鎧、初勝利する
『よし、二人共!盗賊共が帰ってきたぞ。あと少し計画を変更する。前半はさっき言った通り、俺の魔術であの洞窟内に霧を発生させて、地面をドロ化させる。』
『私達は逃げ出す盗賊を狙えばいいのですね』
『そうだ。だが、そう簡単に逃げられないように更に考えがある。まぁ見てろ。』
そしてしばらくすると盗賊共が戻ってきた。
俺は、さっき二人に説明したとおり、洞窟内の霧とドロ化を発動した。
「何だぁ?アジト内に霧?」
「どうなってやがる?留守番のやつが何かしたのか?」
「お頭ぁ〜!アジト内が変でやす。留守番の奴らも出てこねーし。」
「あぁん?寝てんじゃねぇのか?よし、俺が入ってみるぞ。」
(やっぱり、こいつら慎重だな。怪しいと思ったら動きやしねぇ。仕方がない。アレを使うか。)
俺は、こんなときのためにというわけではなかったが、この洞窟の周囲の森に、とある仕掛けを作っておいた。
そして、今、それを発動させた。
急に森の中から馬の声、そして、大人数の者が歩く足音が聞こえてくる。
「頭!大勢の足音が聞こえます!」
「何ぃ?まさかもう追手が?お前ら、早く中へ入れ!迎え撃つ準備をするぞ!」
大慌てで盗賊たちが洞窟に入った。
(よし、全員、洞窟内に入ったな。)
『二人共準備はいいか?今から俺が洞窟を封鎖する。もし逃げ出してきたやつがいたら遠慮なく、打て!』
『はい!』
そばにいる少女たちに指示を出し、俺は魔術を発動させる。
(ふっふ、これでどうだ。)
洞窟の入口を覆うように火壁が出現した。
そして、とどめの溶岩を洞窟内に放ってやった。
中は、阿鼻叫喚だろう。
(ん?お?一人だけ火だるまになって出てきたぞ。)
と思ったら、その盗賊を覆っていた火が消えた。
(あれは、水膜か!)
なんと魔術が使えるやつがいたのか。
「くそがぁ!」そいつが吠えている。
よく見るとボスのコージってやつだ。
っと、そのコージを狙った火球が飛来する。
気付いたコージはとっさに水膜を張って火球を防いだ。
かのように見えた。
「ぐわぁ!」
コージが倒れた。
いや確かに火球は防がれたのだ。
しかし、一本の矢がコージの腹に刺さっていた。
(うまい!火球と同じタイミングの矢を放ったのか。火球をカモフラージュにしたんだな。さすが姉妹だ。)
コンビネーションは、ばっちりだった。
感心しつつも、俺は草かげから飛び出しコージにとどめをさす。
「なにぃ!鎧⁉まさか!」
ザシュ!俺は、コージを斬り伏せた。
「ぐわ!そんな馬鹿な、、、」
それがコージの最後に発した言葉だった。
俺は、生体感知で他に生き残りがいないか確認する。
(よし全滅したな。)
まだ、草かげに隠れている姉妹にジェスチャーで◯を送ってやった。
二人が足早に駆け寄ってきて俺に触れる。
『二人共すごいな、よくやった。』
『いえ、ありがとうございます。』
『戦士様もすごいです。』
『これで追手を気にせずに帰れるな。っと、そういえば、お互い名乗っていなかったな。俺はビルハインド、ビルと呼んでくれ。』
『はい、ビル様。私はエルト。こちらはエルミといいます。助けてくださりありがとうございます。』
二人は、何度も礼を言ってくる。
羨望の眼差しで、、、
(いや、まぁ悪い気はしないが、、、)
勇者を見るような目で見るのはやめてほしいが、、、。
『さて、二人共、まだ終わりじゃない。二人の住んでいた村に送り届けないといけないからな。』
姉の方のエルトが少し表情を曇らせ、下を向いてしまった。
(ん?何か事情があるのかな?)
『二人の村への道すがら、事の顛末を話してくれるか?どこでどうして盗賊なんかに捕まったのか。』
『は、はい、、、』
俺は、二人を連れて、先ほど大人数の足音を出させた仕掛けのところに向かった。
「それにしてもビル様は、賢者様のように機知に富んだ方ですね。」
「それに魔術もすごかった。」
(ん?あぁ、この仕掛けのことを言っているのか?)
実は盗賊たちが隊商から奪ったものと思しき馬と荷車が残されていたので、ちょいと拝借して、森の中に隠しておいた。
倉庫内にあったロープを利用して、馬の馬銜にくくりつけ、ロープを俺達の隠れていたところまで伸ばしておいた。
俺がロープを引っ張れば、馬に伝わり動き出す。
そしてその馬が引っ張るものこそ、あの足音を出す仕掛けだ。
「この道具?も凄いですね。どうしてこんなふうになるのかしら?」
馬が引っ張る器具に興味津々なのは姉のエルトだ。
『こいつは即興で作ったもので大したものではない。道を整地するときに使う、馬で引く農耕具に近いものだ。材料は森の中にある木々のみだし、整地するわけでもなく、ただ単に音を出せればいいだけだから粗末な木の枝で代用した。苦労すると思っていたのが、一本の倒木を輪切りするところか?エルミがいて助かった。これだけの数は一人では無理だった。』
『えへへ、私の水刃だね。』
俺は、水刃で輪切りにした丸い木の板を車軸から外しながら、この水刃っていうのも魔術として習得できないか密かに考えていた。
エルトは、その丸い板を見ながら、
「この丸板の中心に三角形の穴をあけ、そして半分に切って、車軸を挟むようにロープで固定して取り付けていたのね。」
馬が引っ張るのは、荷車でなく、浮遊魔術を使って荷車の荷台部と車輪部を分離し、車輪と車軸のみになった部分のみだ。
ただし、車軸にはいくつもの先程の丸い板を固定している。
『そうだ、そうすれば、車軸が回るときに、この取り付けてある丸い板も空回りせずに回るだろう。そして、その丸い板の外周に取り付けた地面に叩きつけるための木の板がキモだな。あぁそうだ、これを集めてくれて助かったよ。エルトのおかげだ。』
そうして、馬がその車輪と車軸部を引っ張ると木の板が地面を叩きつけて、あたかも十数人の足音に聞こえるというものだ。
まぁなんだかんだと三人作業で工作したんだが、この姉妹はそれが楽しかったらしく、
「他にどんなものが作れるの?」とか「これは何かに使えますか?」だの、楽しげに木を拾ってきては、はしゃいでいた。
農具を作るのも仕事だったからその経験が生きた形だな。
もっとも、この音を出すタイミングは、盗賊共を警戒させて、アジト内に押し込むことではなく、俺達が逃げるときに、盗賊共の気を引き、俺達を追わせないためだったんだけどな。
浮遊魔術で荷台を車軸とくっつけ直し、馬車を元通りにしつつ二人に聞いた。
『二人の住む村は、この近くなのか?帰り道はわかるのか?』
『えと、ちょっと離れています。盗賊に襲われた場所からは近いですが。』
『じゃ、まずそこまで行こう。方角はわかるか?』
この洞窟からは、道らしい道はない。
しかも、俺は現在位置がわからない。
元より、この辺の住人でないのだから、余計にわからない。
もし、この子達がいなかったら、森の中で迷子になっていたかも知れない。
死にはしないが、ずーっと彷徨いつづける絵が脳裏に浮かぶ。
(脳もないけど。)
俺達は、組み立て直した馬車に乗り、姉妹の指し示した方角へ出発した。
木々が少なく地面の凹凸も少ないため、道はなくても馬車はゆっくりとなら進めていける。
よく見ると馬車の車輪跡が地面に残っているな。
盗賊共が通っていたからだろう。
と、するならば、この方角で間違いないようだ。




