おまけ/あとがき
今まで読んでいた本を閉じて机の上に置き、軽く伸びをして背中を伸ばす。
するといつの間にか丸まっていた背中や長い間同じ姿勢でいたせいで固まった腕や首が気持ちよく伸びて、少し声が漏れてしまった。
友人はその声に反応しこちらを見た。
「お、読み終わったか」
「まぁな」
軽く首を回して骨を鳴らしながら辺りを見る。
壁一面に並べられた本棚には所狭しと本が並べられ、そのどれもが歴史的価値があるものだという。
天井では、有名な画家が手掛けた勇者の旅路と紫彗星を描いた天井画がこちらを見下ろしていた。
そんなこの部屋の様子を見ていると、およそ一般市民が入っていいような部屋ではないな、と再度思うのだった。
「どうだった?」
暖かな日差しが照りつける窓際に立っていた友人は、日差しにも負けないような目の輝きでそう聞いてきた。
この友人は、いつもそうであった。
自分が、勇者やそれに関係する者の逸話や伝説を尋ねると楽しそうにそれを語りつくし、関連するおすすめの書物を読ませて最後にどうだったと聞く。
少し面倒な性格をしていると思っていたがそれを友人に直接伝えることは無かった。
その面倒な性格のおかげでこちらも知りたい情報が知れていたからだ。
「まぁまぁ、かな。結局ナウワーがどうなったのかあやふやだし。まぁ、勇者の伝説に出てくる吸血鬼がどんな奴だったのかは分かったけどさ」
友人に向けて両手を上げると、友人は顎に片手をあてて少し考え込んだ。
「その後、彼は生きていた…」
「え…?」
友人の言葉に自分でも思っていた以上の速さで反応し、我ながら少し驚く。
「…ほうが君の好きな話かな?」
「お前な…」
一瞬期待させるようなことを言った後にそんな事を言うのだからこちらも不満を表すように椅子の背もたれにドカッと寄りかかった。
「本当はどっちなんだ」
自分は、生きていた方が話の終わり的には好きかも知れなかった。
確かにナウワーという人物は、大量殺人者としての一面がある。もし裁判にかけられれば絞首刑は避けられないだろう。しかしそれだけの人間ではなかった。誰かを愛することを知っていた、悲しむ心を持っていた。何より自らの行いを後悔していたのだ。そんな人が、はい死にました。で終わるのはなんだか悲しいと思った。
「どっちとも言えるんだ。ここは多くの歴史家の間でも意見が分かれるところでね。勇者の仲間には改心した吸血鬼が居た、っていう話は有名なんだが…」
「それじゃあ生きているじゃないか」
「まぁ、待ちなよ。改心した吸血鬼はナウワーだけじゃないだろう?」
「そうか、確かに」
椅子のひじ掛けに肘を置き、頬杖をつく。
ナウワーとエクシー、どちらも改心した吸血鬼といえた。
「君は、ナウワーは生きていたと考えるかい?」
「その方がいいね」
「僕もだ」
友人は意見の一致に嬉しそうに笑った。
その姿は貴族然としていて絵になるな、なんて思った。
「まぁ、三百年も昔の事なんて正確には分からなくて当り前さ。…けど僕はそんな当たり前を変えたい」
また始まった。
「正確な歴史を後世に伝え遺したいんだ。誰かが都合のいいように改ざんした物語ではなく、本当にあった真実の物語を」
友人は、いつもこの話をしていた。
それほど強い願いなんだという事が分かると同時に、この不思議な関係の時間がお開きになる時が迫っている事を理解する。
「分かったよ。じゃあ互いに頑張ろうな」
「墓荒らしと遺跡荒らしをかい?」
「トレジャーハントだ」
友人が意地悪く笑うのを見ながらいつものやり取りをする。心地の良い一瞬だ。
「ではトレジャーハンター殿。玄関までお送りいたしましょうか?」
「いや…っておいおい、そんな仰々しい呼び方で呼ぶならこっちも考えがあるぞ」
「それは?」
「お前の事をペドフィリアと呼ぶ」
友人は大げさに肩をすくめた。
「貴族の僕にそんな事言うのは君だけだ。…彼女とは望んで結婚したわけじゃないことは君だって分かっているだろうに。分かった、止めておこう。僕と彼女…僕の妻の名誉の為にもね」
そんな事をいった友人と笑いあう。
そしてふかふかで心地の良い椅子から立ち上がりもう一度伸びをした。
「さて、ではこれで失礼する。お前もこれから出かけるんだろう?」
「ああ、もう学生たちの休暇期間が終わるからね。学校に戻らないといけない」
「じゃあ、会いたい時は学校に行けばいいのか」
「そうだな。僕の名前を出せば門番も通してくれるはずだ」
友人は窓際からこちらに歩いてきて手を差し出す。
「欲しかった情報は手に入ったかな」
「ばっちりだ。ありがとう」
差し出された手を握り、感謝の言葉を返す。
「やっぱり出口まで送ろうか?」
「いや、いい。もう何度も来ているからこの館の構造も覚えた」
「出来れば、外で言いふらさないでもらいたいね」
「そんなことしないよ」
そういって無駄に大きく綺麗な柄が掘られている木の扉に近づき、それを開ける。
「またな」
「ああ、また」
友人は、微笑みながら軽く手を振って見送ってくれた。
広い館を歩き外に出ると、爽やかな風が頬を撫でた。
遠くで飛び立つ鳥を追うように視線を空に向けると勇者がいた時代、およそ三百年前から、もしくはそれ以前から変わらずそこにあるとされる紫彗星が優雅に尾を引いて佇んでいた。
どうも、タキリです。
処女作である「吸血鬼の夜明け」を読んでいただきありがとうございます。
まだ読んでないけどあとがきやおまけから先に見ちゃえっていう人。分かります、その気持ち。
自分も単行本を買うと偶にあとがきを先に読んでしまうことがあります。
作者の生活が書かれていたりして面白いですよね、あとがき。
それは置いといて、作品の話をするのですが、「吸血鬼の夜明け」は昔に自分が仕事をしながら考えていた作品のアイデアの一つでした。それをアイデア一つ、見切り発車で小説として投稿を始めてしまうというね。ええ、そのおかげで至らぬ点が多くあります。恥ずかしいですね。
元々のタイトルは「汝、罪を償え」でした。
仰々しいですね。びっくりです。どんなダークファンタジーな話が飛び出すんだろうと、思いますよね。
はい、そんなにダークな話を作る予定ではなかったのでタイトルが変わりました。
そんな変わったタイトルですが、なんと元ネタがあります。
それは「夜明けのヴァンパイア」という作品です。
詳しい内容は各々調べていただきたいのですが、やはり吸血鬼が関係する話という事で今回、タイトルのネタ元とさせていただいております。
内容は全然違います。安心してください。
さて、おまけの内容にも少し触れましょう。
このおまけに登場する人物二人は、次に作ろうと考えている作品の主人公たちですね。一応名前とかも決めてはいるのですが、まだ書き始めておらず、これから変更があるのかもしれないことを踏まえて名前は意図的に出しておりません。
そして彼らのいう勇者とはいったい誰の事なのか。
もちろん「吸血鬼の夜明け」に登場した人物のいずれかです。将来そうなっちゃうんだね。
誰が勇者なのか、次回作で明らかにする予定ですが察しの良い方ならもうなんとなくわかりますよね。
はい、ではそんなところであとがきを終わりにしたいと思います。
あ、そうそう実は今ダイエット中なんですよね。
次回作が終わる頃に、何キロやせたかもあとがきで書けるといいな。
あと小説の勉強もいっぱいしなきゃなぁ。結局大人になっても座学が重要なんですよね。
回収できなかった伏線勿体ないなぁ、悔しいなぁ。
はい、いつまでも後悔というあとがきが続きそうなんで終わります。ここまでありがとうございました。
次回作をお楽しみに。
二〇二五年十二月三十一日




