に支障はないぞ」


 劉備(りゅうび)はそう、弁明なのかよくわからない事をいった。


 せっかく土地がたくさんあるのに、劉備(りゅうび)の家は三十(つぼ)(約百平米)くらいの平屋だ。隣に大きな家が並んでいるのでより小さく見える。


 しかし、考えてみれば、確か劉備(りゅうび)は老いた母と二人暮らしだったはず。未来のように家電なんかの物が(あふ)れているわけでもないし、このくらいの家で十分なのかもしれない。


劉備(りゅうび)よ、ようやく戻ったか」


 劉備(りゅうび)宅へと向かう僕たちに、隣の豪邸から一人の男性が現れた。歳は五十を過ぎたくらいであろうか。背は高く、()せている。長い眉に整えられた(ひげ)。装飾は華美にならない程度で、白を基調とした上質な衣服を着ている。


「これは叔父上、ご無沙汰しております」


 劉備(りゅうび)はその中老の男性に対して深々と頭を下げて挨拶をする。


「あの人はだれだい?」


 僕は小声で簡雍(かんよう)に尋ねる。


「ありゃ、大将(劉備)叔父(おじ)劉子敬(りゅうしけい)殿だ。


 この()のまとめ役でもあるお人だ」


 なるほど、劉備(りゅうび)もあの豪邸は本家と言ってが、叔父(おじ)だったか。顔つきは少し劉備(りゅうび)に似ているようだ。

 その劉子敬(りゅうしけい)はクドクドと劉備(りゅうび)に小言を言い、劉備(りゅうび)も頭が上がらないのかペコペコと頭を下げている。


「お前のおかげでこの里に理由(わけ)のわからぬ奴が住み着いて困っている。


 私はお前の叔父(おじ)ではあるが、ここの里魁(りかい)(()(おさ))でもある。悪事を働く者がいればお上に報告する義務を負う。


 お前はわが劉氏(りゅうし)の一族なら、どこの馬の骨ともわからぬ奴とは縁を切って、そろそろ真面目に働いたらどうだ」


「そのことなのですが、実はこの度、戦場での働きが認められまして、安喜県(あんきけん)()に任命されました」


 劉備(りゅうび)は態度こそ恐縮した素振りだが、よく見るとなかなかのしたり顔だ。


「お前が県尉(けんい)だと……。


 まあ、それなら良い。県尉(けんい)といえば悪人を取り締まる立派な仕事だ。よく励むのだぞ。


 早くお前の母に知らせて、安心させてやりなさい」


「はい、それでは失礼致します」


 劉備(りゅうび)は得意満面な面持ちで帰ろうとする。しかし、劉子敬(りゅうしけい)は何か思い出したような様子で劉備(りゅうび)を再び呼び止めた。


「うむ。


 ああ、それとあの男にも早く帰った事を伝えてやれ」


「あの男……ああ、アイツですか」


 劉備(りゅうび)は思い当たる人物がいるのか、すぐに納得していた。


「あの男、連日家を訪ねてきて、お前は帰ったかと煩くてかなわん。


 あの男にも急いであってやれ」


 劉備(りゅうび)はようやく叔父(おじ)から解放されると、隣の自宅へと向かった。


「ただいま、()が戻りました」


 劉備(りゅうび)は俺たちを(いざな)いながら、門の奥へと進んでいく。


 劉備(りゅうび)宅は細長い建物が『口』の字型に並び、真ん中が中庭になっているという変わった形の家であった。だが、聞いたところ隣の劉子敬(りゅうしけい)の豪邸も大きいだけで、似たような作りの家らしい。どうも、この『口』型がこの時代での一般的な邸宅の姿のようだ。


「おお、阿備(あび)(阿は愛称。備ちゃんの意味)よ。よく戻りました。


 皆さんもよく戻りました。


 おや、一人見ない顔の者がおりますね」


 奥から現れたのは歳は50歳ほどの女性。化粧はせず、装飾も身に着けず、その身なりは慎ましかった。しかし、格好こそ貧しそうであったが、上品な雰囲気を(かも)した女性であった。


 彼は初対面の僕に視線を向けた。


「はじめまして。僕は劉星(りゅうせい)と申します」


「この劉星(りゅうせい)は乗馬が得意です。その才能を見込んで仲間になってもらいました。


 劉星(りゅうせい)、こちらは俺の母だ」


「はじめまして。(劉備)の母でございます」


劉星(りゅうせい)、この家の裏に(うまや)がある。


 お前の馬と俺の驪龍(りりゅう)(つな)いでおいてくれ」


 僕は劉備(りゅうび)の命を受け、まずは自分の愛馬の彗星(すいせい)。次いで劉備(りゅうび)の愛馬・驪龍(りりゅう)を裏にある小さな馬小屋に()いて、馬棒(ばぼう)(つな)いだ。


 その驪龍(りりゅう)(つな)いでいる時に、一人の大柄な男が無遠慮に馬小屋の中に乗り込んで来た。


驪龍(りりゅう)じゃねーか!


 兄貴、戻ってきたのか!」


 その大柄な男はズガズガと入って来て、顔を僕の顔にグイッと近付けてきた。


「あん、お前、誰だ?」


 デカい。百八十センチはありそうだ。百六十五センチしかない僕を見下ろすように覗き込んでくる。それだけで威圧感がある。


「ぼ、僕は劉星(りゅうせい)


 新たに劉備(りゅうび)軍に加わった者だ」


 それを聞くと、大柄な男は豪快に笑い飛ばした。


「ハッハッハ、新参か!


 なら、俺の方が先輩だな!


 俺は張飛(ちょうひ)! 覚えとけ!」


 この大男が、三国志の中でも最強の呼び声が高い豪傑・張飛(ちょうひ)だというのか……?


 《続く》

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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本作は別の場所でも掲載を行っておりますが、内容自体は同一のものとなっております。更新状況などに多少の違いがある場合がありますので、もしご興味があれば作者のプロフィール及び(ツイッター)アカウント等もご参照ください。


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この作品の続きの話や三国志のことを話してます。よければよろしくお願いします。


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