鎧、伝説を聞く
『さて、そろそろ出発するか。』
二人の朝食が済んだようなので、そう宣言する。
『おっと、そうだ。ハイファーへの道すがらでいいから、キキョウの話を聞かせてほしい。』
『キキョウの?それは構わないが、俺の村に伝わる昔話程度のもんだぜ?』
『ああ。是非とも。俺の行く先々でキキョウの名を耳にするもんで、気になってな。』
『そりゃぁそうだろう。この国で始まりの勇者とキキョウの名を知らない人間なんていないんじゃないか?あんたたち、この国の生まれではないのか?』
『うん、そうだ。最初、この国の村に居たドワーフに聞いた話と俺の師匠から聞いた話。この二つは、キキョウというのが2000年前にいた伝説の鍛冶師というものだった。それと、そのキキョウが作ったと思われるアイテムを見ることができたんだが、それを少し解析させてもらって、魔術付与の方法を理解したんだ。』
『な、なにぃ!キキョウの品!?すげーな!未だに存在しているなんて!』
(うん、ハイド。君の眼の前にいる鎧もそうなんだけどな。)
『いや、そのアイテムを見て解析できるのもすごいし、魔術付与をマスターするなんて、、、』
(うん、、、ハイリン。自分でも驚いている。)
『そう、そのアイテムを知ってから、キキョウの事を聞けば聞くほど、俺の創作意欲が刺激されてな。』
『職人気質なのか?それは?まぁ、そういうことなら、、、あ、でも、俺の話は、子供向けのようなもんだから、ビルの役に立つかどうかは保証しないぞ。』
『どんな話でもいいさ。』
『じゃぁ、俺の村のばあちゃんから聞いた昔話なんだがな。』
まるで子供へと聞かせるような口調で、ハイドはキキョウの物語を話してくれた。
「時は、魔王軍がこの大陸を侵略し、その大半を支配下に置いた時代。
とある人間の村にキキョウと言う名の鍛冶師が居た。
キキョウは、鍛冶師なのに魔術を扱うことに長けていた。
鍛冶師であるキキョウは、その村で武器ではなく農耕具を作っていた。
しかし、キキョウはそれだけでなく魔術で人々の生活を助けていた。
キキョウの魔術は、人々の暮らしを豊かにするものが多く、例えば、井戸を掘る魔術であったり、火事を消火する魔術であったり、日照りの時は、畑に水を撒く魔術であったり。
そんなその村は、当時、魔王軍への物資供給拠点だった。
魔王軍の魔族、とりわけオーガ族への食料、酒を定期的に供給していた。
それでも村人たちは、なんとか飢えをしのぎ、自分たちの生活を守っていた。
ところが最近、他の村で人間の村から若い女性が魔族に拐われていく、という話が聞こえてきた。
その村の女性達は、その話を恐れ、髪を切り男装して畑仕事をするようになった。
キキョウは、もしもの時のため、そんな村人たちに自衛のための魔術を教えるようになった。
しかし、それが返って悲劇を産んでしまった。
魔術を使える人間がいることが、魔族の目にとまり、キキョウが出かけている間に数人の村人が魔族に連れ去られてしまった。
キキョウは、自分のせいだと責任を感じ、連れ去られた村人を助けに向かったが、キキョウが助ける前に、拐われた村人全員が死んでしまった。
キキョウは、怒り悲しみ、オーガ族の一軍を殲滅して村に帰ってきた。
そして、次、また同じように誰かが被害にあう可能性を懸念して、村人達へ魔術の封印を促し、隠すように指示した。
そのうち、魔王軍がオーガ族を殲滅した犯人を捜すだろう。
この村に危険が迫ったときは、その犯人はキキョウだと伝えればいい。
キキョウは、そう言い残して村を去った。
その後、どういういきさつがあったがわからないが、始まりの勇者パーティーの活動の話の中に、キキョウという名の魔術師がいるのだと、噂が広がっていた。
その噂を聞いた村人たちは、キキョウが死んでしまった者達への仇討ちをしているのだと考えた。
そして、ついにこの大陸の殆どが魔王軍の支配から解放された時、キキョウがふらっと村に現れた。
かつて、魔族に拐われ死んでしまった者たちの墓の前で、何事かつぶやき、そして、また姿を消した。
その後は、人々の話にキキョウの名は登らなくなり、始まりの勇者が興した王国で、勇者とともに過ごし、その国で息を引き取ったのだろうと言われている。
これが俺の村に伝わるキキョウの話だな。」
『ほぉ、勇者パーティーの一人だったのか。』
『みたいだな。』
『ん、、、そうだ、勇者たちの話も聞いておきたい。』
『私も知りたいです。』
エルトがキラキラした目で、ハイドを見ている。
『えと、知らないのか?』
『はい。勇者の話、私の村では聞かなかった話です。』
『どこの村だよ、君の村は、、、まぁ、いいけどよ。』
(まぁそうだろな。エルフが人間の話を語り継ぐなんてないだろうし、、、とは、言えないが。)
俺達は、ハイファーに向かって、すでに馬車を走らせている。
周りは、森もなくだだっ広い草原が広がっている。
そして、南へのまっすぐな道のりだ。
すれ違う人も居なければ、魔獣や小動物すら出ない。
その退屈な道を進んでいくには、ハイドの話す昔話がちょうど良かった。
「じゃぁ、つぎは、始まりの勇者の物語だ。
勇者パーティー、彼らが初めて歴史に名を刻んだのが、単眼の巨人”魔神キョクロプス”との戦いだ。
かの魔神は、エルトラン大陸最大の森林地帯に突如として現れ、わずか10日ほどで、大森林の半分を燃やし尽くしたそうだ。
これを放置できぬと毅然と立ち向かった人間たちが居た。
そう、のちに始まりの勇者と呼ばれるようになるハイドランドとその仲間たちだ。
彼らは、人族であるにもかかわらず、魔族を圧倒するほど強力な魔術や匠な剣術を扱うことができた者たちだった。
更に、その勇者パーティーと共に戦ったドワーフ族とエルフ族の戦士たち。
その数、100名。
それは、後の人々によって魔神討伐の英雄伝”100人の英雄”として語り継がれていくことになる。
その中で傑出した力を持った5人の勇者、それが、魔剣戦士ハイドランド、ドワーフの盾役戦士ダンカイ、ナイトヒーラーのセイシュウ、賢者キョウカ、魔術師キキョウだ。」
(勇者パーティーに賢者キョウカ?まさかな、、、)
「この魔神キョクロプスとの戦いの詳細は、勇者たちから語られることはなかったが、壮絶な戦いであったことは確かで、その戦場となった場所には、巨大な穴が残された。
この穴が、現在ムハインド王国中央に存在するハイエルン湖だな。
そして、魔神キョクロプスが燃やした森は、元に戻らず、この湖の西に広がっている。
これが、ムハインド王国西部の砂漠、キョクロプス砂漠と呼ばれている。
その戦いの後、勇者たちは、この魔神を召喚した魔族を追いかけ、魔王軍に支配されている地域を転戦することになる。
おりしも、この時分から、魔族同士に軋轢が出始め、魔王軍は機能していなかった。
勇者たちはその隙をつき、ついには魔王を倒し、なおも生き残った魔族たちと戦い続け、次々と魔族に支配されていた人間の村を解放し、勇者と讃えられた。と、そんな話だ。」
「すごいですね。たった5人で魔王を倒してしまうなんて。」
エルトは念話も忘れて、ハイドの話に聞き入っていた。
「ま、これが始まりの勇者の物語なんだが、どこまでホントかはわからないぜ。なにせ、2000年以上も前のことだし。」
「あれ?でも魔族って、今も居ますよね?」
「そう、魔族は全滅しなかった。そして勇者のこの話には、後日譚があってな。」
「後日譚?」
「魔神キョクロプスの戦いから25年後。
生き残った魔族は、エルトラン大陸南方にあるエルデンリングと呼ばれる湖上の大きな島に逃げ込んだ。
ただ、いよいよ攻め込むぞという時、無敵を誇る勇者パーティーに異変が起きていた。
パーティーの解散だ。」
「えぇ!なぜです?」
子供のように、エルトが反応する。
(いや、エルフとしては、まだまだ子供か。)




